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2-11 ここをキャンプ地と

 第一ダンジョン前の広場に立って、まずは周囲を確認していく。

 学校のグラウンドぐらいの広場。その左手は緑に覆われた山が迫っていて、奥の方に石造りの門のような何かが建っている。どうやらそれがダンジョンの入口らしい。

 で、正面奥には冒険者ギルドの建物を小さくしたようなものがある。これが事務所なのだろう。事務所の横には、日本でも見慣れた白っぽいコンクリートのやつ。間違いなく公衆便所だ。

 広場の左手手前は幾つかの区画が作られ、屋根のついた東屋や水場が並んでいる。これも日本で見覚えがある。キャンプ場そのもの。


「冒険者っていうか、家族でバーベキューでもしそうな感じ?」

「なんかイメージと違うねー」


 隣で一緒にこの景色を眺めている闇――この星の創造主――に、軽く非難するような口調で問いただしたが、当人にイヤミは伝わらなかった。


「えーと、闇、あ、な、た、が、造ったんでしょ?」

「冒険者が野営する場所としか指示してないのになー。というか、お風呂はないの?」

「冒険者はその辺で水浴びするもんでしょ」

「それじゃあ寒いよねー?」


 私よりゲームに詳しくない闇に言っても仕方がないのだと、それは分かっているけどツッコミを入れずにいられない自分。

 そう。あくまでもこれは闇の親切心が招いた結果だ。

 水場や炊事場、トイレが完備していれば、野宿が快適になるのは間違いない。野宿というか、有料のキャンプ場ならあって当然の設備だ。


 ただ、冒険者はキャンプを楽しみに来るわけじゃないし、そもそもここだけで野宿するわけでもない。第一ダンジョンは、日帰りで攻略できる広さではないようだし。

 根上さんも含め、第一ダンジョンの果てまで探索できた人は誰もいないそうで、だから何層まであるのかも不明。根上さんは四十三層が限界で、かつての旅人の情報では五十層は到達できたというが、まだ先があったらしい。

 ともかく、それだけの層を潜るのに、日帰りでは不可能。かつてはダンジョンに一週間ぐらい泊まる旅人がいたわけだ。

 さすがにダンジョンの中にキャンプ場はない……はず。ないよね?



 さて、キャンプ場の左側に対して、向かって右側は道が続いている。そこには何軒かの家が建っていた。

 近づいてみると、武器屋など冒険者御用達の店が並び、食料品店や雑貨店、さらに食堂もある。食堂の建物は、スキー場のレストハウスみたいな形をしているので、これらはダンジョンと同時に闇が造ったもののようだ。

 隣に本人がいるのに「ようだ」もおかしな話だけど、どうせ本人に聞いてもろくな返事は来ないわけで。

 その先には…、第一ダンジョン前駅があった。高架線の下に小さなコンクリート建築の駅舎があって、手前には地上に引かれた線路もみえる。ダンジョンの近くに踏切、そして黒く塗られた貨車が停まっているわけだ。


「根上さん、この駅を利用する冒険者はいますか?」

「え、ええ。一日一往復ですので少ないですが、徐々に移行するかと思います。馬車組合からも転職されるそうです」

「それならいいんですが…」


 考えてみれば、勝手に商売敵の鉄道を引かれてしまって、馬車組合は大変なんだろう。もっと大変なのは、鉄道を維持するための人手なんだけど。

 かつての清水港線じゃあるまいし、一日一往復なんて…と思ってしまう。しかし、松野駅周辺に運転士は一人しかいない。そして今は利用客も少ない。引き込み線の貨車はオブジェのような扱いで、今のところ使われていないようだ。


「要するに、闇のダーリンとやらは、ただの鉄ヲタなんでしょ? 経営とか知らないでしょ?」

「そりゃあ、ただの学生だもん」

「創造主のダーリンが学生って、どんな冗談よ」

「残念でしたー。創造主も学生でしたー」

「………」


 だから何の冗談だって。ツッコミが声にならない。


 ともかく松野市の人口十三万だけで、近代都市を経営するのはどう考えても無理。鉄道でつながった他の都市と連携しても厳しい気がする。かつての一の町から三の町まで合わせても、せいぜい二十五万人ぐらいにしかならないのだ。

 それに、連携自体が一筋縄ではいかないはず。

 自分の感覚では隣町だけど、百年間全く交渉のなかった住人同士の認識は、まさしく余所の国だ。松野市が一の町で一番大きいから、黙ってその指示に従えといえば、最悪は戦争になりかねない。


「ダンジョンで採れたものを貨車で運ぶって、なんだかファンタジーじゃないなー」

「自分で造ってその台詞?」

「ダーリンが造れって言うんだもーん」


 その瞬間の闇は、闇なのにノロケ顔だと分かってしまう。うざ。うざ。うっざー。

 ――――はともかく、産業のある集落に鉄道を通すのは普通の判断だと思う。だいたい、ファンタジーにだってトロッコぐらいある…よね? むしろ、魔力で動く機関車とか、これ以上ないぐらいファンタジーだと思うよね。


 なお、店主たちからは陳情があった。要するに、この辺の道も直してほしい、と。

 人間は人間で勝手にやれと詔を出したわけで、今さら陳情されても困るんだけど、この件に関していえばこちらが見落としていた事情もある。仕方なく了承した。というか、創造主に伝えておくと答えておいた。

 店主たちの表情は微妙だったが、根上さんが例によって勢いよくやらかしたので、釣られて土下座していた。たぶん、現人神と創造主の区別がよく分からなかったんだろう。大丈夫、自分もよく分かってないから。


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