彼女の探し物
ある一人の女性がいた。
彼女は何かを探していた。
いろいろな場所を歩いて、それを探した。
海の中にも、ビルの屋上にも、山奥の森にも、それはなかった。
やがて彼女は別の世界に生まれ変わった。
王族として生まれ変わった彼女は、また、同じものを探し回った。
城のどこにも、町の酒屋にも、高級なレストランにも、それはなかった。
やがて彼女は、また別の世界に生まれ変わった。
残りの命は短かった。
病院の中にも、狭い庭にも、ベットの中にも、それはなかった。
何回も繰り返した。
ただ一つの、〈それ〉を見つけるために、彼女はどこへでも、何度でも捜し歩いた。
彼女は疲れていた。
数え切れないほど繰り返した。
どんな世界でも、〈それ〉を見つけることはできなかった。
彼女は諦めようとしていた。
ある世界で、立ち尽くしていた。
そこには何もなかった。
ビルも、森も、人も、電灯も、息も。
彼女は、何かを思い出した。
〈それ〉は、探して見つかるようなものではなかった。
そんなような気がした。
彼女は、〈それ〉を見つけた。
彼女は久しぶりに笑った。
そして彼女は、何もない世界に寝転がった。
光の宿った目は、何もない空を眺めた。
彼女の寝転がった何もない世界は、やがて色を帯びていった。
何もかもなかった世界には、何もかもが存在した。
そして彼女は静かに、されど確かに、そこから消えた。
それでも、彼女は安心していた。
探し物は、無事に見つかったのだ。
その事実だけが、そこに残っている。