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2-14 ダンジョン最下層の雑魚

「あ、あの、故障かもしれません。あの、その、八十八なんて…」


 松野市第一ダンジョン、その第一階層でアブのモンスターと戯れていたはずの私たちは、突然どこかに飛ばされた。

 案内役の根上さんと与蔵さんが大慌て…というか呆然として立ち尽くしている。

 ちなみに、現在位置の確認には何の機械も用いていない。ダンジョン内部では、各自の脳内に、階層と踏破済み通路の情報が示されるらしい。強いていえば、その大元の故障?

 大丈夫、八十八層は間違いじゃないし、この強制転移の原因も分かってる。困るのは、その原因をどうやって案内役に伝えるかなんだけど。


「どうしてくれんのよ!」

「飽きてたでしょー、祐子も」

「それは…否定しないけど、そういう問題じゃないから」

「しょうがないなー」


 言うまでもない犯人の闇――この星の創造主――に抗議すると、闇は闇の腕をのばして闇の頭をポリポリかきだした。

 何、その無理難題を持ちかけられたみたいな態度。どう考えたってアンタの暴走でしょうに。

 すると、突然ダンジョン内に声が響いた。


「ただ今、神格を有する者の侵入を認めました。このダンジョンは人間用となっております。速やかな退去を求めます」


 すごいテノールの美声で、とんでもない放送が流れた。というか、ダンジョンに響く声っておかしいでしょ。


「天の声がこんなことを言うなんて…」

「いや、しかし天の声は絶対ですし…」


 ………案内役は受け入れていた。どうやら天の声というのはダンジョンの装置の一つらしい。

 と言っても、要するに私を排除するってだけ。こんな下層に飛んだ理由になってないし、受け入れたら二度と私は入れない。何その絶望的な条件って。


「ペナルティとして、当該者の一行を現在の最下層に移動させました。無事に脱出できた場合は、今後の出入りを特例として認めましょう」

「ええっ!」

「こ、ここで戦えと言うのですか!?」


 なるほど。落し所としては悪くない、か。

 確実にドヤ顔してるはずの闇の方は見ないようにして、ため息。

 冷静に考えれば、いろいろおかしい。

 だいたい、現人神はダンジョンのシステムに介入できるわけで、天の声の指示など無視できる。案内役の二人がそこに気づくと困るので、さっさと脱出するしかなさそう。

 え? 未知の階層への恐怖はないのかって? まぁ、いざとなれば闇がいるし。


「えーと、よく分かりませんが、要するにこの階層のモンスターを倒せばいいってことですよね?」

「祐子様、た、……倒せれば、ですが」


 困惑したままの根上さんを急かすように、一歩踏み出してみる。

 正直言えば、松野祐子はびびっている。祐子という自分は恐れ、この身体は平然としているという絶妙なバランス? 言ってて間違ってる気がする。



 そうして八十八階層を歩き出して十分ほど。

 隣の闇はまさかの茶摘みを歌いながら物見遊山。お茶どころか草の一本もないのに。

 なお、ダンジョン内部は照明もないが、周囲を見通せる程度には明るい。それがダンジョンの仕様だという。

 闇が言うには、当初はそんな予定はなかったらしい。例の闇のダーリンとかいう存在が、どうせ全員が明かりを必要とするので、最初から照らせばいいと助言した…と、聞かなくてもいい話をしゃべったから、何となく耳を塞いだ。

 なんでこんな所で他人のノロケ話を聞かされなきゃいけないんだ。


「静かですね」

「こ……こんなことは初めてです。ギルマス、本当にここはダンジョンなのでしょうか」

「わ、私に聞かないで」


 ギルド職員同士、素を晒しながら先頭に並ぶ。

 入口に近い階層なら、五分以上何も現れないことはあり得ないらしい。与蔵さんはずっと震えっぱなし、根上さんも真っ青な顔。

 自分は……、緊張はしている。だけど震えも何もない。


「あ……」


 小さく声を漏らして、与蔵さんが立ち止まる。

 それが、前方に何かを発見したせいだとは全員が気づいていた。

 当たり前だ。

 やたら高いダンジョンの天井に届きそうな大きさの何かが近づいて来たのだから。


「えーと、与蔵さん、あれは…」

「す、すみません祐子様。私には見えません」

「え? 見えない?」


 あんなに大きいのに…と思ったら、根上さんに説明を受けた。見えないのは「ステータス」らしい。

 おお、冒険者のお約束といえばステータス。さっそく見るための方法を聞いた。と言っても、対象の方を向いて、文字通り見るだけ。そして、レベル差が大きいと見えないわけだ。

 与蔵さんのレベルは千五百だから、それより上か………。


三拳脛みつかはぎ、レベルは八千ですね」

「は、は、八千!?」


 見えたものを教えたら、根上さんが泡を吹いて倒れそうに。


「根上さんも高レベルですよね?」

「倍以上のレベル差です! わ、私にも見えませんし!」

「そ、そういうものですか」


 なんか根上さんの口調がおかしくなってる。取り繕う余裕もないようだ。

 そうか。

 困ったな。実はちっとも怖くない。


「三拳って中途半端過ぎない? 雑魚だよねー」

「だから貴方が造ったの。あなたが」

「えー」


 呑気な闇の戯れ言まで聞こえてくる。緊張感が失われるのは、だいたいコイツのせい。

 でも、闇のツッコミは分からなくもない。神話の世界のそれなら七とか八とかだから、たぶんそれより弱いってことだろう。

 逆に言えば、この先に七か八がいて、目の前のモンスターが雑魚なのでは。そこは思っても口には出せないな。


「祐子様…」

「えーと、私のレベルなら対応可能ですよね? ただ、私は戦ったことがないので」

「………」

「お二人に見せていただきたいんですが。ダンジョンでの戦い方を」


 予定は狂いっぱなしだけど、今日はダンジョン視察にやってきた。そして人生初の魔法とか、使ってみたいんだ。

 人生はもう終わってるって? 余計なこと言わないで。


※夏も近づく何とやら。いっそ、海水浴場のようにスピーカーから音楽の流れるダンジョンとかどうだろうね。

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