彼女が水着にきがえられない。
「こんなところで兄妹喧嘩か」
声の主は私の背後でちょうど着替え終わったところだった。
開いていたロッカーの扉に隠れて気づかなかったが、毎度毎度ヤツはとんでもない。
私はすぐに首を元に戻すと、正面からお兄ちゃんの目をふさぐ。
「な、何セリカちゃん?」
「毒だから」
「どく?」
目に毒。
学校指定のスク水。
それは別にかまわない。
「なあ花咲、その水着着るの大変じゃなかったか?」
「ああ。久しぶりだからちょっと手間取った」
その水着からはわがままなボディが野放しになっている。
『花咲』と書かれたゼッケンがこれ以上ないくらい主張してくる。
肉という肉がはみ出て、これはもうわいせつな罪に問われかねない。
「久しぶりって、どれくらい着てないんだ?」
「小二のときに海に行ってからかな?」
「小二? 今まで体育の時間とかどうしてたんだ?」
「休んでた。プールの塩素アレルギーだって言って」
「何でまた……」
「いや、その頃から胸がな……」
「胸って、小二だぞ?」
「うん。ちょうど今のセリカくらいにだったかな」
「ちょ、ちょっと待て。ふざけるな。ここまで育てるのに私がどれほど苦労したと思っているんだ」
「あたしだって散々苦労しているんだ」
まあ、小二の時分から他を圧倒するような成長は男子のからかいの対象になる。
こないだ、胸を押さえてあったタオルがずれて、「花咲、すごい胸筋」と話題になってたからな。
うちの学校の男子がピカイチでバカでよかった。
ただ、「ちょっと触らせてくれ」とか言われて、それを拒むのに難儀していたようだった。
しかし、そんな苦労もすべては女子だとカミングアウトできずにいる自分の責任。
そんな苦労を除いて条件をフラットにして考えると、やはり花咲の体は……。
「卑怯だな」
「ひ、卑怯?」
あと卑猥だ。