夢見る冷遇令嬢の大逆転
ルリリファは、幸福を夢見る少女だった。
夫を愛して、夫から愛されてる、そんな生活を夢見ていた。
伯爵家の長女なので、もちろん現実は知っている。父親にとって自分は道具であり、結婚は政略であることを。それでも信頼関係というお互いを信じて頼りにしあって、安心と親和の打ち解けた心地よい関係を築ける可能性を願っていたのである。
それというのも、ルリリファはカペラ伯爵令嬢であっても家族の一員ではなかったからだ。
実母はルリリファの誕生時に亡くなり、すぐさま父親は後妻をむかえた。そして後妻はカペラ伯爵家の後継者となる男児を産んだのであった。
家を継承する男児は、どの貴族家にとっても重要である。だから父親と継母と異母弟との三人で家族の輪を形成したのは、ある意味しかたないことだとルリリファは寂しさと虚しさを飲み込んだ。
薄遇されたわけではない。
伯爵家の令嬢としての生活と教育はきちんと与えられた。ドレスも宝石も不足ない。使用人たちも伯爵家のお嬢様として仕えてくれた。ただ、愛情を与えてもらえなかっただけであった。
それがルリリファには辛かった。寂しかったのである。
外出するのは父親と継母と異母弟の三人で。
居間で寛ぐのも三人で。
お喋りするのも三人で。
季節の行事や遊びを楽しむのも三人で。
三人だけの絆に、ルリリファの席はなかったのである。家族の優しい日々の隣で、幼い頃のルリリファは自室に差し込む光の淵で俯いて一人でひっそりと泣くことしかできなかった。
一人ぼっちのルリリファは、箱に蓋をするみたいに寂しさを心に沈めた。親に守られた安全な場所で、悲しみを悲しみとして泣くことのできる幸福をルリリファは知らずに育ったのである。
描かれた肖像画ですら三人は家族として仲良く微笑み、やや離れた位置にルリリファがポツンと立っているものであった。
ましてや目の前で、継母が異母弟を抱きしめて可愛がる姿を見てしまえば、まだ幼かったルリリファが自分も愛されたいと切望することは自然の流れであった。
どれほどルリリファが泣いても嘆いても明日はやってきてしまうのだ。まるで散る花の、崩れはじめた花弁が火に炙られてチリチリと皺だみ腐食の茶色い痣のような色素が沈殿してゆくみたいに、ルリリファの中で翳を遺して。
だから。
ルリリファは未来の婚約者に恋焦がれた。
いつか自分を愛してくれる人があらわれる。
手を握ったり、抱きしめてくれる人がきっと。
たぶん、その人は夫となる人だとルリリファは思った。貞節と節度ある振る舞いを求められるのが貴族の令嬢だ。ルリリファには夫以外の選択はなかったのである。
愛を願うのは贅沢かも知れない。
だが、ルリリファが努力すれば寄り添え合える関係になれるのでは、とずっとずっと祈っていたのだ。
そうしてルリリファが15歳になった時。
父親のカペラ伯爵はルリリファを婚約させた。
相手は、26歳のディオム・アレクシア伯爵であった。
アレクシア伯爵家は古く由緒正しい家柄で、祖は王国の建国王の末弟であった。末弟は可もなく不可もない立場を望んで権力争いから遠のき、伯爵家の初代となった穏やかな人柄の人物だった。
家格があり、領地も豊かな伯爵家の当主であるディオムであったが令嬢からの人気はなかった。
少年の頃に馬車の事故で顔面に大きな傷があり、片足がやや不自由で杖をついでいたからだ。
財産狙いの令嬢からは鬱陶しいほどにアプローチがあったが、アレクシア伯爵家に不利益な結婚を結ぶ気はディオムにはなかった。
そして、ディオムとルリリファの婚約が結ばれた。
共同事業によるアレクシア伯爵家とカペラ伯爵家との政略であった。
ルリリファは天にも昇るほどに胸を躍らせた。
願い続けた未来の夫である。
ドキドキと心臓を高鳴らせて、ディオムとの初めての顔合わせの場に訪れたのであった。
