葉桜と妻
♦︎東路侘助
若い頃は友人達がよく質問をしてきた。
彼女のどこを好きになったのか、どこが良くて結婚したのか、と。
互いにそんな話ばかりしていたな。
「なぁ、あず、彼女のどこに惚れて結婚したんだよ?」
「もったいぶってないで言えよ〜」
俺はいつも「さぁな、忘れた」と濁していた。
だめ。これは俺だけの秘密だ。
誰にも教えてやるもんか。
♦︎東路桜湖
あれから40年。
妻の桜湖は病に侵され、あと1年という余命を受けた。
「ねぇ、わび君、どうしてわび君は私を選んでくれたの?」
いつも口数の少ない桜湖だったが
死を宣告されてから質問が増えた。
俺はそれが嬉しかった。
「最初に葉桜を一緒に見た日のこと覚えてるか?」
「え?葉桜?・・・うーん、何だっけ」
「俺はその時、葉桜になっちゃって残念だなって言ったんだ。そしたら桜湖が」
"ブーケみたいで可愛いわね"
「って言って笑ったんだ」
「あー、そう言えばそんなようなこと言ったわね。それがどうかしたの?」
「理由、結婚した」
「それだけ?」
「そんなものさ、人が人を好きになる理由なんて」
「ふふ、そうもしれない」
看護師さん達が廊下を歩く音が聞こえる。
「なぁ、桜湖」
「なに?」
「逝くな」
「それはできないわよ、わび君・・・泣いてるの?」
「・・・っ・・君がいなくなったら俺は・・・」
「わび君、窓の外見て」
「え?」
侘助が病院の窓のカーテンを開けて外を見る。
桜が満開だった。
俯いて歩いていたから気付かなかった。
「私、葉桜も好きだけど、やっぱり満開のが一番好き」
「うん」
「わび君に新しい恋人ができてもいい。
でも、桜が咲いた時は私を思い出してね。」
「毎日思ってるよ」
「ありがとうわび君」
妻が亡くなった日。
俺は病院のベッドで冷たくなった妻に抱き付いて泣き続け、看護師さん達に慰められ、
なんとか病院を出て歩き出した。
無情にも今、桜が咲いている。




