2-01 いざ学問の街へ!01
「カズ、気をつけろよ! 知らない人にはついて行っちゃダメだからな!!」
「そっ、そんな子供に向かって言うような言い方しなくたって……」
港町ブラウの転送門施設。ホールに大きく声を響かせ手を振る同居人へ、津島は顔を赤くさせつつ小さく手を振り返す。ホールといえどそこに天井はない。それは転送門を中心に囲むようにして石レンガを積み重ねただけの環状壁だ。手を下ろし、受付にて受け取った木製の札を片手に転送門と向かい合う。
その隣に、一人の男が並んだ。
「カズ君、そんなに力入れたら酔っちゃうよ。リラックス、リラックス」
気の抜けた笑顔とともに津島のおでこをつついた彼は、前日の夕方に同行すると名乗りを上げた軍人 フォーンである。現在津島のリュックの中にも、彼が護身用にと貸し出した一本の短刀が入っていた。
彼はいつまでも転送門をくぐろうとしない津島へしびれを切らしたらしい。木製の切符を片手に転送門へ足を踏み出しながら口を開く。
「じゃあソラくん、一人になっちゃうけど気をつけてね」
「い、いってくるね。寂しくなっても泣いちゃだめだよ!」
「うるさいな、泣かないよ!!! ほら、早く行けって。置いてかれてるぞ!!」
やかましい笑顔に見送られながら、津島は覚悟を決め門の中に——正しくは門に張られた膜の中へと足を踏み出した。白黒のマーブル柄をしたその膜が使用者の持つ切符に反応し、目的地まで道をつなげる。
一瞬の浮遊感。直後コツと感じた硬い感触に足を預ける。おっかなびっくり目を開けた津島はまず瞳だけであたりを見渡した。光沢のある白に、流水紋を彷彿とさせる藍色の曲線があらゆる向きに彫り込まれた壁。その模様はあらゆる意味を込められたものだったが、もちろん今の津島には知りようもない。天井を見上げると、眩しく光りを湛えるシャンデリアが視界に入り込んだ。同じような札を持ち、警備している人の視線に気がつくことなくその装飾に引き込まれる津島の耳に、ふと苦笑まじりのフォーンの声が入る。
「カズ君、こっちこっち。上ばかり見ていると首が後ろにおちちゃうよ」
声のした方向へ顔を向けると、彼は壁に埋もれるようにして設置された土産屋にて何かを購入した直後のようだった。あわてて駆け寄るものの、興味はその店の中へ移る。
「カズくんもなにか買っていくかい? この街では貴重な、事前手続きをしなくても買い物ができるお店だよ。みてみて、このキーホルダー。この街限定キーホルダーの新デザインなのさ。これがすっごく欲しかったのだけど、なかなかこの街にくる機会が無くて」
嬉しそうにキーホルダーを見せびらかす目の前の男性に、津島は目を丸くする。
「まさか、フォーンさんが言ってたパナーダへの用事って」
「もちろん、このキーホルダーさ! さあ、買うもの買ったし、まずは種を買う手続きをしに行こうか!」
機嫌よくキーホルダーを鞄へしまい歩き始めたフォーンへ、津島は呆気にとられつつ後を追う。180を余裕で越える大きな男性があんなキーホルダーのためだけについて来てくれたのだとは欠片も予測していなかったのだ。
土産屋のすぐ傍にある両開きの門を開けて外へ足を踏み出す。直後、津島はそこに広がる天の狭い景色へ感嘆の声を上げた。
「すごいよね。この高層建築は学問と研究の進んでいるパナーダだからこそできるものさ。人が多いから気をつけて。まず、種を買うための手続きをしに中央役所へ行こう」
フォーンに習って受付へ切符を返却した津島は、後に続いて道へ出る。
学問の街 パナーダは、国境をなぞるようにしてそびえる山の麓にある。土地の高低差を無くした平坦な地に密集した高い建物の間を貫くように、街の中央を十字に区切るのは特殊な舗装を施された太い道。そのコンクリートのような足触りに津島は浮足立つのを感じた。構造や形式に統一性のない建物も、ひどく難しい顔をしてさかさかと歩く頭の堅そうな人たちも、故郷である日本を彷彿とさせるものばかりだったのだ。
パナーダにある独特な決まりについては、津島も昨日畑の主人から説明を受けていた。この街に多くある図書施設の使用であったり、研究成果の購入であったり、行動をする際にパスを持っていない人は、まず全て街の中心にある役所に申請をだし許可が降りるまで待たなくてはならないのだそうだ。
時折道を行く人に肩をぶつけられながらよろよろと歩いていた津島に、ふとフォーンは声をかける。
「そういえば待ち時間はをどうするかってもう決めてる? 決めていないんだったらこの際、街の外に出てもよさそうだけど」
「あっ、決めていないです。すみません。……この街にも畑とかあるんですか?」
「ううん。パナーダの外は畑とか保育施設とかよりも実験場とか、素材の採取所かな。でも僕が言いたいのはそういうのじゃなくて、ちょっと離れたところに花の街って呼ばれる観光地があるんだ。生活基準は全部花で……っと、この話はまた後でね。ついたよ。ここが役所さ」
フォーンに合わせて津島も立ち止まり顔を上げる。そして、正面にそびえ立つ威圧感のある建物に息を飲んだ。