場所はカペラ伯爵家の庭園だった。
早咲きの蔓薔薇が柱を這って、花が咲き溢れた花籠みたいなガゼボでルリリファはディオムと向かいあっていた。
冬の匂いを含んだ風が吹く、浅い春。
季節の境界線が曖昧で、冬と春が揺蕩うような日差しに暖かい色が滲み出る日だった。
「これは政略結婚だ。おまえを愛することはないが、不自由はさせない。俺を煩わせることなく、また、未来のアレクシア伯爵家の夫人として相応しい行動をするならば多少の我儘も許してやろう」
と、ディオムは事務的な口調で言った。
初対面から、眼差しで、仕草で、声で、全身でディオムに好意をあらわしているルリリファに対して、ディオムは冷ややかな態度であった。
ルリリファが息を呑む。吸い込んだ息を吐き出せない。驚愕で、流れる血が凍ったように全身が固まった。膝の上で組んだ指先が白くなる。その指に自分の爪が食い込んでいるのに痛みを感じなかった。
言葉を失い、顔色を悪くするルリリファを気遣うこともなくディオムが立ち上がった。椅子の脚が床を擦る。耳障りな音が響いた。
ディオムは、顔の傷を蔑む令嬢たちや財産狙いの令嬢たちには慣れていたが、ルリリファが自分に向ける純粋な恋慕は経験したことがなかった。ゆえに内心の狼狽を隠すために無表情となっていた。
「俺は忙しい。用件は伝えた。来月は王宮の夜会だ。アレクシア伯爵家とカペラ伯爵家との婚約を周知する良いタイミングだ。装飾品を贈ろう。俺の婚約者として着飾るように」
言葉を投げて、ディオムは身を翻した。
つまりディオムは、ルリリファの純度百パーセントの恋心に臆して逃げ去ったのである。
そうして、ルリリファが幼い頃から夢見てきた婚約者との初顔合わせは10分で終了したのであった。
たったの10分。
政略結婚だと理解していても、お互いに歩み寄ることを願っていたルリリファにとって残酷すぎる10分であった。
それでも、ルリリファは諦めなかった。
「泣いてはダメ……」
と、涙を拭ってルリリファは拳を握った。
愛は贅沢とわかっていたはず、と自分に言い聞かせて何とかディオムとの距離を縮めようとルリリファは考えた。
とはいえ貴族の令嬢のルリリファには自由が少ない。父親の管理下にある生活なのである。
アレクシア伯爵邸へ不躾にも押しかけるなんて貴族教育を受けたルリリファにはできなかったし、個人資産がないのでディオムへのプレゼントを購入することもできない。ディオムへの贈り物はカペラ伯爵家の予算から出されるものなのだ。
なのでルリリファは、悩んで悩んでディオムに手紙を書くことにしたのである。
ここでルリリファは、さらに悩んだ。
家庭教師に習った作法通りの手紙ならば書くことができるが、問題は内容だった。
ディオムのことをほとんど知らないので教えて欲しい、と手紙に書くのは要求的で好ましくないのでは、と。
では、自分のことを書くのもディオムのアッサリとした態度から押し付けがましいのでは、と。
自己肯定感の低く蝶のように繊細で気弱なルリリファは己を主張するのは苦手であった。くわえて形式以外の個人的な手紙を書いたことはなかったし、相手に要望をすることも不慣れであったのだ。
義母には相談できない。使用人たちからは一線を引かれている。助言を仰げるような親しい友人もいない。
八方塞がりとなったルリリファは、ぐるぐると出口のない迷路のように頭を悩ました挙句、知恵熱を出して寝込んでしまった。
そして目覚めたルリリファは、ちょこっと前世を蘇らせていた。
前世と自覚するほどの記憶はなかった。
ただ、書きたいという思いが引き金となったのか、前世の小説を思い出したのである。
そのことをルリリファは閃きと捉えた。
これぞ神様のお導き。
手紙を書けない苦悩にピカッと発想が降臨したのだと、ルリリファは紙とペンを手に取った。
