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桃太郎  作者: 小豆沢Q
1/22

#1 彼らが川に向かう理由

<登場人物>

婆さん――小豆沢Q

爺さん――ふくちよ

 やや昔、湊川の近くに、ふくちよという爺さんとQという婆さんがいました。ふくちよ爺さんは人が良く、Q婆さんはやや悪いほうに振っている人でした。

 洗濯物の量が山場を迎えたある夏の日、ここぞというところで洗濯機が故障したので、Q婆さんは気がふれたように怒鳴り散らかしていました。

「何考えてんねん! 夏や夏! 真っ盛りもええとこの夏やで! 汗かきな上、みょーなところでお洒落でやたら着替えまくる爺さんの洗濯物がギョーサン溜まってんねん! こじゃんと仕事せんかい!」

「まあまあ……Qさん落ち着いて」

 ふくちよ爺さんがいつものように婆さんをなだめはじめました。

「これが落ち着いてられるかボケェ!」

「冷蔵庫じゃないだけマシだと思おうよ……ね?」

「じゃかーしい! めげたんが冷蔵庫やったら洗濯機ごとブチめいだるわ!(※めぐ=壊す)」

「そんな無茶苦茶な……」

 暑さのせいか、今日の婆さんはキツネにでも憑かれたかのように不規則発言を繰り返しています。ふくちよ爺さんは困り果てていましたが、ぴかっと良い案を思いつきました。呼応するかのように、頭頂部も美しく光り輝いています。

「そうだ! Qさん! 川に洗濯しにいこうよ! 昔話みたく湊川でじゃぶじゃぶやってさ! 子供みたいにはしゃいじゃおうよ! へへっ!」

「おどれ狂てるんか! 高齢者が二人川でじゃぶじゃぶやってたら、ありとあらゆる理由付けされてあっちゅうまにポリに通報されて事情聴取コースやがな! なにが『そうだ! Qさん!』や! 毛利小五郎でもそんなふやけた饅頭みたいな提案せーへんわ!」

 ふくちよ爺さんは渾身のアイデアが迷探偵と同レベルに貶められてすっかりしょげてしまいました。頭頂部も光を吸収し、マットなテクスチャになっています。

「ん……まてよ……」

 爺さんが背中で「どうせ俺なんて……」と語る傍ら、Q婆さんの黄灰色の脳細胞がうごめき出しました。

 ――爺さんを川で遊ばせる。ワタシも川で遊ぶ。ワタシがつまづいたという風体で爺さんの背中を川の深みに向かって押す。爺さん溺れる。すかさず濡れた洗濯物を投げつけて体の自由を奪う。ワタシ、人に聞こえない程度の声量で「あれぇーだれかぁー洗濯中にじいさんがぁー」と叫ぶ。爺さんきっちり溺れきる。数か月後、こっそりかけてた保険金が入る――


 Q婆さんが爺さんの背中を優しくなでました。こんなことは四十年来ありませんでしたが、ふくちよ爺さんはイイ人なので、それが意味するところに気づきませんでした。

「ええで。いこや、川。あんたの洗濯もんしとかなな。明日あんたが困るさかい。うふふふう」

「Qさん……。僕の明日の着替えのことまで考えてくれてたなんて……ありがとう! 楽しもうね! 川!」

「せやな! 楽しまななぁ! ふっはっはっはっは! 美しい雲の上で天使がハープを奏で、舞い踊るような素敵な明日があるとええなぁ! ぬぁっはっはっは!」

 Q婆さんの呵呵大笑を聞き、やや不信感をもった爺さんでしたが、自分の提案が受け入れられたのが二十年ぶりだったため、「うんうん! 行こう行こう!」と舞い上がった返事をするだけでした。

 これから巻き起こる恐ろしくも悲しい運命も知らずに――。


続く。

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