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星喰いのマホロジー 〜若き天才料理人〜

作者: 星野彼方
掲載日:2026/05/22

 

 ある日、神々の晩餐会にて――――


 「…………飯が……飯が、まずい!」


 城の中。いつもの食事室にて、ゼウスは皿を投げ捨てた。


 「……なぜだ……いつもまずい、まずいと思っていた……なんで……今日は一段とひどい。」


 ゼウスの頭が少し冷えた。向かって斜めの席のヘルメスが軽くいなそうとした。


 「まぁまぁ。ゼウス、僕らの可愛い子供たちのご飯と同じなんだし……全知全能なんじゃないの? 料理できないの?」

 「ヘルメス! お前食って言ってんのか? この緑のドロドロは何だ? 人間たちの味覚は異常だ!」


 ゼウスのスプーンの上。そこの深緑を見て、ヘルメスが苦い顔をした。

 その時。長机のお誕生日席? に座る神の中の神、十丸(とおま)がゴホン! と咳こんだ。


 「……う〜ん。そーだな! じゃあ料理人っていう職を作ろうか! 食だけに!」

 「十様ぁぁ!」


 その場の神々から歓声が上がった――――


 こうして、数年後――――



 * * *



 ――――世は大料理時代を迎えた――――


 

 「兄ちゃーん! 『食ってくたばれ! 美味さにひれ伏せナポリタン』 三つ」

 「あいよ。トーマ」


 熱走る厨房で、中坊が鍋を振る…………いや、ダジャレのつもりはなかった!

 ……まぁ我ながら自信満々のネーミングだな……。オヤジ。見てるかな……


 うちは酒場だ。冒険者なんかがダンジョン帰りに打ち上げに使ってくれることで有名なんだぜ?

 

 「ルノ! トーマとホール交代して〜。」

 「……わかったよ! ナナ!」


 ホール? トーマの方が愛想もいいし。俺が出ていかなくていいんじゃねーの? 

 …………いや、うちの厨房やっと二人すれ違えるって。狭くね? そこでトーマとハイタッチして、ホールに出た。

 

 「は〜い。ナポリタンお待ちどお〜!!」

 「お〜今日も可愛いね〜ナナちゃん!」


 看板娘……いや、ナナはお手伝いなんだけど……常連には人気だな! アイドルさながら! エプロンは家庭的でいいなぁ。うふっ。


 「も〜う。ナナちゃん! 人手足りてない時助かるわぁ〜 ルノかトーマと結婚してくれないかしらぁ!」


 そんなこと言うなんて、母さんももうおばさん……いや、おばあちゃん? ふふっ。 でもナナが俺の…………「ルノのこと! 大好き♡」なんちってぇぇ! 


 「デュフっ。」

  あ、やべ。声に出ちまった。


 「あぁら。やっと出てきたの? ルノ! 早くホール回して!」

 「は、は〜い。」


 ……ッチェ! まぁ無理もねーか。ホールにやっと出てきた息子の第一声が、『デュフっ』だもんな。自分でも嫌だわ。 俺よりナポリタン作んの遅い癖に! 

 

 「ふぁ〜!はっは。今日の酒は特にうめ〜な。ルノ! ナナと結婚できるといいな! おめ〜のナポリタン最っ高だから! いけるぜ! なっ!」


 いやいや黙りなさい酔っ払いA。そのノリセクハラ? もうこれだけで今の時代そうなっちゃうんじゃないの!? 


 「まぁいいから今日は帰るわ! 明日三十階層だからな。また来るぜ!」


 クソ! ああいう偏屈なおっさんに限ってイケメンなんだよ! 「ありがとうございましたぁ〜」と、挨拶をした後だった。この時から、俺の人生はサビに入った……のかもしれない……


 「いやぁ〜<オリオン>! ここかよぉ!こんなボロい酒場に美味いナポリタンなんてあんの?」


 <オリオン>? とはなんだろうか……上級冒険者の異名か何かだろうか。


 「あぁ、“あるはず”だ。」


 あ、“あるはず”? どういうことだ? 来たこともないのか? 味で懲らしめてやる!

 その日はやけに月か気になった。三日月、それを見てなぜか俺は半人前にも満たないな。などと思ってしまった。


 「……いらっしゃ……いませ〜!」

 

 ………どうしてだろう。この<オリオン>というおじさんを見て、人ごとだと思えない。何か親近感を抱くのは……

 そのまま店に足を踏み入れた……いつにもない緊張感。汗が出て、視界が綺麗に見える気がする。

 男は席に着くと言った。


 「この店のイチオシの酒と君の作ったナポリタンを。」

 

 もう一人の子分の方の連れが言う。


 「じゃあ、俺も同じので!」


 なんでだ? なんで“俺の作った” ナポリタンなんだ? 別にトーマでも母さんでもいいじゃないか…………


 「…………承りました。」


 とりあえず承諾した。


 「……トーマ。すまねぇ、ホール交代してくれ!」

 

 トーマは少し黙って首を傾げてる……まぁ無理もねぇか。今日はもうこのまま交代なしで店じまいだったからな。

 

 「うん? やけに早いね。まぁいいよ!」


 トーマはポカンしてんな。


 「よっしゃ。食ってくたばれ!」


 えっとソース……麺茹でるか! ちらっとホールをのぞいてみる……ん? もうあいつらしか客いねぇーじゃねぇか! 


