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リンゴ飴。

 

 階段を降り、神社の境内から出ると、お姉ちゃんが露店で何かを買ってくれるという。

 お兄ちゃんは「やったぁ!」と言うと、すぐに露店の並びを目で追い始める。


「あの、あたしは結構です。朝ごはんも食べてきましたから」


 花咲はこういうところが何というか……礼儀正しいというか、子供らしくないというか。

 となると当然、


「ボ、ボクも朝ごはん食べたから」


 となる。

 しかし、そのお兄ちゃんはさっきからリンゴ飴の屋台にちらちらと視線が引っ張られている。

 そして、それを何とか悟られまいとするあまり、ぽかんとお口のチャックが甘くなってるよ。

 かわいいなー。

 ずいぶんと前からリンゴ飴を楽しみにしてたもんねー。

 いつでも食べられるってもんでもないし。

 するとお姉ちゃんが少しだけ屈んで花咲の目を見る。


「ミチルちゃん、私はね、ミチルちゃんのことを三番目の妹のように思ってるの。だからこういうところで遠慮されると寂しくなっちゃうな」


「そういうつもりじゃなかったんですけど……すみません……」


「ううん、謝らなくていいの。私のものはミチルちゃんのもの。ミチルちゃんの体は私のものだから。ね?」


 今我が姉がさらっとおかしい発言をしたが、当の花咲は特に深くとらえずに「はい」と承諾した。

 

 私とお兄ちゃんはリンゴ飴、お姉ちゃんと花咲はぶどう飴を選んだ。

 赤いリンゴ飴。

 それをこれまた赤いお兄ちゃんの舌がぺろぺろと一生懸命に舐める。

 何というかわいらしさだろうか。

 イチゴ味の唇に、リンゴ飴味の舌。

 甘い甘い甘い甘いぞー。

 もう見ているだけで糖尿病になりそうだよ。

 まるごと果実じゃないか。

 もし、五秒、いや三秒だけ時間を止めることができたなら、お兄ちゃんお口の外も中も味わい尽くすのに。


「花咲さん、ぶどう飴おいしい?」


「ああ。ちょっと舐めるか?」


「ふぇ!? あ、ううん! 訊いただけ! 訊いただけだからぁ!」


 自分の舐めたものを他人に薦めるとは……。

 しかしお兄ちゃんの反応が嫌悪感からくるものでないのは明らかだ。

 その証拠に顔がリンゴ飴みたいだよ。

 たぶん今ならどこを舐めても甘いんじゃなかろうか?


 それはさておき、


「お兄ちゃん、お兄ちゃんのリンゴ飴ってどんな味か舐めさせてよー」


「えぇー、同じだよぉー。同じリンゴ飴だよぉー」


「だ、だけどさ、ちょっと違うかも知れないじゃない? ね? ちょっとだけ、ちょっとぺろっとするだけ。あ、何だったらお兄ちゃんが私のをぺろっとしてくれてもいいし、あ、ぺろっとし合いっこしよっか?」


「な、何か今日のセリカちゃん変だよぉ? 何て言うか気持ち……気もそぞろって感じぃ」


 え、今お兄ちゃん、もしかして「気持ち悪い」って言おうとしてなかった?

 ちょっとぺろぺろ言い過ぎたかも知れない。

 少なくともお兄ちゃんのその顔には明らかに嫌悪感があった。


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