2-1 現人神、ギルドへ潜入調査を試みるも
※独自路線異世界にどのようにダンジョンは存在するのか? あくまで適当に話は進む予定。
松野市在住の現人神として、百三年前の神の束縛を「解放」した私、松野祐子。
日本をモデルに創造された世界を、せめて人類が自立出来る程度に手直しする。そちらの方は紛いなりにも進んでいる。
杜撰すぎるインフラを整理して、各都市が全く交渉のない状況は、高速鉄道と街道の整備で対応する。創造主の闇の神と協力して、ここまではどうにかした。
何だかんだ言っても、人類はもう無気力じゃないから、一定の道筋が出来れば後は勝手にやってくれそう。
松野市と隣町の鶴間市――かつての「二の町」――まで三百キロもあったので、中間に駅を作って街道も通したが、既に移住希望者が千人を超えたらしい。近々独立した町になるというから大したものだなぁと思う。
――――と、そんな感想をもらす自分は、だいぶ人間から遠ざかってきた。仕方ないでしょ、こんな非常識な真似を続けているんだから。
で。
今日は闇とは特に約束せず、変装して街に出た。
神殿前の松野銀座通りは、朝からにぎやかだ。人口の伸びが鈍ったとは言え、十三万人に届いた松野市最大の繁華街は、見た目は若者ばかりで見た目は活気もある。
――――見た目は若者、本当は百歳がうじゃうじゃしてるけどね。
闇と二人で市内の区画を造り直した時に、銀座通りからは道幅を広げないよう要請があった。なので、歩道はついたが道幅は対面二車線に留めている。
そして、幅を広げてまだ日が浅いのに、既に歩道部分は商店の一部のように占拠済み。未来の自動車社会を前提とした拡幅に対して、実際には馬車や牛車しか今は走っていないので、歩道の価値は全く理解されていない。
まぁ日本だってつい最近までは似たような状況だった。自動車を増やして、とんでもない数の交通事故を起こして、それでやっと「車だけにやさしい社会」は変わっていった。
そんなどこかの国の失敗例は、町の図書館で知ることが出来るらしい。けど、どうするかは市民が自発的に考えることで、市民の枠から外れた自分が口を出すことではない。
…ちなみに、松野祐子は現人神なので人間としての戸籍はない。その代わり、永久非課税の神殿の持ち主として登録されたらしい。神殿の持ち主は、私じゃなくて闇の神だと思うけど、闇は私以外に認識されないから仕方ない。
ただ、現人神の自分は神明明神の仏像と違って活動する。買い物だってする。それを非課税にしたら、現人神脱税が可能になる。税を払いたくない人が私に買ってもらえばいいし、資産を形式的に私に贈与すれば、タックスヘイブンより簡単だ。
ただし、形式的に贈与されれば私のものだから、勝手に使うけどね。まぁ、その辺は市の方で何か考えて、そのうち対策を考えるそうだ。
楽しい街歩きしながら、そんなどうでもいい話をするのは理由がある。これから行く先で、自分は収入を得る可能性があるのだ。
冒険者ギルド。
ゲームでは通常、依頼を引き受けて達成すれば報酬を受け取れる。その他の買い取りも請け負っているという設定も多い。残念ながら、この星での換金システムは某銀玉ギャンブル形式らしいけど。
はっきり言って、この町に全くそぐわない施設。それが存在するのは、闇の創造主がこの星を造った理由が、ゲームで使うためだったから。
星を造って百年後というタイミングで、ゲームの舞台になった星は、たった一年半でゲームのサービス終了という笑い話にもならない事態に。
残された星は自立して生きていくのだが、そこで扱いに困るのがゲームの名残り。冒険者ギルドと、モンスター、ダンジョンが現在もある。
そうして銀座通りを歩いていると、違和感しかないウェスタンな建物が現れた。松野市が誇らない冒険者ギルドだ。
ギルマスの根上さんとは、一時間後に面会の約束をしている。なのでそれまではお忍びでギルドの様子を観察する予定。そのためにしっかり変装もしたんだぜ。
…………。
西部劇でおなじみの両開き扉を抜けて、恐る恐る足を踏み入れてみる。
内部は某映画村の芝居小屋を思い出すような空間。端の方には木製の長椅子やテーブルがいくつか置かれていて、柱にはお札が貼ってある。火廼要慎、と。
どこの愛宕山だっ!
気を取りなおして。
奥には受付があり、その手前左側の壁には依頼の紙が貼りだしてある。無理矢理混ざった時代劇要素を抜けば、よくあるゲームの画面のようだ。そう、闇の悪ふざけ要素を除けば。
どれどれ、依頼内容を確認してみよう……っと。
「……………」
何だろう。視線を感じる。
あ、これはもしかしてよくある「へっへお嬢ちゃん、俺たちがたっぷり可愛がってやるぜぇ」的なあれ? いや、それは冒険者に失礼か。
…………んんん?
知らない人が近くで土下座してるんだけど。
「あ、朝から我が町をお守りいただきありがとうございます!」
「勿体ないお姿、ああ何とお美しい!」
んんんんんん…?
も、もしかしてばれてる?
「ゆ、祐子様! お越しになられたならお知らせいただければ」
「あ、おはようございます根上さん。よく私が分かりましたね」
「えっ?」
奥から慌ててやって来た根上さんは、私の疑問に動揺した。
えっ?
おかしい。
いつも日本のリクルートスーツの私が、町で売ってる着物っぽい衣装を着て、なぜか一緒に売ってたパナマ帽をかぶってグラサンまでつけているのに。
「あの…祐子様。大変失礼かと存じますが、とても目立っております」
「え……」
「その背格好の女性はおりませんし、何よりその…、尊い神さまの気が辺りに満ちておりますので」
神さまの気って何? 初耳なんだけど。
見た目は確かに…、この身体がそもそも非常識なのを忘れていた。
この星の人類は、百年間栄養状態は良好だったので、全体的に発育もいいんだけど、それでも端末の身体は別格だ。着物なのに胸元が圧倒的存在感ってどうなの? 平安時代ならモテないよ!
※映画村は楽しいよね。筆者は自慢じゃないけど、撮影所のスタジオ見学もしたことあるぜ。俳優会館で黄門様がテレビ見てたぜ。




