2-16 戦慄の現人神
闇の創造主の悪戯で放り込まれたダンジョン八十八階層。
目の前の雑魚モンスターは、生きているのかすら分からない感じで、とりあえず動かない。もっとも、氷魔法ではり付いた氷がボロボロ落ちて行くから、体温というか、溶けるだけの熱は発している。
結局、モンスターって何だろう? 目鼻口がついてるし、これで話しかけられたら、とてもじゃないが攻撃できない。むしろ巨大なアブの方が良かったくらい。
「あえて闇に聞くけど、相手を選んで攻撃するのは、知性とは言わないの?」
「互いに数値化されて、プログラム通りに動くだけじゃない? だから祐子様は狙われないのねー」
「アンタは?」
「いないことになってるからねー」
「じゃあ私もいないことにできない?」
「それは自分でしなさいよ。祐子様はサボり癖が酷いわねー」
……もう「様」にツッコミを入れるのはやめた。そして、現人神の能力を使えと誘惑する声も忘れた。
数値化か。
まぁ確かに、自分たちに数字がついた時点で、そういう処理はできる。モンスターには使い捨ての演算装置が内蔵されている…という認識は、この生物形からすぐに理解できないけれど。よく見たら、目の前の巨体は、口や鼻の周辺の毛が動いている。呼吸してるんだよね?
うむ。考えるのはやめた。
「では、私が攻撃してみてもいいですか?」
「ゆ、祐子様! よろしくお願いします!」
「すみませんが根上さん、そこで土下座はやめてください」
ふっと息を吐く。
今の自分にできるのは、剣を使った攻撃か、たった今覚えたらしい魔法。
レンタルした剣に思い入れはないし、包丁で料理する程度に刃物は使った経験がある。だけど魔法は全くない。ない。
なら、選択肢は決まっている。
炎か、それとも氷か。これも迷いはない。炎だ。
氷は、覆っても溶けるけど、炎で燃やしたものは元に戻らないから。
「では与蔵さん。貴方の使った魔法を模倣してみます」
「は、はい! な、なんと光栄な…」
「繰り返しますが土下座は…」
どうしてもしゃがみこもうとする二人を後ろに退かせて、モンスターと対峙する。
今さらだけど、でかい。そして抜群のスタイル。
こんな美脚で身体の重量を支えられるとは思えないから、生物ではなくファンタジーの魔物なんだと理解した。
うん。
それなら攻撃可能。
失敗したらどれだけ失望されるか分からないし、頑張るしかない。
与蔵さんが唱えた炎の魔法の呪文を思い出す。
思い出して頭痛がするけど、今さらだ。いくぞ祐子!
「炎よ! 怨敵を焼き尽くせ、オンアビラウンケンソワカ!」
途方もなく恥ずかしいのを我慢して叫んだ。
思わず頬が真っ赤に…ではなく、目の前が真っ赤になった。
何?
さっきと違うけど?
どうしていいか分からず、そのまま立ち尽くす。
そして一分以上周囲は真っ赤なままで、視界が晴れる気配もなかった。
※次で完結。




