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勇者召喚

「ここは...」


辺りを見渡すと、黒いローブを纏った人が数人いる。そして、足元には怪しい陣...


「少し質問をしてもよろしいですか?」


すると、豪華な装飾を見に纏った黒いローブの男が私の前に現れた


「構いませんよ」


「感謝します。まずここはどこですか? 確か私は人通りの多い道路を渡っていたはず。あなたたちはどうやって私をここへ連れてきたのですか?」


「ここはイングラシア王国の王宮の地下です。あなたは秘密裏に行われている魔法陣による異世界からの勇者召喚によって呼び出されました」


「勇者召喚ということは、私は勇者として魔王を倒さなければならないと?」


「そうなりますね。しかし、強制はいたしません。私たちはあくまでも勇者様の意思を尊重いたします」


「では、私を元の世界へ戻す方法はありますか?」


「申し訳ありません。現在の魔法技術ではあなたを元の世界へ戻す方法はありません」


「なるほど...いくらか話してみてあなたたちに敵意はないと判断しました。よろしければ数ヶ月の滞在と、この世界について情報を提供してもらいたい。こちらからは私の世界についての知識と、私にできることがあれば協力しましょう」


「それはありがたい。しかし、あなたは秘密裏に行われた魔法実験の産物。混乱を招くため、城の外へは出ないようにお願いしたい」


「承知しました」


その後、黒いローブの男たちに王宮の一室へと連れてこられた。


「ここが勇者様の部屋です。気持ちの整理もあるでしょう。今日はお休みください。何かあればドアを3回ノックしてください。では」


そうして黒いローブの男たちは部屋から出ていった後、私は部屋の中を観察した


(手錠や、窓に鉄格子はない。...信用されているということか。ドアは開かない。外側からロックされているのか。しかし鍵穴などそれらしいものはない。魔法を使ったのか?)


それから私はベッドに入り、蝋燭を消した


(文明レベルは中世ほど。しかし魔法などの独自の技術は無視できない。実際私を別世界から呼び出すほどの力を秘めている。今敵対するような行動は控えるべきだろう)


それから私は色々と頭の整理をしながら眠りについた。


翌朝。


窓から小鳥たちの鳴き声と共に朝日が差し込んだ。

ドアを2回ノックする音が聞こえると、女性の声がした


「おはようございます、勇者様。朝食をお持ちしました。入ってもよろしいでしょうか?」


「どうぞ」


入ってきたのは美しい赤髪を靡かせるメイドだった。銀が使われたトローリーは朝日に照らされ、輝いてみえた


「お初にお目にかかります。メイドのアンと申します。今日から勇者様の給仕係を仰せつかります」


「私は綾人です。」


アンは呪文を唱えると、ベッドの下にあった魔法陣が反応し、ベッドの代わりに赤い絨毯と豪華な椅子、純白のテーブルクロスがかけられたテーブルが現れた


アンはそのテーブルに銀でできたクロッシュを置いていき、一つづつ蓋を開けていく


「こちらがオードブルのサラダです。今朝取れた新鮮な野菜を使用しております。そしてスープ。一晩かけて灰汁を抜いてお作りしました。そしてメインディシュは王宮内で育てている最高級のシープのステーキでございます。そして、お口直しのワインです。デザートは食後にお持ちいたします」


綾人は唖然とする。元の世界、日本ではこんな豪華な料理を食べる機会などなかった


メイドが部屋から出ると、綾人は料理を食べた。その味は生涯忘れるほどないほど美味だった


食後のデザートも食べ終わり、金で飾り付けられた本棚から本を読んでいた。すると、またドアをノックする音が聞こえた。今度は男性の声だ


「書記官のベルグと申します。アルベリヒト様の命により勇者様と情報交換がしたく思います」


私は読んでいた本を本棚の元の位置に戻した


「お入りください」


入ってきたのは映画などで見たような中世貴族を彷彿とさせる男であった。それからお互いの情報を交換し、大体この世界について理解できた。このベルグという男は中々に理解力が高く異世界の知識もすぐに理解した


