#16 メタ認知
桃太郎――ReN
野良猫(猫)――ことと
とんかつ(犬)――勝ち組とんかつ
鳥飼の少年――鳥尾P
シマエナガ(鳥)――こうまく
クロエ――Tokage100%(Chloe)
食パン(しょくぱん)――ショコモ
人に優しくて可愛いJK(猿)――あずき
爺さん――ふくちよ
爆発物――ピロッシー
カッシー四天王③――新月たけ
「ぐっ!」
ショコモの左アッパーが新月に決まりました。
「こっちもストップ安かよ!」
とんかつはポートフォリオをチェックして嘆きました。
「とんかつさんが勝ってるとこ見たことないなぁ、僕。へへへ」
ふくちよが少し嬉しそうに真っ赤な文字だらけの画面をのぞきます。普段、自分がついていないので、人の不幸に飢えているのでしょう。
「しっ!」
新月のラリアットがショコモの首を直撃し、ショコモはダウンを奪われました。
「えーん! さっきの戦いのせいでネイル剝がれてるぅ!」
戦いという戦いもなかったはずのアズキはしょんぼりした様子です。
「ぴぴ! その手、ネイルだったの?! 素手で長芋を掘った後そのまま来たのかと思ってた!」
こうまくが歌うように言います。
「くっ! ここで負けてなるものかぁ!」
ダウン後、足四の字固めを食らいながらも、ショコモは戦意を喪失していません。意気軒高です。
「あ、あのですね! ぼ、僕はす、すぐそこの高校に通ってて、よ、よかったら休みの日とか一緒に若松公園で鉄人28号見ませんか?」
たどたどしく鳥尾がReNを口説きます。
「えー。ウチ、万博記念公園で太陽の塔見るほうがええなぁー。知ってる? 太陽の塔って横山光輝が作っててんで」
「それは鉄人28号のほうだよ」
コトニャンが寝ぼけまなこでツッコみます。
「うおおおお!」
ショコモの声がリングを震わせます。力を悉皆出し尽くし、新月のホールドを破りました。
「ちっ! やるな! お前さんよぉ!」
立ち上がった二人はがっちりと組み合いました。
「爆弾てのも気楽なもんですよぉー。なんせ最期は爆死と決まってますからねぇ。組の鉄砲玉として、ほかにこんな逸材ありますか? あっはっは! あ、カオマンガイ食べます?」
「い、いえ……結構です」
どこからともなく取り出されたピロッシ―のカオマンガイは、少しすっぱい臭いがしました。とんかつと同類だろうか? とびきり良いように言えば、なんでもポケットに入れる少年のような心を持った人なのだろうか? クロエはこの爆発物をはかりかねていました。
「おおおお!」
新月の渾身のストレートがショコモの眉間にめり込みました。こぶしが逆側にまで突き出ています。
「ははは! 終わりだ! 俺の勝ちだぁ! ちょっと絵面がえぐくて引くわ!」
「そんな! ショコモさぁーん!」
という声はどこからも飛びませんでした。最初から誰も見ていません。
「か、かかったな……」
頭に腕が刺さったまま、ショコモは笑います。
「これで……ぐはっ……これでお前は右手が使えない……」
ショコモは一瞬のうちに、新月の左手を掴みます。
「ぬ?! な、何をするつもりだ!」
「こうするのさ! これがほんとの食パンチだぁああ!」
ショコモは刺さった腕をさらに押し込み、その勢いで自分の顔を新月の顔に押し付けました。
「む! むむむ! むむむうむう!」
新月は顔全体をパンで包まれ、息ができません。傍からは、熱烈な口づけをしているようにしか見えませんでした。しかし、そもそも誰も見ていないので、この一文は関係ありません。
一分、二分……時間の経過とともに新月の動きは緩慢になりました。
三分後、新月の握りしめた拳が音もなく開かれました。
「や、やった……僕は勇者『しょくぱん』さ……みんな……やったよ……僕だって意味のある人生を送ったんだ……みんなの役に立った……僕を人として認めてくれる素敵な仲間のね……悔いはないさ……」
ショコモは薄れゆく意識の中、観客に向かって大きく腕を上げました。
誰も見ていませんでした。
「あれ? あの二人倒れてない?」
激闘から五分後、ようやくReNが気づきました。
「え? まじ?」
とんかつがリングにあがり、医者でもないのに脈をとる真似事をしました。
「だめだ……二人とも死んでるわ。たぶんだけど」
「ええー! とんかつ屋の作るパン計画はどないなんねん!」
ReNはショコモに駆け寄り、さめざめと泣きました。
「仲間の死を悼む可愛いJK! もう! どうしてそんなに素敵な枕詞を増やしていくんですか!」
違う意味で鳥尾も泣き始めました。
「こ、これは……嫌な予感がする……」
ふくちよがつぶやくと、コトニャンが側にきました。
「どういうことだい?」
「つじつまが……合わされているんじゃないかと……」
「その話………詳しくお願いします!」
クロエも寄って来ました。「私……自分が……この世界がよくわからなくなってきているんです……今だって爆発物と雑談してますし……」
「ここからは……僕の仮説だよ? 僕たちの冒険はつまり……何かをなぞっているんだ。大きな大きな何かのストーリィをね……。だとしたら……途中で寄り道してたとしても……つまり、オリジナルストーリィには無いようなことが起こっていたとしても……最終的には本筋に戻るはずなんだ……今までずっこけ三人組みたいなのほほんとした話だったけど……ここで急に二人も死んだ……本流に戻り始めているんじゃないかと……」
「おいおい! ふくちよさん! 急に何言ってんすか?! ここからどんどん余計なキャラが死んでいくみたいなフラグ立てないで欲しいっす! こんな下げ相場見ながら死ぬのは嫌っすよ!」
とんかつですら焦り始めました。
「……それがほんとならさ。自分が『余計なキャラクタ』だったら、今後排除される……ってことだよね? 猫は……? どうなんだろ?」
コトニャンの目からは眠気が失われていました。
「とーちゃん、しっこ漏れてんで」
「きゃっ!」ReNの指摘でふくちよは股間を押さえました。
ReNがのんびり続けます。
「心配せんかて、人間死ぬときは死ぬ。いつか絶対死ぬ。遅いか早いかだけや。今を楽しまなあかんやん」
「そ、その通りですよ! だ、だったら……ReNさん! この冒険が終わったら……僕とデートしてくださいね! 僕、人生を楽しみたいんです! これから! ずうっといっぱい! れ、ReNさんと!」
「かまへんで! そういう考え方、ウチ好っきゃねん!」
ReNが今までで一番の笑顔を鳥尾に向けました。
他のみんなは思いました。
「あ、こいつ次回あたりに消えるな」
続く。




