#17 さようなら鳥尾P
桃太郎――ReN
野良猫(猫)――ことと
とんかつ(犬)――勝ち組とんかつ
鳥飼の少年――鳥尾P
シマエナガ(鳥)――こうまく
クロエ――Tokage100%(Chloe)
人に優しくて可愛いJK(猿)――あずき
爺さん――ふくちよ
爆発物――ピロッシー
カッシー四天王④――リョウ
「貴様らがここまで来たということは……あいつら全員やられたってことか……不甲斐ないねぇ……四天王としてカッシー様に顔向けできんではないか……まあいい。俺が全員始末してやろう……この四天王最強リョウ様がな!」
新月たけの部屋から先に進んだところ、細い通路の真ん中に立つ男がいました。
「あんたが最後の四天王か」
ReNが指を指します。
「ショコモさんのかたき……特製カツサンド事業化失敗の恨み……取らせてもらうで!」
手にはショコモの顔の一部が握りしめられています。むしってきたようです。とんかつとキャベツも挟まれており、試作品が作られたことがうかがえます。
「れ、ReNさん! ここは僕が! いいところを見せて、ポイントアップを図りたいです!」
鳥尾が言うと、とんかつが止めました。
「やめろ! お前はすでにフラグが立ってんだよ! 桃太郎ちゃんに任せときゃいいんだよ! お前だって、私のアツアツサクサクのとんかつを食べずには死ねねぇだろ!」
「最後のつながりが毛玉ほどもわかんないけど、とんかつの言う通りだよ。今戦ったらあんたは死ぬ。絶対」
コトニャンが言うと、こうまくも泣きながら周りを飛び始めました。
「ぴぴ! 鳥尾ちゃん、だめよ! あなたがいなくなったら、毎日の私の食事はどうなるの?! 引き取り先を見つけてからにしてちょうだい!」
「それでも!」」
鳥尾は一歩進みました。
「僕はいかなきゃいけないんです! ReNさんに相応しい男にならなきゃいけないんです! そのためにはあいつぐらい倒せないと!」
拳が固く握りしめられました。
「おおきに。ほな……任せたで」
ReNが鳥尾の肩をたたきました。
「はいっ!」
「なんだぁ? 高校生か? そんな世間知らずがこの俺様に勝てると思っているのか? はっはっは! 笑わせるぜ! 俺は四天王最強だぞ?! 普通に考えたら色々すごい能力があるって思わないか?! 速かったり、強かったり、特殊能力使えたりとかそういうやつがよぉ!」
キャラ設定が決まり切ってないけど、とりあえずすごさだけは見せておこう、という蛇足な印象を与えるセリフをリョウが言いました。
「いいえ! 僕は勝ちますから! なぜなら僕には隠された……それこそ特殊能力があるからです!」
鳥尾が手で印を結びました。本人が知っているかどうかはわかりませんが、少々卑猥な意味がある印だったので、詳しくは書きません。
「え? そうなん? とんかつさん」
ReNですら驚いています。
「いやぁ……私は知らんよ。さっき知り合ったばっかりだしなぁ……高校で『わたしたちのまち』を勉強してるってことぐらいだよ、知ってるのは」
「こーまくちゃん知ってる?」
「くるっぽ?」
こうまくは鳴き声を間違えるほど心当たりがありませんでした。
「飼い鳥も知らないような秘密……あの少年一体何者なんでしょう……」
クロエが注視します。
「僕は……古より垂水区を代々守ってきた騎士……鳥尾家の末裔……鳥尾P!」
鳥尾は名乗りを上げ、波動のようなものが今にも出てきそうなポーズを――かめはめ波みたいなポーズを――をとりました。
「な、なにい?! そんな設定なのか貴様! や、やばい、俺にも設定をはやく付け足してくれ!」
リョウが天に向かって叫びました。どうやら、このバトルをストリートの喧嘩ぐらいにしか思っていなかったようです。
「まじ?! 鳥尾すげーじゃん!」
「え?! キセキ?! 逆立ちしてもキセキだわこれ! ちょっとこのワードJKに流行らせたいわ! 逆立ちしてもキセキじゃん!」
とんかつやアズキは展開にウキウキです。
「垂水区ってそんな歴史ありましたっけ……?」
「……戦後だと思うけどね」
クロエとふくちよは早速現実を見始めました。
「くらえ! 僕の最終奥義! すべてを灰燼と化せ! 交際希望!」
鳥尾が技名を詠唱すると、辺りをまばゆい光が包みませんでした。触れれば原子まで消滅しそうなエネルギー波が掌からほとばしりませんでした。
「……え?」
最初に沈黙を破ったのはリョウでした。内股でした。両腕で自分の体を抱いていました。
「……え?」
仲間も全員口をぽかんと開けています。
「おいおい……鳥尾。お前もしかして……」
とんかつが禁断のワードを告げます。
「中二病?」
「いっ! いやそのっ! 今日は、今日なら、今なら出るんじゃないかって! ほ、ほら、僕のナイトスピリッツがこれまでにないほどに、じょ、上昇してたから! その! あ、あの!」
鳥尾の顔がこれまでにないほどに赤らみました。恥辱のあまり、鼻水やらよだれやらがねたねたと漏れ出し、ついにはほんの少し失禁してしまいました。
「ああっ! あのっ! こ、これは! 違、違うんです! 心の汗! 心の汗が! 尿道を通じて! あふれ出して!」
リョウですら、憐憫のまなざしを送っています。
鳥尾が何かを言えば言うほど、誰も何も言えなくなっていきました。
「だ、大丈夫だよ! 鳥尾君! 僕だってちょくちょくやっちゃうしさ! 第一話から今までで二三回はやっちゃったかな?! ほ、ほら、さっきReNが言ってたでしょう? 人間いつかは失禁するんだって! 必ず失禁するんだって! 遅いか早いかだけなんだよ! 他の人より50年ぐらい早かっただけだよ!」
失禁におけるメンター、ふくちよが不要なフォローをしました。
「うああああああああ!」
鳥尾は獣のように咆哮し、入り口の方へと走り去りました。
鳥尾、再起不能。




