糞詰まり
〈強風に波浪はなきや埼玉県 涙次〉
(前回參照。)
【ⅰ】
「武の名門大學」憂士閣大學- 體育會の中でも特に武道系の部が鎬を削つてゐる。じろさんが其処の合氣道部のOBである事は、何処かに書いた。名物監督であつた* 春日野璽平老は、魔道に墜ちたところをじろさんに退治られ、とつくの昔に退任してゐる。後釜に坐つたのは、伴田猛器と云ふ人。このコーチは、神祕のヴェールに包まれた合氣の教へを、システマティックに解き明かした、じろさんの在部時代からの「盟友」である。で、** 結城輪は憂士閣大に受驗する積もりだと(來年度、輪は髙校3年生)父親に告げた。
* 前々シリーズ第9話參照。
** 當該シリーズ第25話參照。
【ⅱ】
父親は「寄宿制の名門受驗高に折角入れたのに、あんな三流大を受ける事はないだらう」と怒つたが、輪「今、大學の撰び方は多様化してゐる。僕の私淑してゐるカンテラ一味の此井功二郎先生はあの大學を出て、官僚になつた。僕は憂士閣大で合氣道部に入りたいんだ」と、父親を説得。父親は「随分長い間、輪と話をしてゐなかつたが、此奴、こんなに逞しくなつてゐたのだなあ」と、結局OKしたのだつた。輪は、「愛する人を守れなくて、何が男だ」と思ひ、何か一つ武術を身に着けたいのであつた。
【ⅲ】
で、輪、杵塚と久し振りにツーリング。杵塚は納車されたばかりのKTM RC160と云ふ本格スポーツバイクに乘つてゐたので、ほんの慣らし運轉だと云つても、スクーターである輪の愛機、ヤマハ トリシティ125では付いて行くのがやつと。まあこれは余談。二人は秩父の「猫nekoふれ愛ハウス」に向かつて進んだ。杵塚、其処での比良賀杜司の働き振りを、一度見てみたかつたのだ。杜司は甲斐甲斐しく働いてゐたので、杵塚一安心、だがそれも束の間...
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〈熟考が絶唱生むかと考へる自然に口を迸る言葉 平手みき〉
【ⅳ】
「あら、随分可愛いマスターだこと」と、しつこく杜司に云ひ寄る男が一人。杜司、はにかんでその男の追求を躱さうとしたが、追求は續いた。杵塚、ぐいとその男の腕を捻ぢり上げ、「あんた、しつこいぞ。杜司は嫌がつてゐるぢやないか。No means noつて言葉を知らないのか」-男「わ、暴力叛對よ」。杵塚、元々喧嘩は強かつたし、「門前の小僧」で、業務の合ひ間にじろさんに教へを乞うてゐた。因みに、「ふれ愛ハウス」が、輪のSNSへの投稿から、ゲイのハッテンバ化した事は、前シリーズ第153話に書いた通り。(杵兄さん、カッコいゝなあ)と、ショタコンならぬ「兄コン」の輪、思つたとか。
【ⅴ】
「その男、よもや【魔】ぢやなからうな?」と、じろさんは云ふのである。「ルシフェルに訊いてみやう」-ルシフェル「儂の統治時代、所謂ショタコンの、ゲイの【魔】がゐて、儂はそいつを魔界追放の刑に處した、と云ふ曰くがある」-魔界では同性愛はご法度である。増してや、少年相手の變質者など、潔癖なルシフェルが許す筈はない。テオ、「インスタグラムに、杵くんに暴力を振るはれたつてカキコが、上がつてるよ」-杵塚「その線でもう少し詳しく調べてくれよ、テオどん」
【ⅵ】
じろさんの直感通りに、その男は「はぐれ【魔】」だつた。或る少年に向けて卑猥な言葉を掛けた、として實刑判決を受け、ムショから出て來たばかり。「三つ子の魂百迄」か、とじろさん一人ごちた。で、じろさん、その男を懲らしめんと、愛車トヨタ・コロナ2000GTで、秩父に向かつた。男は飽くまでしつこく、杜司に云ひ寄つてゐる。じろさん、「あんた表に出ろ」-男「何よあんたも暴力? カンテラ一味つて、戀愛の自由は認めないの?」-「杜司は明らかに嫌がつてゐる。あんた、出入り禁止だ」
【ⅶ】
男は正體を露はにした。巨大なイソギンチャクみたいな【魔】である。じろさん落ち着いて、イソギンチャクの「口」に、ハウスから出る猫逹の大量の糞(お食事中の方、濟みません!)をショベルで詰め込んだ。「うわ、ペつペつ」イソギンチャク【魔】は慌てゝ吐き出さうとしたが、じろさん、第二第三の糞を用意。敢へなく、【魔】はハウスに寄り付かなくなつた、らしい。
【ⅷ】
「プロジェクト」から報奨金が下りた。じろさんは、對「プロジェクト」用の方策を知つていて、【魔】は敢へて殺さなかつたのである。「此井殺法、糞詰まり!!」-逹人の奥義は飽くまで深いのだなあ、と、輪、思つた。お仕舞ひ。
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〈裁きは春取つて付けたる公約よ 涙次〉




