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言の葉の森  作者: 梦埜
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新☆ツリーハウス



   896年6月中旬



  ――ギシ…、ミシ…


 このツリーハウスも大分傷んできているなぁ。

 僕はツリーハウス内にある階段を登り自分の所有する部屋に向かいながら、そろそろ補強時かと考えた。

 このツリーハウスの存在を知る、相方はまだ到着していない。家で手伝いをさせられているのだろう。朱呑の持っている能力はそういったことに少しばかり便利だから。使わされる本人としては、堪ったもんじゃないだろうが。まぁ、もうお昼も過ぎた時間帯だし、そろそろ解放されるのではないだろうか。

 あれやこれやと考えている間に、どうやら部屋の前まで来ていたようだ。さて今日はなんの本を読もうか、と考えながらドアノブを回すと―――


  ――ガコンッ


 なんだかもの凄く嫌な音が聞こえた。僕はドアノブに伸ばした方の手を見てみると、ドアノブが握られている。ただそれはドアにくっ付いていない状態の単体の物だ。ドアに目をやるとドアノブが合ったらしい場所には、ポッカリと穴が開いていた。

「……遅かったかぁ~」

頭に手をやり、朱呑が早く来ることを祈りながら、どうやって部屋の中に入ろうか考えることにした。



* * *



あーぁ、いくら私の能力が庭の水やりetc…に便利だからって、さすがに扱き使い過ぎじゃね、ママン?

私は少し駆け足になりながら街の近くにある森の中のツリーハウスへ向かった。自然と読書を愛する季杜のことだ、ひと足早くツリーハウスに到着していることだろう。

ようやく目的の場所へ着き、梯子を登ろうかとしたところで、ふとあることを思い付き実践することにした。


「山あぁー!!!!!」


 叫んだ後しばらくして季杜の呆れたような、困ったような顔が窓から出てきた。

「やぁこんにちは、しゅのん。僕はこの場合、『川あぁー!!!』と叫んだ方が良かったのかな? …しゅのん?」

「ん? あぁゴメン。なにも反応は返ってこないだろうと思ってたのに、顔が出てきたからビックリしただけ」

 それもそれでどうなんだろうと思うが気にせず梯子を登って行った。

ツリーハウスの中に入って季杜の方を見ると、まだ困ったような顔をしていた。今日はもしかしたら珍しい出来事の大安売りなのかもしれない。どうしたのかと思い、季杜を促してみると、部屋へのドア(と、その付属品)が壊れたとのこと。そういえば、最近床からよく軋んだ音が聞こえていたから危ないかなとは思っていたが、まさかこんな形で被害がくるとは。まぁ床が抜けなかっただけマシか。



* * *



「で、外に出てどうするの?」

「あれ? 季杜は私の能力知らなかったっけ??」

 あの後、私たちはツリーハウスから出て、下から見上げていた。

「知ってるよ。今日もそのせいで家の手伝いをしてて来るのが遅かったんでしょ」

「じゃぁついでにこのツリーハウスを作った時のことも思い出してみようか」

 私は季杜に言いながら、ツリーハウスの建っている木へ手を滑らせた。

 このツリーハウスは3年ほど前に私自身の能力で作ったのだ。私の能力は火・水・木・風を操ることができ、使い方によってはとても便利なのだ。

 季杜はと言うと、ようやく私がやろうとしている事に気付いたのか、あぁ…と頷いた後、慌てて私の動作を止めてきた。

「ちょっと待った、しゅのん!!! 作り変えるにしても中に置きっぱなしの本とか家具とかを運び出さなくちゃ!」

 あ、忘れてた。まぁ―――

「それは風と木さんたちに頼んどいてよ。季杜の能力使ったら話せるでしょう?」

「僕の能力は植物や動物たちと話せることだけど、風とは話せません!」

「んー、じゃぁ仕方がない。一旦、家具類を外に運び出してからやりますか」

 私たちは一度降りた梯子をまた登りなおした。

 ツリーハウスを作り、家具を木へ上げるために使った運び機―ただ単に井戸の水汲み桶の仕組みを応用し大きくしただけの物だ―は定期的にロープなどを張り替えているので、今でも使える。今回もそれを使い、本などの小さめな物を下へ運んで行った。棚などの大きな家具類は風や木を操って下へと運んで行った。

 そうしてようやく全ての物を運び出したところで、再度ツリーハウスの建て替えへと集中する。さて、今回はどのような内部構造にしようか。今まではお互いの部屋で個々に本棚を所持して何か借りたい本があったら、相手に断って借りると言う感じだった。が、面倒臭い。しかも、断る相手がくるまで心置きなく本を読むことができない。前々回、断りもなく人の本を読んでるやつがいたが。(これは朱呑が季杜の部屋に本を置いて行ってしまったのが原因である)

「よし、決めた! さあさあ風さん、木さん。私の思った通りに動いてね!」

 と言う訳で、今回のツリーハウスは本棚の部屋を設けよう。



* * *



 ツリーハウスの建て替えから数日が過ぎた。

季杜はツリーハウスまでの道のりを歩いている。今日はあいにくの雨模様。こんな日は室内で静かに読書に励むのが1番である。このたびのツリーハウスには本棚の部屋が新たに作られて、僕はその部屋をとても気に入っている。なって言ったってその部屋に一歩踏み入れると、たくさんの本たちによって取り囲まれるのだから! あれはなんとも言えない快感だ。

季杜はようやく到着した新しいツリーハウスを見上げ、これから訪れるだろう自分の至福の時間を今か今かと心待ちにして一段ずつ梯子を登って行った。

そしてようやく本棚の部屋の前へ来た。目の前にある扉を開けるとそこはどちらを見ても本一色の世界。

「さあ、今日はどんなの本を読もうかな!」

 僕は抑えていた気持ちを一気に放出し、扉のノブに手をかけ勢いよく開け放った。

 まず目に飛び込んできたのは本棚に使っている板の木目。それ以外に視界に映ったのは僕が読破済みの本と、本棚の部屋に置いてある丸机と、その上にある1冊のノートだった。

 そのノートは本棚の部屋から本を持ち出す際に、誰がいつ本を持ちだしたのか把握するための物である。ノートの表紙を捲ってみると、たくさんの本の題名と朱呑の名前がぎっしり。横に書いてある持ち出し日を見てみると同じ日付が、ずらっと。

 普通だったら大量の本を持って行かれ、人の至福の時を掻っ攫って行った相手に怒りが湧いてくる物だがこの時は違った。

「……不本意ながら僕とそれほど変わらない身長と体格のはずなのに、一体どこにあれだけの本を運び出す力があるのだか…」

 本棚の部屋には2mほどの高さの本棚が4つ置いてある。僕が最後に目撃した時、その全ての本棚に本が収まっていた。僕が読破している本はその本棚1つ分の半分ほどの量だ。

「…ホント、あの子は不思議だらけだ」

 僕は読破した本を再度読み直すことにした。本は良い。同じ本を2度読んだとしても、1回目とはまた違った見方ができるからだ。

 僕は最初は雨の音を聞きながら本を読んだいたのだが、次第に音は聞こえなくなって行き意識は本の世界へと引き込まれて行った。




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