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2-5 冒険者と治安対策

 ひとまずギルマス根上さんとの会談を終えて、改めて冒険者ギルドの建物内部を視察した。

 一階は、詰め込めば百人は入れそうな大広間。受付、トイレ、そして依頼内容の掲示板などがある。今は午前十時、冒険者は誰もいない。


「皆さん朝は早いのですか?」

「そうですね…。ギルドは二十四時間開けておりますが、だいたい賑わうのは夕方です。その日の成果を報告して、次の依頼を受けて帰られますね」

「朝出掛ける時には、ギルドに立ち寄らなくてもいいんですか?」

「必要ありません。ダンジョン入口の事務所で確認して、武具を受け取る形ですので」

「え?」


 よくあるイメージと違ってびっくりする。考えてみれば、街中で冒険者っぽい人を見かけることはないけど、単に人数が少ないからだと思っていた。


 松野市第一ダンジョンは、ギルドからだいたい三十キロほどの距離にある。さすがにちゃんと道は通っているが、これまで移動手段は馬車か徒歩のみだった。

 ギルドの登録冒険者は、例外なく馬車で往復する。徒歩の場合、往復とダンジョンに潜る時間を足すと日帰りが困難で、前日に入口で野宿するしかない。


「旅人の皆さんは、なぜか必ず野宿していました」

「そうなんですか」

「皆さん素晴らしい装備をお持ちで、お金はあったと思いますが…」


 一年半しか現れなかった旅人、つまりゲームのユーザーが馬車に乗らなかったのは、それがゲーム上の移動手段に設定されていなかったせいだろう。

 もっとも、嫌がらせのようにおかしな設定を潜り込ませるのが闇の神だから、本当に数時間歩かせ、一晩泊まらせた可能性もある。どっちにしろ、画面に馬車が映っていれば、自分たちにも乗せろという要望は届いたはず。ねえ!?


「知らないわよー。私は運営じゃないし」

「星を造っておきながら無関係だとでも?」

「頼まれたから造った…ようなものだし。いいじゃない、歩けば健康になれるわよー」


 横で一緒に説明を聞く闇の神本人は、予想通り言い訳ばかり。

 闇が運営でないというのは本当だろうけど。私に対してはお節介な神だし、自分で運営したら手も口も出しまくったに違いない。



「それで…、根上さん、武具を受け取るというのは」

「はい、それでは今から説明します」

「初心者向け講習ですね」

「ええ。最後の新人冒険者は三十年前でしたので、久々です」


 ………。自分と似たような年齢にしか見えない百三歳は、時々唖然とするような台詞を吐くから気が抜けない。

 根上さんを含めて、百三年前に大人として創造された人類は、仮に二十歳と見積っても実質は百二十三歳ぐらいに相当する。地球なら世界最高齢がうじゃうじゃいることになるけど、肌の艶も突き出たお尻も全くそぐわない。

 あーでも、もうこれからは自分も年齢不詳なんだなぁ。

 闇の神の端末が製造されたのも百三年前。それを元にして現人神になった松野祐子は、闇がどうにかしない限り不老不死だ。

 とんでもない長寿と不老不死が暮らす松野市。今はまだ日本に似ているこの星だけど、将来は大きく変わってしまうんだろうな。


 さて、初心者講習によれば以下の通り。

 冒険者は現地までは手ぶらで向かう。そして入口で、事前に預けていた武具を受け取って中に入り、終わったらまた預けて帰るという。

 もちろん、潜って獲得したものは自力で持ち帰るし、食事や野営の用意もあるから、本当に手ぶらってわけではない。殺傷力のある武器の持ち歩きを禁止しているわけだ。

 異なるダンジョンで預けた武具でも受け取れるし、預ければ破損なども自動修復される。また、市内の武具屋で購入したものも、武具屋で登録すればその場で事務所に送られる。合理的というより人智を超えたシステムだった。


「これも神さまが与えたわけですか…」

「そうです。武具の収納スペースはどうなっているのか、我々には理解も及びません」


 職員の作業はただ放り込んで取り出すだけ。冒険者は装備のメンテ不要だし持ち歩く手間も省ける。そして町にとっては、武器をもった人間がうろうろする治安上の問題も解決出来る。よく出来たシステム。

 それが実現出来る能力さえあれば。

 闇の創造主はたぶん、ただ造っただけなんだろうけど、思いつきで宇宙を造るような力なら、どんなあり得ないことでも実現出来てしまう。


「でも、魔法が使えますよね? 街中で攻撃魔法とか…」

「ダンジョン内部など、決まった場所以外での魔法使用は不可能です。祐子様はその対象にならないかと存じますが…」

「な、なるほど」


 根上さんの話では、冒険者ギルドの地下に、魔法の練習ができる部屋があるという。視察したいと言ったら断わられたけど。まぁ、断わられたというか、無人なので視察する意味がないというか。


「魔法はダンジョンでお見せします。祐子様の前ではお恥ずかしい次第ですが」

「いえいえ、楽しみにしていますので」


 攻撃魔法を楽しみって言っていいのか疑問もあるけどね。生物とは区別されると言っても、モンスターを殺すわけだし。


 なお、攻撃魔法とは区別される形で、明かりをつけたり水を出したりする魔法は使われている。ただし、そちらもかなり制限があるようだ。

 たとえば水を出すには蛇口が必要。炎を出すにも、コンロか携帯火元を使わなければならない。携帯火元は…、見た目はマッチそのもの、ただしこすらなくても良い。なんだかあまり便利な気がしない。

 結局、日本をモデルに魔法を取り込んだ社会は、使い捨てライターや燃料が不要になっただけ。エコで素晴らしい…けど、地味だ。


「闇がとっても常識人だってことはよく分かったわ」

「魔法はこっちが押しつけたと思ってるしー」


 杜撰でいい加減で、自分勝手に人類創造したくせに、いろいろ配慮だけはしているから評価に困る。

 ため息をつきながら視察を終え、いよいよ旅立ちの準備となった。


※四日ぐらい連続更新予定。街中で武器を振り回すのは異世界の定番だけど、あれは絶対に受け入れられない。命が軽い世界だからチートが目立つ? 冗談じゃないぜ。

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