怪力! 戦士ガルム
その後、私は数日をかけて国境に辿り着いた。国境警備兵に通行証を見せると、あっさりと通してくれた
「お気をつけて、勇者様。これより先はアークブルムの支配領域。何が起こるか分かりません。」
「忠告感謝します。」
私は警備兵に別れを告げると、未知なる土地に足を踏み込んだ
それからしばらく歩いていくと、雪が降ってきた
「今は8月...雪が降るような季節ではないはずだが...」
私は防寒具を着込む。日が落ちかける頃、ある集落が見えた
「とりあえずあの集落で休もう...宿があればいいのだが」
集落はいくつもの巨大なかまくらと周りは針葉樹林に囲まれていた
「これは...宿なしか」
仕方がないので、その中の一つのかまくらへ近づき、一晩泊めてくれるようにお願いする
「よそもんか? けぇったけぇった。ここにはおめぇを泊めるだけのスペースがねぇ」
「そうですか...」
綾人が次のかまくらに行こうとすると、綾人を対応した男が呼び止めた
「ただ...村長のところなら泊められるだろう。村長のかまくらは村の奥にある一際でけぇやつだ」
「感謝します」
綾人はその男に礼を言うと、村長のかまくらに向かった
「...旅の者か。何用だ」
顔に大きな傷のある大男が綾人の対応をした
「一晩泊めてほしい。お金は持っています」
大男は綾人から受け取ったお金が入った袋から銅貨10枚を取り出す
「分かった。お前の部屋は地下3階だ」
綾人は大男に案内され、その日はかまくらに泊まった
翌朝...
「俺が村長代理のガルムだ」
大男が自己紹介をすると、綾人は質問する
「村長代理...? ということは、村長は今どこに?」
「実はこの村にはある風習がある。村長は一年に一度、集落の安全を守るため後ろに見える蓬莱山に登って儀式をしなければならない」
「儀式...」
綾人は嫌な予感がしたのだった
「村長が出発してから何日経ってますか?」
「3ほど経っている。今頃は頂上についているだろう」
「山登りは危険を伴います。誰もついていかないのですか?」
「ダメだ。それがこの村の掟だからだ。...まさか、蓬莱山に登ろうとしているのか?」
「はい」
綾人の言葉に周りが反応する
「何を! 何も知らない余所者の癖に!」
「先祖に祟られるぞ!」
綾人は少し息を整えると、一言
「うるせぇ!」
周りが黙る。
「私が以前訪れた町も、同じように儀式を行った結果、多くの犠牲が出た。私は勇者として、二度と犠牲を出さない責任がある!」
大男が口を開く
「俺にも村長代理として、掟を守らせる責任がある。余所者といえども例外ではない。力づくでも止める」
それから、村長代理と綾人の一騎打ちが行われることとなった
大男は巨大な斧を構えた
「俺たちが認めるのは強者のみ! 行くぞ!」
大男は一瞬で綾人の背後に回り込む。綾人は咄嗟に斧を受け流した
(重い...まともに受けたら剣が折れるな...しかしあの動きは何だ? 一瞬で背後に移動する技。厄介だが背後に来ると分かっていれば一撃叩き込める!)
もう一度大男が最初の技を使う。だが、タイミングを合わせた綾人が攻撃を弾き、大男を後ろに仰け反らせる。周りからおぉ...と感嘆の声が響く
「甘いな、もう勝ったつもりか?」
大男がニヤリと笑う。すると、その反動を利用し斧を振り下ろした。綾人はその攻撃を避けると、地面に一直線に衝撃波が走った
「魔法なしでこの威力...化け物ですね」
「褒め言葉として受け取っておこう」
「しかしこの技...隙が大きすぎる!」
綾人は大男の隙をつき、腹に右手を押し付けると魔法を唱える
「ファイヤーボール!」
「うおっ!」
大男はその場にひざまづいた。綾人も右手に火傷を負った
綾人は剣を突きつけると、終わりだと言う
「参った。お前強いな」
綾人は手を差し伸べると、大男を起こした。すると、周りから歓声が響く
「良い戦いだったぞー!」
「どっちもすげー!」
それから綾人は大男にヒールを唱えて完全回復させた後、
「俺もお前についていく」
「掟はいいのか?」
「言ったはずだ、俺たちが認めるのは強者のみ。その強者が山を登ると言ってるのだから大丈夫だ。」
「屁理屈ですね」
綾人は笑う
「改めてよろしくお願いします。ガルムさん」
「よろしく頼むぜ、綾人。」
それから二人は村人に見送られながら蓬莱山を登ったのだった
一日目
「はぁっ!」
綾人は剣で魔物を薙ぎ払う
ガルムも斧を振り下ろし、熊型の魔物を倒していく
「やけに魔物たちが騒がしい。普段は人を襲うような魔物ではないのだが...」
「とにかく今は村長を助けに行こう」
二日目
断崖絶壁が道を塞ぐ。唯一渡れる足場は細い。
「何百メートルあるんだ...」
「落ちればただでは済まないだろうな」
ゴクリと唾を飲み込むと、慎重に一歩づつ足場を渡っていく
三日目
「はぁ...はぁ...はぁ...やっと、ついた!」
「綾人、あれを見ろ!」
村長らしき人が小高い丘で座禅を組んでいるのが見える
「トリアレーゼ村長!」
「...」
村長からの返事はない。
綾人たちはもっと近づくと、村長の肩がカタカタと震え出した
「アトイチニチアレバアノシュウラクヲホロボセタモノヲ...」
村長の目が赤く光ると、蒸気を噴射しながら変形していく...。やがて霧が晴れると、村長の口は大きく裂け体はカラクリ人形のように無機質なものへと変化していた
「ワレテンマジュウニショウガヒトリ、MZ256-5。コタイメイ、キラー。センメツカイシ」
キラーは背中からミサイルを飛ばしてきた
「そんなのありかよ!」
綾人とガルムは走るミサイルが地面に着弾すると、大きな衝撃と黒煙が立ち上る
(このロボット...現代兵器並みだ。どこでこんな技術を手に入れた?)
