兄が水着にきがえたら。
更衣室とは更衣という行為をするところ。
水着は肌に直接着るもの。
つまり、水着を更衣するためには一度は絶対に裸にならなければならない。
絶対にだ。
私の隣のロッカーではお兄ちゃんがてるてる坊主のように首から下に着替え用のラップタオルをすっぽりかぶっている。
私は自分の意識の九十五パーセントをそちらに傾けながら、残りの五パーセントで自分の着替えを進める。
お兄ちゃんがもぞもぞ動くと、間もなくしてラップタオルの裾からプリーツスカートがパサリと輪っかになって落ちる。
一度、タオルの中に頭をうずめたかと思うと、今度は襟のところがレースになったピンクのタートルがスカートに重なり、
そのあとに、襟のところにリボンをあしらったラベンダー色のキャミソールが続く。
どれもこれもかわいいな……。
このじれったいというか、もどかしいというか、あざといというかが、むやみに私の興奮を掻き立てて仕方ない。
何たって、今あのラップタオルの下は間違いなく全裸なのだ。
全裸なんだ!
もしここで私がうっかり「おっと」とつまづいた拍子にあの筒タオルに手をかければ、いともたやすくこの世の神秘を目の当たりにすることができる。
しかし、このような公共施設で、このような美しい存在に、そのようなことをしてしまえば、色々と面倒なことになってしまうので絶対にしてはいけないのはわかってる。
そもそもそんなことをするのは素人だ。
少年漫画の中だけで十分だ。
私の本当の狙いは、『脱ぐ』ではない。
『着る』の方だ。
水着を着るためにはどうやったって下からはかなければならない。
その際、パンツをはくのと同じ理屈で、前に少し屈んでからに足を一本ずつ通すことになる。
その際、お兄ちゃんは必ずこちらに背中を向ける。
つまりお尻を向ける。
つまりお尻が見える
このタオルごしのお尻は、スカートごしに見るパンツなど比ではない。
あれはもう神々のデザートだ。
しかも。
今、お兄ちゃん足元に水着はない。
ということは、まだロッカーの中あるということだ。
その正方形のコインロッカーはちょうどお兄ちゃんの胸の高さにある。
そうなると、現在素っ裸であるお兄ちゃんは、タオルの下から手を出して、ロッカー内の水着を取り出さなければならない。
そうなると、必然的にタオルの裾が持ち上げられ、その肌の約六十六パーセントは晒さなければならなくなるだろう。
さてどうするお兄ちゃん?
私は自分の水着に片足を突っ込みながら横目で今か今かとその瞬間を待つ。
しかし次の瞬間、私の期待をはるかに超えたものがお兄ちゃんの足元にパサリと落ちた。
なんと、ラップタオルそのものが私の目の端で輪っかになっている。
これは何たる、新春大売出し!
お年玉付き初夢福袋!
お客様大感謝セール!
私は一生の後悔をしないために、一切の躊躇なく顔をあげる。
この瞬間のすべてを記録にも記憶にも残そうと、意識の百パーセントを傾ける。
そして、それを見た私は呆然となった。
そこからふた呼吸ほど置いて、ようやく疑問が声となって喉から出た。
「お兄ちゃん、その、えと、それは?」
最初は何のことかわからない様子で小首を傾げたお兄ちゃんだったが、私がその肌を覆っているワンピース水着を指差したことで、「ああ」と理解した。
「ボク、着替えるのに時間かかるから、今日は服の下に着てきたんだよぉ」
「え、お兄ちゃんはいったい何しにきたの?」
「え、お、温水プールに入りにだよぉ……」
そういうのは何て言うか、そういうのは……。
「卑怯だよ!」
「ええー!」
私がここに何しに来たと思ってるんだ!