 それから十分後――――


 よっし! この特製をかけて……

 

 「……よっしゃ! 完成じゃい!」


 変な客を味でヤッちまうためにいつもよりも丁寧に作ったったでぇ! ところで……さっきから俺はいろんな語尾を使うな……この国にそういう文化があるわけでもない。 

 

 ……あぁ! やべぇ! 西国弁のエセじゃん。 怒られる……でも使っちゃうんだよな。


 「へい! お待ち! 食ってくたばれぇい!」


 さっきの客に、酒とナポリタンを持ってきてやった。


 「……お〜い! <オリオン>! バカうめぇじゃねぇ〜かぁ! (それになんだ? この優しい甘み。ダンジョン帰りの冒険者にピッタリだな! 酒がうめぇ〜! 食欲止まらねぇ! 残ったソースまで舐めたくなっちまうぅ! やばい、禁断だ……これは! 人間普通にやめれちまうぅ〜〜〜!」


 ふっ! 今頃子分の方は俺の世界の中で生まれたままの姿になってるだろ〜なぁ〜!

 …………でもなんで……なんでだ? この<オリオン>はナポリタン黙々と食ってやがる…………こんなやつ初めてだ……

 

 

 「…………ありがとうございました。」


 そのまま、あっという間に飲んで食い終わってしまった……なんで? 俺の料理に“食ってくたばれ”ねぇなんて! ありえねぇ………… 

 

 「三日月みて〜に、まだ半人前ってことかよ! クッソ!」


 なぁ、オヤジ! そういうことなのかよ………… 


 「…………あの、ルノ? あのお客さん、変わった人だったね……」

 「……あぁ、そうだよ……」


 ナナの顔は少し引きつった笑み? なのかこれは? いつものナナらしくねぇーよ。いったい今日はなんて日なんだ……

 ナナは、月を見上げて背中で手を組んだ…………絵になる看板娘だねぇ!


 「……あたしね! 高校はルノと違うとこにいくんだ! 多分…………」

 「…………え?」


 思考が一瞬止まるような感覚……さっきの反動もあってか、胸に少し痛みを感じる。


 「……ど、どういうことだよ! 普通に学区のとこ行くんじゃ……」

  

 ナナの目に、大きな雫が乗っかっている……なんで? いや急に……


 「……あぁ……じゃあね。学校変わっても仲良くしてね。また明日。」

 「……待って。」


 その小さな引き止めでは、ナナの足は止まらなかった……ほどなくして、姿は消えた……


 「……どうしてだよ!」


 ナナはいつも笑っていた。天使だ! 俺のまかないもうまそうに食ってくれた……ずっと、一緒だった。

 その後のことは、あまり覚えていない……気分が悪かったのか、すぐに眠った。

 

 

 * * *



 遠くから、母さんの声が聞こえる――――


 「…………ルノ〜起きなさい! ルノ〜」

 

 なんだ? いつもは自分で起きてんのに? 


 「ルノにお客様よ。すごい人。美人よ!」

 「な、なんだと!」


 すぐさま飛び起きてやった! 美人を待たせるほどこの世に失礼なことはない!

 え? つかまだ夜更けじゃねぇか! 陽もろくに昇ってねぇ! 失礼な美人だこと。


 俺は四十秒で支度を終わらせて、階段を駆け下りた。

 そして、ドアノブに手を掛ける。 


 「……お待ちしておりました。」


 適切な会話の間。背筋、身だしなみ。何一つ礼儀の欠けない姿勢……

 ん? こんな美人が何の用だ? 辺りが光り始める……陽が昇ってきたのだろう。


 「……あなたのお父上から、お手紙を預かっております。」


 …………お父上? オヤジ?……オヤジは俺の料理の根本だが……

 

 「……いや、死んだはず……」


 太陽が赤く燃えて、昇っていく……なぜか「焼き尽くされそうだ」などと、思ってしまった。


 「……お手紙をお読みください。」


 淡々としてるなぁ。しごできな感じ! ったく…………? ・・・は?

 その手紙の差出人の名は、イカロス。 オヤジの名だった…………


 「……どういうことだよ……。お前、何者だ? オヤジは本当に生きてんのか!」

 

 女は、少し息をついた。その後、大声で話し始めた。


 「イカロス様従者一同! ご子息、ルノ様に向かって、敬礼!」


 なんなんだよ……このノリは。数台の馬車の御者。武装した兵士がぞろぞろ出てきて、俺を中心に敬礼……オヤジはいったい何者になっちまったんだ?


 「お手紙の通り、貴方様はこれからアカデミーに入学していただきます! 今日から。」


 アカデミー? まだ手紙読んでねぇーんだが?


 その後、馬車に乗せられた。手紙はざっと読んだ…………

 要約すれば、オヤジは生きている。そして、この国の料理人称号トップの“星喰い”というやつらしい。

 身勝手ながら、オヤジは俺に料理アカデミーにて「神の味を出せ!」と言っている、と。


 生まれ育った街が遠ざかる。帝都までの草原を駆け抜ける。春風が心地いい。空高く、鳥がいた。俺もあいつみてーに、自由に飛びたい。


 ――――数時間後。


 「でっけぇ〜!」


 俺の街よりでかいんじゃないかってくらいの学園。帝都郊外。ここでこれから暮らすのか。

 

 「えぇぇ!? ルノぉぉ?」


 振り返った所にいたのは……

 

 「ななな、ナナ!?」


 どうやら、“違う学校に行く” というのはこのアカデミーだったらしい。


 「ナナの言ってた学校って、ここだったんだな!」

 「う、うん! そうだよ……(よかったぁ〜よくわからないけどルノと同じなんてラッキー!)」


 ナナと共に、城顔負けのデカさのアカデミー。そこの門をくぐった。

 新しい季節の、人生のサビの始まりを知らせる風が俺たちに吹いた。 

久しぶりの新作短編になります。連載はできたら気長にやろうと思ってます。

面白かったら応援してください。

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