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2-2 冒険者ギルド、百三年の歴史

「お口にあうか分かりませんが…」

「お気になさらず。今日はこちらが世話になる身ですから」


 結局、そのまま奥の応接間に連れて行かれた。畳敷きの和室で、まるっきり時代劇の長屋のようなのに、ギルマスは紺色のスーツ姿。

 ちゃぶ台ではない長テーブルを前に、温泉旅館でよく見るような座布団。正直、正座しようとすると、まだ身体の違和感が残る。脚長すぎるんだよ。

 ………。

 こちらが闇の神の端末を乗っ取ったんだから、その身体に文句を言うのはおかしい。それは理解してる。違和感は結局、すごい身体で生まれ育った闇の神への劣等感みたいなもの。

 もうこれは自分の身体なんだから、他人に言っても理解されない。その辺がもどかしい。


 どうにか脚を揃えると、職員の男性がお茶を出してくれた。湯飲みには歴代総理大臣の名前が書いてある。


「根上さん、ここにある名前はなんでしょうか?」

「さぁ…、これは神さまに賜わりましたので」


 異世界で日本の総理大臣の名前を見るとは思わなかった…と向かいに目をやれば、根上さんは魚偏の漢字が並ぶやつを手にしている。とりあえず、控え目に言ってバカだ。あ、もちろん闇の創造主が。

 それを当人にツッコミ入れても、何も返って来ないだろう。自分をなだめるように、茶をすすってみる。

 …………。


「甘い…」

「あ、甘すぎましたでしょうか。祐子様」

「あーいえ、おいしいです。甘味が入っているとは贅沢ですね」

「はい! 神さまがお越しになられるなど初めてのことですので!」


 茶を淹れてくれた青年は、五十歳の駆け出しらしい。駆け出しって言葉の意味は。

 百年不老不死だったこの世界。下手をすれば地球人類の一生分駆け出しを続けなければならない。いや、そんな甘いもんじゃないか。

 ようやく百年の不老不死期間は終わったけど、この星の人類は平均三百歳まで生きる設定になった。だから下手をすれば、あと二百年以上お茶くみの可能性がある。私の居酒屋バイトより苦痛に満ちた一生になるかも。


 なお、お茶は煎茶のようだった。この星の生物は、だいたい地球のそれをコピーした形なので、チャの木もある。ただし、製茶の技術は存在しなかった。

 そして砂糖が入っている。海外進出した緑茶が砂糖入りだったのは地球の歴史的事実だし、ここも海外みたいなもの? それはどうでもいいけど…。


「もしかして、これの入手先は…」

「はい祐子様。このお茶と砂糖は、いずれも第一ダンジョン産でございます。ダンジョン内のドロップアイテムには食品があり、普通、高級、最高級に区分されます。また不思議な機械が見つかりますが、そちらには新型、最新型の区分もございます」

「は、はぁ…、それは素晴らしいですね」

「はい! 神さまの恵みに日々感謝するばかりです」


 どこかで聞いたような設定を長々と説明してくれるギルマス殿。まぁそれが仕事なんだろうけど。

 なぜか袋詰めでドロップする煎茶。異世界のモンスターを倒して手に入る庄内米。階層ボスが落としてくれる、紙箱に入った最新型炊飯器。激しい頭痛に襲われたいのに、ハイスペックな身体はびくともしない。

 しかも、感謝されてしまった。どう考えてもこの星の世界観にそぐわなくなったゲームの残滓を、出来れば撤去してしまいたいのに、根上さんは許してくれそうになかった。


※ドロップアイテムが商品の姿というのはまぁよくある設定ですが、それを当たり前と思っている社会は、いろいろ読んでも理解できませんね。いわゆる、常識が邪魔をするってやつですかね。

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