「素晴らしい! あなたとはぜひまたお話ししたい」


「えぇ、こちらもベルグ殿とまたお話ししたい」


ベルグが出ていくと、綾人は考え込む。どうやら黒のローブの男が言っていた話は本当らしい。数ヶ月前、突如隣国のアークブルム魔導帝国が侵攻し、この国は窮地に陥っているそうだ。何でも相手の兵隊は魔族と呼ばれる者たちで構成されており、並の攻撃では傷はつかない。侵攻されている理由はもしかしたら過去にこの国がアークブルムで行った大虐殺に起因していると。


(魔族...そして魔王...なるほど。私は兵器として呼ばれたと...。私にそんな力はない...それに、平和な時代で生きてきた私にとって魔族とはいえ人の形をした生物を殺すことは日本で法律に縛られて生きてきた私が許さない)


「私はどうすれば...」


それから一週間が過ぎた頃、ドアをノックする音が聞こえた。ベルグかと思ったが、今回は違った。部屋に入ってきたのは、白髪が特徴的な紳士の老人だった


「私はアルベリヒト。この王宮で魔法の指導者をしている者です。最初にあなたと会話を試みたのも私です」


「薄々そんな気はしてましたよ。それで、一体どのようなご用件でしょうか?」


「あなたの気も変わっている頃かと思いまして、再度私のお願いを聞いてもらいたいのです。...勇者として、敵国アークブルム魔導帝国の魔王を討ち取る気はありませんか?」


「......私にはあなたたちが期待するような力はありません。」


「ふむ...確かにあなたの魔力は微力。しかし、私はあなたの成長後の力に期待しているのです」


「成長後の力? あなたは未来が見えるのですか?」


「私ではありません。大司教の力です。あなたを占ったところ、魔王を討ち取る姿が映ったと」


「なるほど。よほどその大司教の力を信じているようだ。国教なだけはある」


「魔王を倒すのであれば、王宮の外へ出ることも許可しましょう。どうか力をお貸しください」


「......分かりました、最初に約束しましたしね。私にできることなら協力すると」


「ありがたい」


アルベリヒトは綾人に頭を下げる


「では、これからあなたには力をつけるための訓練を受けていただきたい。」


それから訓練の詳細を話したアルベリヒトは満足した様子で部屋を後にした。その翌日から朝早くから夜遅くまで続くハードな訓練を受け続けた。


それから1ヶ月。


アルベリヒトと剣の指導者である剣聖オールは愛弟子の成長をしみじみと感じ取っていた


「最初はまともに剣も振るえなかったのに」


「魔法もからっきしでしたな」


二人の師匠はお互いに笑い合う


「二人には深く感謝する。私を強くしてくれて」


「なんのなんの。しかし本番はこれからですぞ。実戦で適正は試される」


「一戦で戦意を無くす兵士も少なくない」


それから私は旅の支度を整えて王宮を後にした。それからは王国を南に進みながら国境付近を目指す。何日か歩くと、町が見えてきた。


「ここがムエルの町か。」


町に入ると、レンガ造りの家が立ち並んでいた。要所を繋ぐ橋も見事な造りである。私は早速宿を取り荷物を下ろした


「ふぅ...とにかく情報収集だ。魔王について何か分かればいいのだが...」


町を歩いていると、ある集団が目についた。通りすがりの人を呼び止めると、あれは何をしているのか尋ねた


「あぁ、あれは新興宗教だよ。こんなご時世だ。救いを求める人は多いのさ」


私はとりあえず教祖と思われる男の話を聞いてみることにした


「我はウルドロ。神の代行者である。今から神のお言葉を伝える。汝ら、供物を捧げよ。さすれば神獣降臨し、汝らを救うであろう。と仰った。明日、神獣降臨の儀式を執り行う。救われたくば供物を捧げよ!」


その言葉を最後に、教祖は魔法でどこかに消えた。信者たちは解散し、それぞれの家に戻っていく


(どうも胡散臭いな...しかし気になる。この世界は魔法が当たり前にある世界だ。神獣降臨もあながち嘘ではないかもしれない)


綾人は宿に戻り、一晩明かした。宿の食事はもちろん美味しかったが、王宮の食事が恋しくなったのは言うまでもない


翌朝...