無意識の領域で思考が直感となって、小説という形となったのだの考えたのである。
忘れないうちに、とルリリファは猛然と小説を書いた。
前世の小説と一言一句まで同じではない。無自覚に、辻褄が合うようにこちらの世界の歴史や風習や名前などを変換して組み込む。
「困ったわ、封筒に入らない」
書いた紙は百枚以上になったため、ルリリファは紙をクルンと丸めて紐で縛った。紐の上からリボンで結び、リボンに花の小枝を挿す。
花弁が蜜蝋のような光沢がある蝋梅の花の小枝であった。花色は蝋を引いたみたいな半透明の淡黄色で、香りは甘く清々しい。俯き加減に慎ましく咲く花姿が典雅で美しい花である。
「大好きな蝋梅の花がまだ咲き残っていて良かった。そろそろ花も終わりだから」
そうしてルリリファは、熱の残り香で判断力がナナメってしまっていたこともあって、勢いのままにその小説を有り得ないほど分厚い手紙としてディオムに出してのであった。
「私、頑張りましたわ……」
達成感で高揚しているので、手紙と長編小説は別物でありイコールではないということに気付いていない。
一気に長編小説を書き上げて疲労困憊となったルリリファは、よろよろとベッドに戻る。
トントントンと眠りの長い螺旋階段を下りてゆき、ルリリファは気分よく眠ってしまったのだった。数時間後、正気にかえって布団の中でダラダラと冷や汗を流すことになるとも知らずに健やかな眠りであった。
一方、ディオムは。
届けられた手紙(内容は長編小説)に眉を顰めていた。
初顔合わせの自分の態度は最悪だった。
ルリリファは顔色を蒼白にしていたし、もしかしたら不満と苦情を満載にした手紙かも知れないと想像すると憂鬱であった。
「大丈夫だって、ディオム。蝋梅の花が飾られているから」
折良く交友と商談を兼ねてアレクシア伯爵邸に訪問していた親友のレオールがディオムの肩を軽く叩く。レオールは公爵家の嫡子であった。
「蝋梅の花言葉は、慈愛とか優しい心とかだから恨み辛みの手紙ではないと思うよ」
「……そうだといいが。最近、隣領と水利権で揉めていて頭が痛いのに、婚約者にも文句を唱えられたら胃がやられる」
「隣領と?」
「言いがかりだ。こちらが開発した池を隣領が使わせろと言うんだ。父と隣領の前領主は従兄弟だったから、馴れ合いのなあなあ関係で物事を有耶無耶にしてきたが今は俺が当主だ。きっちりと線引きをしたら隣領が激怒したんだ」
溜め息を吐いたディオムが手紙を読む。
一枚目。
二枚目。
三枚目。
手紙の枚数が増えるごとにディオムの眉間の皺が増加して大峡谷になる。女性らしい柔らかな細い文字ではなかった。記録用の太いペン先を使った乾いた濃い文字であった。
「……これは手紙ではない。おそらく小説だ。この小説を読んで何かを察しろという遠回しの暗示や誘導なのか?」
「へぇ、僕も読んでいいかい?」
「頼む。話は惹き込まれるほど面白いが、こんな小説は読んだことがない。意見を聞かせてくれ」
四枚目。
五枚目。
ディオムとレオールは小説の世界に水に沈み込むように没入して熱中する。
「ディオム、早く次のページをくれよ」
「ちょっと待て。良い場面なんだ、何回でも読みたい」
「なぁ、この小説を写してもかまわないか? 家族にも読ませてあげたい」
「ルリリファ嬢の了承無しに書写するのはダメだ」
きっぱりとディオムは断るが、レオールは口が上手かった。
「ディオムはこの小説が送られてきた意味を知りたいのだろう? 僕たち二人で悩むよりも多くの意見を参考にした方が正解になるのではないかな?」
確かに一理ある。納得はできるが、ディオムは首を振った。
「ダメだ」
「うーん、だったらディオム。昔の貸しをこの小説と交換してくれない?」
質問形だが、レオールの眼差しは否定を許さない強さがあった。ディオムは言葉を探すが、反論できる材料がない。それほどに昔の借りはディオムにとって大きかったのである。
