表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

部員確保

 高校入学後、思っていたようなクラブを見つけられなった上山美久は「不思議研究会」というクラブを作る。そのクラブの部員となった僕は、上山美久の下僕としてこき使われることとなった。

「美久、起きなさい。ごはんですよ。」

 私は、ベッドの中で握ったり離したりしていたハンドグリップを置いて、起き上がった。


 ごはんを食べながら、おかあさんに訊ねた。

「きょうお弁当にりんご持って行きたいんだけど、ある?」

「ええ、あるわよ。剥きましょうか?」

「いえ、いいの。学校で剥くから、まるごと1個ちょうだい。」

 私は、りんごを受け取ると、針と糸で少し細工をした。弁当箱と一緒に鞄に入れると、学校に出かけた。天気は良好。何かいいことありそう。



 僕の後ろの席の上山美久さんは、ストレートのロングヘアーで、整った目鼻立ちをした女の子だ。高校に入学してから1週間がたち、顔と名前がだいぶ一致してきた。男子としては、当然、彼女に目が行く。クラスの男子は、話す機会を常に狙っているが、おしとやかな性格で、いつも女の子同士でしか話をしていない。たまに、男子が話しかけても、彼女の周りにいる女子が代わりに答えてしまう。僕は今朝までそう思っていた。


 そんな彼女がお昼に、弁当箱とりんごを持ってきていた。みんなと机を合わせるために机を持ち上げたときに、ちょうど立っていた僕の椅子の上に落ちてきてしまった。落ちた瞬間に僕はそのりんごを拾い上げ、彼女の前にりんごを差し出した。ここまでは普通。

 彼女は、顔を赤くして受け取った。その後、何を思ったのか、りんごをスカートで拭いたかと思うと、手で真っ二つに割り、半分を僕の前に差し出した。

「どうぞ。」

 僕の顔には、驚愕の色が浮かんでいただろう。それでも、無意識に手を出し、りんごを受け取った。

 彼女は何事もないように微笑みながら、机を後ろに向けて、女子グループで話し始めた。

 僕は腰を下ろし、割れたりんごの面を見つめていた。今、割れたわけではなさそうだ。


 僕は、彼女が自己紹介のとき、不思議なものが好きで、数学は得意ですと言っていたのを思い出した。

弁当が食べ終わり机を戻して女子たちの会話が途切れたとき、僕は上山さんに声をかけた。

「ねぇ、9の7乗を7で割ると余りはいくつか分かる?」

 いきなり数学の話題を振ったら、大抵の女の子は引くよな。でも、ここで何げない話題を振ったら、逃げられると思った。

「フェルマーの小定理ね。9を7で割った余りと等しいから、答えは2ね。」

 にこりとして、上山さんは答えた。

 すごい。これを簡単に答えることができるとは思わなかったよ。数学が得意と言うだけはあるね。

「これくらいは、簡単よ。じゃ、この問題はどう?

 12g以上の自然数の重さで、4gと7gの分銅を無限に使っても測れない重さはいくつかな。すべて答えられる。」

 女の子から逆に問題を出されるなんて、まったく想像していなかっただけに、僕はうろたえてしまった。多分、引きつった顔をしていただろうな。

 え~と、12gは、4gの分銅3つ。13gは、4の倍数で無いから、7gを1つ使うと残りは6g。4gの分銅で6gは作れないから、13gは作れない。14gは7g2つ。15gは7g1つと4g2つ…。彼女の前では緊張して暗算ができなくなっていた。

