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この愛は変わらない  作者: @豆狸
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 同い年のエウジェニオ王太子殿下との婚約は私にとって誇りでした。

 幼いころは年が同じなら女の子のほうが成長が速いものなのに、殿下は五歳で初めて会ったときから私よりも背が高く、精神的にも大人でした。

 勉強も武術も教師を唸らせるほどで、政略的に選ばれた婚約者に過ぎない私にもいつも気を遣ってくれました。だからこそ私は、殿下に相応しい人間になりたいと願ったのです。


 私の両親は仲が良く、そんな夫婦になりたいとも思っていました。

 病弱な母を思いやる父とカルーゾ侯爵として多忙な父を精神的に支え続けていた母の姿は、私の憧れでした。

 母が亡くなったとき、呆然自失の父に代わって私を抱き締めてくれたのはエウジェニオ王太子殿下でした。涙を止めることは出来ませんでしたが、彼の温もりに包まれていると未来に向かって歩こうという気持ちが湧いてきました。殿下の隣に立てる、殿下にとっても誇りになる婚約者になりたいと思いました。


 私は殿下を愛していました。

 殿下は私の初恋だったのです。

 この気持ちは永遠に変わらないと信じていました。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 私はエウジェニオ王太子殿下を愛しています。

 この気持ちは永遠に変わりません。

 十六歳で入学した学園の十八歳の卒業パーティで婚約を破棄されて、二年経って再構築を望まれた今も変わりません。変わらないはずです。


「ジェラルディーナ、今日は君の好きなお菓子を用意したんだよ」


 王宮の中庭でのお茶会です。

 熱いお湯で淹れられたお茶も美しく飾られたお菓子も美味しそうな香りを漂わせています。美味しそうな香りのはずです。

 なのに、どうして吐き気がするのでしょうか。唇を噛み締めた私を見て、殿下が心配そうな顔をなさいます。


「大丈夫? 体調が悪いのかい?」

「……」


 案じてくださっているのだから返事をしなくてはなりません。

 私は殿下を愛しているのです。一度婚約を破棄されたとはいえ、こうして再構築出来たのですから喜ばなくてはなりません。

 だけど、どうしても笑顔が浮かべられません。どんなに目元に力を込めても、溢れた涙が零れ落ちていきます。


「……もう嫌」

「ジェラルディーナ?」

「もう嫌です! 私を莫迦にするのもいい加減になさってください。再構築を申し出ながら、どうしてマレディツィオーネがそこにいるのです?」

「マレディツィオーネ?」


 彼女は私の義妹。

 早くに妻を亡くした父が、私が学園に入学する一年前に連れて来た女性の連れ子です。

 殿下は私に苛められているという彼女の言葉を信じて、私と婚約破棄なさいました。


「とぼけないでください! どうして誤魔化せると思っていらっしゃるんですか? 再開した王太子妃教育に付き添ってくださるときも、夜会のときも、こんな安らぎのときでさえ殿下の隣にはマレディツィオーネがいるではないですか!」


 ……あの夜、学園の卒業パーティで見せていたのと同じ勝ち誇った笑顔で!


「そんな状態で再構築をお申し出になるなんて、殿下は頭がおかしくていらっしゃるのですわ!」


 不敬罪で処刑されてもかまわないという気持ちで叫びました。

 最初のうちは再構築出来るというだけで嬉しくてなりませんでした。本当に愛しているのがマレディツィオーネで、私が形だけの妃になるのだとしてもかまわないと思っていました。

 でも無理です。もう我慢出来ません。


 再構築をしてから一ヶ月、殿下とふたりきりになれたときなどありません。

 いつもマレディツィオーネがいて、勝ち誇った笑みを浮かべているのです。

 私に話しかけてくることはありませんが、殿下の耳に囁きかけているのはよく見ます。からかうように髪を引っ張っているときもあります。殿下は彼女を嗜めることもなく、なにをされても許しています。


 学園の卒業パーティで殿下は私を極悪非道の毒婦と罵りましたが、本当に極悪非道の毒婦なのはマレディツィオーネではありませんか。

 亡くなった妻、私の母を心から愛していたはずの父を篭絡したあの女譲りの手練手管で、殿下を始めとする学園の貴族子息達を誘惑して道具のように扱っていたのはその子です。

 自分を慕う近衛騎士達を煽って決闘させて、どちらも死に追いやったのもその子ではないですか。


「なにを言っているんだ、ジェラルディーナ」


 わかった上で再構築を受け入れたのだとおっしゃりたいのでしょう。

 殿下は立ち去ろうとした私の腕を掴みました。

 だけどその殿下にはマレディツィオーネが絡みついているのです。ああ、何度でも言います。頭がおかしいです!


「触らないでください。どうかあの卒業パーティの夜におっしゃったように私を処刑してくださいませ。エウジェニオ王太子殿下の妻になるくらいなら死んだほうがマシです」


 自分がそんなことを言う日が来るなんて、思ったこともありませんでした。

 エウジェニオ王太子殿下を愛しています。愛していました。

 この愛は永遠に変わらないと信じていたのに──

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