レオールの前で読むべきではなかったと自分の迂闊さをディオムは深く後悔した。
「…………わかった」
こうしてルリリファの関知しないところで、前世の『全世界が感動した』というキャッチフレーズの超人気小説は静かに人から人へ、王家まで広がり始めたのであった。
しかも広まる理由の表向きは、何故この小説が手紙としてディオムへと送られてきたのかという婚約者の真意を汲み取ることが目的だった。なので、ディオムの元へは推察という名前のファンレターが山のように連日にわたって送達されるようになってしまった。
レオールは小説の作者名は伏せていた。それこそ勝手に名前を公表できない。まだ婚約したばかりでディオムの婚約相手も社交界で周知されていなかった。必然的にディオムへとファンレターは集中してしまうことになったのであった。
小説の発信源が公爵家のレオールだったので、高位貴族と王族がメインとなったファンレターである。おろそかにはできなかった。
そして。
ファンレターの返事と日常の仕事でディオムは多忙を極めて、初顔合わせの失敗の挽回をする機会がないままに、王宮夜会に二人で出席する日になってしまったのだった。
澄み切った太古の闇色みたいな夜空には、天空の神々が残した足跡みたいな星々が輝いていた。
地上では、王宮が燦然と燦めいている。夜の灯りは財力を示す。光の絶えない王宮は、王国の繁栄する国力そのものであった。
ルリリファはチラリと隣に立つディオムを視線を流した。
胸にはディオムから贈られたエメラルドとダイヤモンドが葉と花となって咲いていた。本物の花も毎日届き、添えられたカードには「ルリリファ嬢へ」とだけであったがルリリファは嬉しかった。
カペラ伯爵家では用事のある時にルリリファは名前を呼ばれるのみである。
花とカードは毎日だった。
だから、毎日ルリリファは名前を呼んでもらえているみたいで幸せだったのだ。
ただ、あの手紙のことに欠片も触れてこないディオムに不安であった。
思案しても自分から尋ねるなんて気弱なルリリファは難しかった。
ディオムはディオムで、手紙をレオールに渡してしまったことが後ろめたくて言い出せない。
それとなくルリリファとディオムは様子を伺いつつ、チラチラと物言いたげにお互いの顔色をコッソリと探る。
コッソリと視線を向けているのは周囲も、であった。しかし周囲の人々は熱量が異なる。
ディオムの婚約者ということはルリリファがあの小説の作者!? とキラキラとした視線であった。
高位貴族たちはジリジリとルリリファへと距離をつめている。
王座の国王さえもソワソワと腰を浮かしかけている状態であった。
「ディオム様」
「ルリリファ嬢」
思いきって発した声は同時であった。
「あ、どうぞ」
「いや、ルリリファ嬢が先に」
「ルリリファとお呼びくださいませ」
「では、ルリリファ」
「はい。ディオム様、何でしょうか?」
「その、今夜は星が綺麗だね」
手紙のことを言いたいのに言えず、ディオムは天気の話題に逃げる。
「はい、ディオム様。月も綺麗です」
ルリリファも無難な天気に逃げた。天気の話題は当たり障りのない安全安心なので、手紙のことを明白にせずあやふやのままディオムとルリリファはヘラリと笑いあう。
「昨日は風が強かったね、ルリリファ」
「明日は小雨みたいです、ディオム様」
発展性のない会話だが本人たちは真剣である。
その時。
「お前のせいだっ!!」
と叫んで、ディオムに向かってしゃにむに突っ込んでくる者がいた。隣領の領主であった。
杖をついているディオムは咄嗟に避けることができない。
ルリリファが飛び出した。
ディオムを身体で庇う。襲いかかってきた隣領の領主とルリリファが悪夢のごとく重なった。
ドンッ!