この街のシンボルとも言える役所は、他の建物よりも低く横に長いどっしりとした造りになっている。石造りの壁の装飾には、どこかの美術館を彷彿とさせるような彫刻が施されていた。低く段の多い階段を上がり——この階段も非常に広い。大人が両手を伸ばして5人は並ぶことができるだろう——開け放たれたお城のような門の間をくぐり抜ける。内部の彫刻もひどく豪華であった。それが石であることを忘れてしまいそうになるほどなめらかに曲線を描く柱に支えられているのは、吹き抜けの天井。その元にポツンと置かれた案内所には、女性が一人座っている。赤銅色の絨毯が敷かれた廊下を先にたったフォーンが「ついてきて」と囁いた。
長く続く白の廊下には、署ごとに分けられた部屋の扉が並んでいる。人の足音と、服のこすれる音、そして扉の開け閉めをする音しか聞こえない静まり返った廊下で、津島は背筋をそっと伸ばす。
迷いなくフォーンが一つの部屋の扉を開け、その後に津島も続く。部屋の中はある程度賑やかであった。その植物の販売を担当する部署が集まった部屋の中では市役所のような受付がずらりと並んでいる奥で、人が忙しそうにせかせかと動いている。
「僕はここで待っているから、カズ君ひとりで行っておいで。二人で並んだってお邪魔でしょ」
柱によりかかりひらりと振られた手に、心細さを感じながらとられならも津島は頷く。そう、本来ならばこの役所にまでも、ひとりで来る予定だったのだ。甘えてなんていられない。勇気を振り絞ってカウンターに並び、やがてやってきた順番にお姉さんへ声をかける。
「種の、購入をしたいのですが!」
津島のその上ずってしまった声には触れることなく、優しげな笑顔を顔に貼り付けた受付の女性はいくつかの言葉共に数枚の書類をとりだした。案内通りに慣れない字でその書類に所属国と畑の場所、責任者と受取人の名前を書きこみ、畑の主人から渡されていた証明書を提出する。
そうして書類チェックを終えた受付のお姉さんはにこりと笑って一枚の札を差し出した。
「照合までしばらくのお時間を頂きます。照合が済みましたら、この札にてお知らせいたしますので少々お待ちくださいませ」
「あっ、はい。わわ、わかりました。ありがとうございます」
津島は礼を言い、震える両手で札を両手で受け取る。受付から離れて小走りでフォーンの元へ戻ると、彼は柱から背中を離して笑った。
「お疲れ様。上手くいったかな?」
「多分大丈夫です。う、上手くいきました! あ、あの。照合が終わるまで、街の外にも行ってみたいですが、その前に……図書館に行きたいんです。行ってもいいですか?」
「うん? 全然いいよ。僕に了承とろうとしなくてもいいさ。それにしても図書館って。なにか調べたいことでもあるのかな?」
「はい。少しだけ。図書館利用にも申請が必要ですよね」
「うん。少し待つけど大丈夫?」
その問いに津島は迷わず頷く。学問の街と呼ばれる場所まで来ておいて、調べ物をしないというのは勿体ない。元の世界へ戻る方法を、今は少しでも早く手に入れたい。と。
元の世界に帰って、昨日の嫌な感覚からもさよならだ。元の世界に帰れば、元の自分にまた戻れる。
ウォルノール国『パナーダ』は、縦に広い学問都市です。
国内一規模の大きい学校があり、さまざまなことに関する研究も他の街より進んでいます。
この街の外に拠点を置く研究家も居ますが、
研究の成果に関する発表会は基本この街で行われる上資料がそろっているので
大体の研究家はこの街に住んでいると言って間違いではありません。
大きな声で喋りながら道を歩くと、うるさいと石を投げられ魔法をぶっ放される
静かで怖い街だったりします。
特産品は特に無く、研究成果によって作り出された最新鋭の道具がよく売り買いされています。 気温は少々高め。湿度も低いです。
街の外は比較的資材が豊富で、実験に使われる材料などを採取しに行く研究員の姿がよく見られます。
南側離れた場所に位置する巨大な森は『パナーダの森』と呼ばれ、入ると確実に迷う規模からわがままを言う子供への脅し文句として「パナーダの森に放り込むよ」などと使われることが多かったりしま
ウォルノール国『パナーダ』は、縦に広い学問都市です。
国内一規模の大きい学校があり、さまざまなことに関する研究も他の街より進んでいます。
この街の外に拠点を置く研究家も居ますが、
研究の成果に関する発表会は基本この街で行われる上資料がそろっているので
大体の研究家はこの街に住んでいると言って間違いではありません。
大きな声で喋りながら道を歩くと、うるさいと石を投げられ魔法をぶっ放される
静かで怖い街だったりします。
特産品は特に無く、研究成果によって作り出された最新鋭の道具がよく売り買いされています。 気温は少々高め。湿度も低いです。
街の外は比較的資材が豊富で、実験に使われる材料などを採取しに行く研究員の姿がよく見られます。
南側離れた場所に位置する巨大な森は『パナーダの森』と呼ばれ、入ると確実に迷う規模からわがままを言う子供への脅し文句として「パナーダの森に放り込むよ」などと使われることが多かったりします。