考え事をしていると、綾人の頭スレスレを巨大な剣が通り過ぎる
(このロボット、この煙の中で相手の位置が分かるのか!)
「ガルムさん! 一旦煙の外に出てください! このロボット、私たちの位置を捕捉してます!」
「分かった!」
綾人とガルムは煙の外に出る
「ガルムさん、聞いてください。相手はロボット。こちらと違って疲弊はしません。よって長期戦になるほど不利になります。なので、私の合図であなたの全力を叩き込んでください。私もそれに合わせて全力で新技を放ちます!」
「新技ねぇ...期待してるぜ!」
綾人たちはキラーのミサイルと巨大な剣による振り払いを避けながらチャンスを伺う。
「ニンゲンドモメ...」
キラーは右手を取り外すと、腕の中から先端に鎌がついた縄がでてきた
「気をつけろガルム! 何かしてくるぞ!」
「Kモード作動。永久機関解除。続いてサブエネルギーを使用」
キラーは高速で鎌のついた縄を振り回した。近づいていた綾人とガルムは鎌で切られる
「ぐぁっ!」
「うぉっ!」
「Kモード...さっきより動きが段違いですね。キラーの半径3メートル以内に入ったら細切れでしょう。だったら...!」
綾人は魔法を唱える
「ファイヤーボール!」
しかし、火球は範囲内に入るとあの鎌のついた縄を高速回転されかき消された
「どうする綾人...! 今のあいつには魔法も物理攻撃も無意味だぞ」
(さっきあのロボット...永久機関解除とか言っていた。...そういうことか!)
「ガルム、作戦変更だ。長期戦になってもいい、あの攻撃をいなしつづけろ!」
「馬鹿か綾人! あいつはロボットで疲れないって言ったのはお前だろ」
「それが疲れるんですよ。今のキラーはサブエネルギーを使っている状態です。確信はないですが、あの攻撃は長くは続かない!」
「...チッ! やるしかないか」
綾人とガルムは嵐のような攻撃を何度かいなすと、ロボットの動きが鈍くなった
「ピーピー! サブエネルギー低下。永久機関に切り替えます。待機時間5秒」
綾人が叫ぶ
「今だガルムさん! 全力で攻撃してください!」
「うおおおお!」
ガルムは全力で斧を振り下ろす
綾人は魔法を唱える
「ファイヤーボール!」
しかし、今回は火球を手のひらにとどめていた。そして、剣に炎を纏わせる
(これが私の新技...!)
「フェニックスウイング!」
キラーに二人の全力の攻撃が直撃する
「エラー、エラー、エラー。損傷率67%。投機は機能を停止します」
「ワレハテンマジュウニショウ...イッキモウテナイコトナドユルサレヌ!」
キラーは心臓部にある赤いスイッチを押した
「ロックダウンモードに移行。投機は30秒後に自爆します」
「まずい! 離れてください」
綾人はガルムとともに遠くへ逃げ、地面にふせた。30秒後、球状に光り輝き大きな衝撃音が鳴り響いた。その衝撃は100メートルほど離れた綾人たちに届いた
「...大丈夫ですか?」
「あぁ...なんとかな...」
綾人たちは蓬莱山を降り、皆に事情を説明した
「そんな...村長が天魔十二将の一人、キラーだったとは」
「じゃ、じゃあこの中にもまだ魔族が隠れてるかも!」
「な、なんだと!」
村人が騒ぎ出し、お互いに警戒していると一人の老人が口を開いた
「皆落ち着くのじゃ。ワシはここにいる」
「トリアレーゼ村長!?」
「良かった、生きてたんですね!」
「うん...? ワシは今帰ってきたところじゃが」
「私から説明させてほしい。あのように姿を真似る魔族は判別方法があります」
「なんと...」
「それは聖水に弱いことです。聖水は魔を払う力がある。聖水をかければ魔族は姿を保てなくなります」
「よし、ワシの家からありったけの聖水を持ってくるのじゃ!」
それから村人全員に聖水をかけたが、誰も反応はなかった。それから村人総出で宴会となった
翌朝...
「ガルム、達者でな」
「あぁ、いってくるよ」
ガルムは村人一人一人と握手をする。二人は村人に手を振りかえし、集落を後にするのだった