ナイフがルリリファの腹部に突き刺さった。
「キャアアアァァ!!」
貴婦人たちの悲鳴が響く。
警備の騎士たちが隣領の領主を取り押さえた。隣領の領主が喚く。
「俺は悪くない! 父上も家臣も俺が無能だと失望するが、俺のせいじゃない! 水を寄越さないディオムが悪いんだ! 親戚なのに融通を利かしてくれないディオムが全部悪いんだ!!」
「卑劣な! お前こそが悪党だっ!」
駆けつけたレオールが殴りつける。
「よくも僕の女神を! ルリリファ嬢は小説の女神だぞ! 許さん! 極刑にしてやるっ!!」
ルリリファは、陸に打ち上げられた人魚みたいに力なく床に横たわっていた。血が床に滴った。みるみるうちに顔から生気が失われていく。
ゆっくりとパンドラの箱が開いた。
ルリリファは霧に包まれたかのように認識が揺らぎ、混濁していった。
視界が点滅する。
手足が冷たい。
呼吸がコントロールできない。
歪み、光と闇の境界線が軋んだ。
意識が低下して混沌とするのと反比例するみたいに、ルリリファの心の奥底で封印されていた気持ちが泡のように浮上する。縺れて、音となり、言葉となった。
「……嫌い」
ルリリファが声を絞り出す。
「嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い。お父様が嫌い。お義母様が嫌い」
ゴボリ、と口から血を吐く。
「ディオム様が嫌い」
ルリリファを愛さない、と言ったディオムが嫌いだった。
「でも」
ディオムを嫌いになんてなれなかった。
毎日、花をくれた。
名前のカードをくれた。
「……ディオム様が大好き……」
震える指先を、彫像と化したかのように硬直しているディオムへと伸ばす。
「ル、ルリリファ。ルリリファッ!」
ディオムがルリリファの指を握ろうとした寸前で、手が崩れ落ちた。
「ルリリファーーッ!!」
獣の咆哮のごとくディオムが絶叫した。
3日後。
ルリリファが目覚めた時、ルリリファの世界は180度変化していた。
レオールの妹となっていたのである。公爵家の養女となっていたのだ。ちなみに生家のカペラ伯爵家はルリリファの「嫌い」宣言で、小説の虜となった多くの貴族家から交友を切られて孤立している。社交界から追放されたに等しいため、家が傾く間際となっていた。
小説のことも説明された。熱狂的な支持を得ていて、社交界では非常に大きな人気を集めていること。
しかも瀕死のルリリファが助かったのは、国王が王家の秘薬を提供してくれたのだと教えられて、ルリリファはさらに驚愕して目をまん丸くする。
「……王家の秘薬」
びっくりしすぎて唖然とするルリリファの手を取り、ディオムが泣いていた。
ベッドの周りにはレオールと公爵夫妻、医師たちや使用人たち、大勢の人がいた。レオールを筆頭にハンカチで涙を拭っている者も多い。
「ルリリファの小説のおかげだ。皆、ルリリファのファンなんだよ」
ディオムの声は悲痛さを感じるほどに掠れていた。
「すまない、俺のせいで」
すまない、すまない、と幾度もディオムが繰り返す。
「本当は一目惚れだったんだ。だが、恋愛をしたことがなかったから焦ってあんなことを言ってしまった、すまない」
すまない、すまない、とディオムが頭を下げる。
「愛しているんだ」
ルリリファは幸福で胸が苦しくなることを初めて知った。
謝り続けるディオムの手をルリリファは握り返した。きゅっ、と体温を移すように。優しく包み込む。
想いが溢れて止まらない。
「好きです」
ドバッ、とディオムが決壊したみたいに大号泣をした。
パンドラの箱の底に残っていたのは希望。
愛情を切望していたルリリファは、連理の枝が絡まるような愛し愛される夢を掴んだのであった。
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