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桃太郎  作者: 小豆沢Q
6/22

#6 トカゲを巡る冒険(下)

桃太郎――ReN

爺さん――ふくちよ

野良猫――ことと

とんかつ(隣人)――勝ち組とんかつ

ピンクトカゲ――Tokage100%(Chloe)

「ほい。これ当てたら元に戻るはずやで」

 瓦礫の中からプライベートライアンさながらに出てきたReNは、我が家の塀を飛び越えると、ふくちよ爺さんに光線銃を渡しました。蜥蜴とかげが持っていた、人をトカゲにしてしまう銃です。

「勘違いせんといてな。ウチはあんたを助けたいだけや。ポートアイランドにある『ONIGASHIMA』てコードネームの廃倉庫を拠点としてて、西日本を爬虫類の王国にしようと企んでて、猫に弱くて、でも実はそいつの上にもさらなる支配者がいてる、カッシーていう言わば中ボス的な悪党をやっつけたい訳とはちゃうからな」

「……結構話し込んだんだね。随分やることが明確になってきたよ……」

 爺さんはピンクトカゲに光線銃をあてようとしましたが、ピンクトカゲは脱兎のごとく逃げ回りました。

「ど、どうしたの? 人間に戻りたくないの?」

 焦った様子で爺さんが言うと、庭の奥から声がしました。

「ふくちよさん、何とぼけたこと言ってんすか。今人間に戻っちゃったらすっぽんぽんになっちゃうからでしょーが。わざとやってんなら止めませんけど」

「わわわ、わざとじゃないよ! き、気づかなかったんだよぉ!」

 不審者のように狼狽するふくちよの前に現れたのはトンカツでした。敷地に入り、さっと上着と前掛けをはずすと、縁側から奥の部屋の中に放り込みました。

「どうぞ。人間に戻ったら着てください。揚げ物くさいっすけど」

「とんかつさん……どうして?」

「どーしてもこーしてもないっしょ! 二軒隣がいきなり爆発したんすよ?! そりゃ馬じゃなくても野次馬しにくるでしょ! 人間の『好奇心』と『人の不幸は蜜の味』っていう正当な理由でここにいるんすよ! んであんたらの話、聞いちゃったんすよ。ほら、桃太郎ちゃん、あんたがトカゲさんに光線銃を当ててあげな」

 ReNはトンカツの言う通り、扉を閉めてピンクトカゲと奥の部屋にいきました。

「ところで……ふくちよさん、ものは相談っす」

「あんた……もしかして……」

 コトニャンが顔を持ち上げました。

「そっす。私もトカゲを巡る冒険のメンバーに入れてもらいたいんす」

「な、なんで……わざわざ……こんな危険な旅に……店もあるのに……何の得もなさそうなのに……と、トンカツさん……僕はあなたを誤解してたのかもしれない……」

「そうっす! ご名答っす! トカゲはトンカツを食べないからっすよ! カッシーとやらの目論見が達成されちゃったら私の商売あがったりだ! 今まで二年半もおんなじ仕事が続いたことなかったから天職だと思ってたのに!」

 トンカツは急に怒り出しました。

「ああ……特に誤解してたわけじゃなさそうで良かったよ……」

 ふくちよ爺さんは、プラスとマイナスの気持ちがない交ぜになった複雑な面持ちになりました。

「さっさとカッシー倒しましょ! 猫が嫌いってならコトニャン連れてったら一発だし。ポートアイランドは目と鼻の先だし」

「アタイも? しゃーないなぁ……いつもすみっコぐらしみたいなトンカツのきれっぱし貰ってるしねぇ……」


「そんな簡単なものではありません……」

 奥の扉が開き、美しい女性が出てきました。カズレーザーのように真っ赤な上着と、『元祖 勝ち組とんかつ』と書かれた前掛けだけを着けて。

「せっかくの美人の登場シーンなのに……残念だね。元祖の意味わかんないし……」

 コトニャンが力なくつぶやきました。

「あんたがさっきのピンクトカゲか。簡単じゃないってどういう意味? カッシーは猫一匹でも倒せないくらい強い化け物なのかい?」

「猫一匹で倒せないのは普通の人間レベルの強さじゃないかな……」

 これ以上話を引きのばすと見えない『読者』という魔物に殺されそうだと思ったので、爺さんはできる限り小さい声で言いました。

「申し遅れました。私はクロエ……もともとはグルメシティポートアイランドで働いていた会社員です」

「……ただの会社員かよ」

 爺さんはまた、小さくつぶやきました。世界的な陰謀だと認識していたものが、社内の痴話げんか程度に思えてきました。

「カッシーが猫に弱いというのは本当ですが、それだけでは奴を倒せません。猫に強いカッシー四天王がいるから……」

「なあ、話の腰折って悪いんやけど、ウチ公園に遊びに行ってくるわ。今日こそブランコからの四回転半捻り転決めんねん。四回転のトーマスや誰も成功させたことあらへんさかいな」

 クロエの新情報をぶった切ってReNはすたこらと家を出ていきました。


「え……ええと。ちょっともう一回、仕切り直して言いますね……。猫に強いカッシー四天王がいるからです! 人間の友達のいない蜥蜴は、トカゲになった私に向かってぶつぶつ呟いてましたから間違いなしの一次情報です! 彼は多分、普通に私に話しかけることができなかったから、レジ打ちをしていた私にあの光線銃を打ち、トカゲにしたんです。以来三か月、夜な夜な彼のつぶやきを聞き続けてきましたから内部情報には詳しいです!」

「じゃあ、どうすればいいんだ? 犬でも連れて行けばいいのかい?」

 合間を入れずトンカツが繋ぎ、話の筋を取り戻しました。クロエに向かってウインクをし、親指まで立てています。

「犬と一緒に旅をするのはアタイ嫌だなぁ……苦手とかじゃないけどあいつら臭いんだよね」

 コトニャンが顔をしかめます。

「その通りです! 四天王はそれぞれ『犬』『猿』『鳥』『爆発物』を苦手としているようです! だから、その四人の勇者を仲間にして攻略しましょう!」

「爆発物は誰でも苦手でしょ?!」

 とうとう爺さんは普通にツッコんでしまいました。

「まあいいや! ポートアイランドに向かいながら、仲間を集めたらいいんだろ? そんなの簡単だ! じゃあ行こうぜ! 早くしないとトカゲの楽園になっちまう! ね、ふくちよさん、コトニャンいきましょ!」

「僕たちだけで大丈夫かなぁ……なんせReNがやる気ないからなぁ……心細いよ」

「大丈夫すよ! 私、昔声優してたんすから!」

「大丈夫の根拠にならないよ……」

 爺さんは勾玉のように美しい頭を抱えました。

「確かに……先ほどの惨状を見せつけられると……ReNさんがいないのは戦力として不安ですね……ていうか、ReNさんがいれば、ポケモンバトルみたいに弱点ついて『こうかはばつぐんだ!』とか言いながら戦うシビアなことしなくても問題ない気がしますね……」

 クロエの表情にも憂いがみえます。変な恰好さえしていなければ、その濡れたまつげは男性が放っておかないでしょう。

「じゃあ、こうしましょう! 私とコトニャンとふくちよさんは先発する! クロエさんは桃太郎ちゃんを説得してきて! そんで後から追いかけさせてよ。それでいいっしょ! 出発出発! なんかテンション上がってきたなぁ私! スニーカーに履き替えてくるっす!」

 なぜか隣の定食屋の主人に仕切られ、桃太郎ちゃんたちのトカゲを巡る冒険は始まったのでした。


 続く。

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