綾人はまたあの教会の前へ向かった。供物といっても分からなかったため、とりあえずカゴいっぱいの林檎を用意した。

続々と他の信者も集まってくる。それぞれ果物や野菜を用意していた


(良かった...みんなも同じような考えだったようだ)


そして教会の前で待つこと数分。

またどこからか魔法でウルドロが現れる


「ここにいる我々は選ばれし者だ。そなたたちは必ず神の加護があるだろう。さぁ、その供物を天に掲げよ!」


そう言うと、信者たちは一斉に供物を空に掲げる。綾人も同じようにすると、空に暗雲が立ち込める。そして、教会のすぐそばに雷が落ちる。しかし、なぜか皆無傷だった


綾人が目を開けると、雷が落ちた場所に一匹の白い狼がいた。教祖がその姿を見るなり膝をつく


「おぉ...! 神獣よ、どうか我らをお導きください」


皆の脳内に直接声が響く


「我は神獣ケープシャプカ。供物の礼だ。好きな願いを言うがいい。何でも叶えてやろう」


すると、信者たちは次々に願いを口にする


「先の戦いで戦死した息子を生き返らせてください!」


「どうか娘に会わせてくれ!」


信者たちの願いを聞くと、神獣は空に向かって吠えた

すると、次々と信者たちが倒れていく


綾人は驚き、周りの人を起こそうとする


「おい、どうしたしっかりしろ!」


また直接脳内に声が響く


「無駄だ。もうすでに死んでいる。」


「...貴様っ!」


「我は神獣などではない。魔王直下の天魔十二将が一体、ケープシャプカである」


「お前も願いを言え。永劫に幸せな夢の中で息絶えるがいい。」


綾人は剣を構えた。


「私は綾人、勇者綾人だ! 人々の心につけこむ所業、絶対に許さん!」


ケープシャプカが吠えると、次々と雷が落ちてくる。今度は本物の雷のようだ。落ちたところが焼けこげている


「...勇者を名乗るだけはある。だが、このケープシャプカ様の敵ではないわ!」


雷で手前に誘導された綾人にケープシャプカの鋭い爪が襲う。


「くっ!」


綾人は右腕に傷を負う。そこで綾人は回復魔法を唱えた


「ヒール!」


緑色の淡い光が綾人を包むと、傷が塞がった


「回復魔法まで...しかし、魔法は生命エネルギーを消費する。あと何回唱えられるかな?」


綾人はケープシャプカの鋭い爪による攻撃や噛みつきを上手くかわすが、回復魔法を使ったことにより動きが鈍っていた


「さっきよりも動きが鈍っているぞ?」


ケープシャプカは綾人が攻撃を弾いて距離をとった瞬間、雷を落とした


「ぐあああ!」


今まで感じたことのない激痛が全身を襲う。綾人はその場に倒れ込んだ。


「まだ息があるのか」


綾人は全身に痛みが走りながらも立ちあがろうとする。そこに、ケープシャプカが歩いてくる。そして、綾人の目の前までくると、腕を大きく振り上げた。その瞬間、綾人は魔法を唱えた


「烈火の不死鳥...黄金の羽...その業火は全てを焼き尽くす...ファイヤーボール!」


「馬鹿な...! この至近距離から完全詠唱のファイヤーボールを...!」


ケープシャプカに火球が直撃し、綾人は反動で吹っ飛ぶ


ケープシャプカは炎に包まれ、叫び声をあげる


「グァァア...! ...我は天魔十二将、ケープシャプカ...こんな小僧に不覚を取るとは...」


ケープシャプカは恨み言を叫びながら死んだ。死んだ後には黒い砂となって何も残らなかった


「とりあえず...適正はあるようだな」


綾人は自分の火傷した手の平を見ながら地面に仰向けに倒れた。大きな音で集まった町人は綾人を発見すると、すぐに回復魔法を施した


後日、綾人は町総出で祝われた


「まさかあの天魔十二将の一体を倒すとは!」


「あなたはまさか、勇者様なのでは?」


祝いの夜はそうしてふけていった


翌朝の早朝...


綾人は荷物をまとめると、教会の前に向かった。

そして、花束を置くと祈りを捧げた


(すまない...私がもっと早く気づいていれば...)


町の入り口に立ち、後ろを振り返った。なぜかは分からないが、最初に来た時と町の印象が違った


その時、綾人に風が吹いた。綾人は少し笑うと、町を後にした





















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