#7 導かれし鳥たち
爺さん――ふくちよ
野良猫――ことと
とんかつ(隣人)――勝ち組とんかつ
鳥飼の少年――鳥尾P
シマエナガ――こうまく
「しっかし、よくよく考えたら、ポートアイランドに行くまでに四人の仲間を集めるなんて、無理ゲーじゃないっすか?」
老人、マイルドヤンキー、猫という異色の組み合わせで三人は地下鉄長田駅に向かっていました。
「今いる場所から駅まで歩いて、長田から三宮まで地下鉄に乗って、三宮でポートアイランド線に乗り換えるわけっすよね?」
「うん。それが一番近いはずさ。ふふん」
ふくちよ爺さんは膝と腰が悪いので、ルートの最短距離を求めることに関しては一日の長がありました。やたらと自信満々です。
トンカツはするするとスマホをいじりはじめました。
「うぃーっと……乗り換え案内っと……長田から……ポートアイランドで一番奥にある計算科学センターまで……としても35分っすね」
「すぐじゃん! いやあ早い速い! 嬉しいなぁ!」
爺さんは小躍りを始めました。しかし、思いのほか過負荷だったのでしょう。すぐに膝をさすり出しました。
「何言ってんすか。早すぎるんすよ」
「え?」
「トンカツの言わんとしてることはわかるよ、アタイ」
コトニャンが続けます。
「35分。しかもずっと車内。トラベルミステリ並みに限定された時空間において、どうやって仲間を集めるんだってことだろ?」
「そうそう。さすが見た目は猫、頭脳は西村京太郎。どう考えても犬と猿と鳥は電車には乗らないだろー。爆発物は運がよければ……ワンチャンあるな!」
「それは随分悪い運だこと」
「あー……そういやそうだね。でも僕はとにかく長距離を歩くのがつらいから……できるだけ公共交通機関で行きたいんだけど……」
爺さんはバツが悪そうにうつむき、「膝さえナァ……」と全てを膝のせいにして乗り切ろうとしているかのように独りごちました。
「じゃあ、こうしましょ。ふくちよさんは先にポートアイランドまで電車で行って、カッシーが潜む廃倉庫を探しといてください。私とコトニャンは、三宮までは食べ歩きして情報集めながらゆっくり進むんで!」
「うーん……若干気になるスケジュールだけど仕方ないか。仲間を探す役と拠点を探す役に分かれた方が確かに早いね……オッケーその条件飲もう」
ReN、トンカツ&コトニャン、爺さん。打倒カッシーパーティは、瞬く間に散り散りになりました。ReNに至っては、主人公のくせに来るかどうかもわからない危機的状況です。
「いやーどこ行こっかなぁ。ハーバーランドあたりで昼食と行こうやコトニャン」
「アタイは何でもいいよ。そこら辺中に食べるもんはあるから」
コトニャンはコンビニのゴミ箱を見ながらよだれをたらしました。
「私も一応トンカツだけは大量に持ってきたんだよね。カッシーとの決戦の途中で腹が鳴ったらみっともないからさ。あ、でも紙と鉛筆ぐらい持ってくりゃよかったかなぁー。悪い奴倒したら、有名になっちまうかもしれないから、サイン練習しとかなきゃだよなぁー」
「……ほかに持ってくるもんなかったのかい?」
「あの! すみません! と、トンカツ持ってませんか?!」
道端から急に少年が飛び出してきました。
「トンカツ? 持ってるけど?」
「ま、マジですか! 自分で頼んでおきながら信じられない……言ってみるもんだなぁ! あの……お、おひとついただけないでしょうか?」
「いいよ」
トンカツはポケットから冷めたトンカツを取り出しました。手が酸化した安い油でてかっています。
「え? あ、ポケットに直入れしてるんですか?」
少年は声をかけてしまったことを少し後悔している顔になりました。
「私のポケット、どんぶりみたいなもんだからさ」
「どういう意味だよ」
コトニャンがツッコむと、少年は目を丸くしました。
「ね、猫がしゃべった!」
「いや、違う違う。これこれ」
トンカツはバウリンガルを見せました。
「これが翻訳してくれてるんだよ」
「え! じゃあもしかして……この子の言葉も……!」
少年がポケットをまさぐると、中から一羽の鳥が現れました。最近いたるところで人気のシマエナガです。
「あんたのポケットも随分なもんだね」
コトニャンが言うと、
「僕のポケット、鳥かごみたいなものなんです」
「どういう……ああ、そのまんまの意味か。アホな人間たちと一緒に過ごしてると、常にボケが襲ってくるていう意識で身構えちゃって嫌だね、ホント……」
シマエナガが少年の肩にとまります。
「ぴーちくぱーちく! あ、あああ……テステス……ただいまマイクのテスト中。えへん、おほん……私はこうまく! いやーん! やっとみんなと話せるぅ!」
こうまくがしゃべり出しました。
「えええ?! こうまく?! し、しーちゃん! キミの名前はしーちゃんだよ! 僕が君を卵から孵化させたときに、密かに好きなクラスメイトの名前をつけたんだから!」
「いいえ! 私はこうまく! 自分でそう決めてたの! エサをくれそうな時だけしょうがないから『しーちゃん』に反応してただけ! ごめんね! あと、たぶん、他の鳥友達としゃべってたときに噂で聞いてたんだけど、クラスメイトのしーちゃんはあなたのこと外れたおみくじぐらいにしか思ってないわよ! 残念っ!」
ウインクするこうまくを見ながら、少年はがっくしと首を折り、ついで膝を折り地面にへたりこみました。
「おい鳥飼いの少年。おまえはなんて―名前だ? そんでさ。なんでトンカツが欲しいんだ?」
人の気持ちが理解できないトンカツは、いい加減手の上のトンカツを引き取って欲しそうに上下に揺らしています。
「あ、すみません……取り乱しました。僕は鳥尾と申します。このしーちゃ……、いえこうまくの飼い主です。この鳥は非常に変わっていて、トンカツしか食べないんです。いつも散歩するときは常にトンカツをタッパに入れて持ってくるんですが……今日は間違えてトリテンを入れてきてしまって……」
「ひどいでしょ? 鳥の私にトリテン食べさせるなんてありえなーい! 羊たちの沈黙になっちゃう!」
あはは! エビアンのクリームを使ってるな? あはは! と笑いながらこうまくは言いました。
「豚だか鳥だか羊だかよくわからない話になってきたね。でもさ、これは神の導きだよ、ね、トンカツ」
「ああ! お前ら! トンカツやるから仲間になれよ!」
「な、仲間……? 何のですか?」
鳥尾は目を丸くしました。
「トカゲを巡る冒険さ!」
コトニャンはぼんやりと欠伸をし、トンカツは決めポーズを作り、鳥尾は開いた口が塞がらない顔になり、こうまくはきゃぴきゃぴと笑いました。
続く。