 しかたなく、13gは作れないと僕は言った。

「できないのは、13gだけ?他の数は作れるの?」

 高みから悠然と僕を見つめる目で、僕に訊いた。

 不意に質問されたから、あがっているだけだよ。ちょっと、ノートと鉛筆を出すから待ってて。

「ふ~ん。私には不意に質問してきたくせに。」

 上山さんは、余裕の態度でニタリと笑いながら言った。

 落ち着け。僕は心の中で繰り返した。

 ノートに4と7で作れる自然数を書いていった。

 16=4×4+7×0

 17=作れない。

 18=4×1+7×2

 19=4×3+7×1

 20=4×5+7×0

 21=4×0+7×3

 22=4×2+7×2

 23=4×4+7×1

 24=4×6+7×0

 作れない数が出てこない。作れないのは13と17だけか。だが、これだけだと、どうして言える。

僕の頭はフルスピードで回転したが、空回りを続けるだけだった。

 101は作れるのか。101=80+21=4×20+7×3。作れる。

 計算してみれば作れることは言えるが、絶対に作れるというには、どう言ったらいいんだろう。

 僕には、分からなかった。


 僕は、上山さんを見上げた。それを敗北の宣言として受け取ったのか、彼女は、よしよしとあやすような顔を僕に向けていた。

 13と17は作れない。でも、これ以外にはないと言うことは僕にはできない。

 僕は、最大限の丁寧さで答えた。

「今、答えを教えてしまうのは容易いけど、それでは、悔しいでしょ。放課後まで待ってあげるわ。それまでに、答えられるように考えておくことね。それでも分からなければ、土下座とは言わないけど、お店のジュースとケーキで手を打ってあげるわ。」

 勝ち誇ったような目をしながら、僕に微笑んだ。

 僕は、前を向き、授業などは全く無視して考え始めた。


 放課後、上山さんは僕を無視して鞄を持って教室を出て行った。僕は帰宅する彼女の後を追った。彼女は、一人で公園の中を歩いていく。広場のところに差し掛かった。その時、彼女は大きく振り返った。

 僕にはとっさに隠れる場所を探してしまった。僕のギョッとした顔を、彼女はじっと見た。

「ストーカーしているの。」

 僕は、なんて言えばいいのだろう。全く言葉が浮かんでこなかった。

「お昼の問題のことなんだけど…」

 これだけ言うのがやっとだった。

「ふ~ん。その先にあるお店の。ジュースとケーキがおいしいの。奢ってくれるんでしょ。」

 彼女は、近づいてきて、僕を捕まえるように手を握った。僕は、財布の中身が心配になったが、彼女に引きずられるまま歩き出した。


 財布には千円札が1枚あったので、コーヒー2つとケーキ1つの代金を払うことができた。

 テーブル席で向き合って座った。

「代金を払ってくれたということは、分からなかったということね。」

 僕は、不機嫌な顔をしながらも、うなずいた。

 彼女は、僕のノートを指差して言った。

「問題は、説明の仕方ね。ここに書いてあるように、18から21までの4つの連続した数が作れているでしょ。そうすれば、それぞれに4を足すことによって、22から25までの連続した4つの数が作れる。さらに4を足せば、26から29まで作れる。そうやって行けば、18以上の数はすべて作れるわ。だから、12以上でできないのは13と17だけ。どう?」

 なるほど、簡単に説明できる。目から鱗が落ちたような気がした。


 上山さんは鞄から紙を取り出した。

「これから、きょうのような気分を味わいたくないかな~。

 私、世の中の不思議なことをいろいろ考えていこうと思っているの。だから、これから一緒に活動していこうと思うのなら、この紙にクラスと名前を書いて。」

 表題に、「不思議研究会入会届」と記されていた。こんな研究会あったかな。

「今度、私が作るの。ちなみに、私が会長よ。」

 彼女が、にんまりとしながら言った。


 僕は、その紙にクラスと名前を書かざるを得なかった。

「明日から活動だからね。授業が終わったら教室に残っていてね。」

 それだけ言うと、上山さんはコーヒーを飲み干して、出て行った。


 僕は、彼女が食べ散らかしたケーキの後を片付けた。どうやら、僕は彼女にはめられたらしい。最初っから、こうなることを見通していたようだな。

 明日が楽しみだ。


 初めての投稿です。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