意気込み ~仁科優華の場合~
少し古い日本家屋の日の当たる一室。
髪の長い少女が一人、畳の上に正座して机の上のカードをある配置にした後にここはこうじゃないかと呟きながら、再び移動させている。
彼女がそれに夢中になっているところに一人の少年が部屋に入ってきて、彼女のそばに座る。
三十分弱、彼女が独り言交じりにひたすらカードを動かし続けても、少年はなにも文句を言わない。やがて最後のカードを動かし終えた彼女は少年がそばにいることに気づいて、お待たせと謝る。彼は彼女がなにをしていたのか知っているので、ううんと首を横に振る。
「優華さんは今年も世界ランク四位で“レギオン・マッチ”に参戦するんだね」
「うん、今年こそいいところまではいきたいんだ。だから、しばらくはお母さんとおばあちゃん相手に練習三昧だから、部活には顔を出せないかな」
彼女、仁科優華は“レギオン・マッチ”の常連。
小さいころに母や祖母から《ヒストリアン・マッチ》を教えてもらい、今では祖母・母・娘と三世代でのめりこんでいる。
そんな彼女は去年、ケガで出場辞退せざるを得なかったので、今年の争奪戦にかける思いは大きい。それを知っている少年、康太はうんうんと言って、じゃあこっちは任せておいてと胸を張る。
なにかあったっけと思った優華だが、なんでもないとニッコリ言われてしまった。
じゃ、そろそろ帰るねと彼女の練習の邪魔にならないように、部屋を出ようとしたが、忘れ物があったとすぐに彼女の隣に座り直した。
「この前、誕生日だっただろ? プレゼント渡しそびれててさ」
優華に差しだしたのは細長い箱。
受けとって開けてみると、シンプルなチェーンのペンダントが入っていた。しかし、どう見ても一人の学生が買えるようなものではないが、多分、彼は自分のためにアルバイトを掛け持ちしてくれたんだろうと嬉しくなる。
「ありがとう。でも、なにを返せるかわからないよ?」
「気にしないで。あず……きっと優華さんなら喜ぶんじゃないかって」
今年のプレゼントは非常に迷ってしまい、最終的に彼女の叔母、梓に尋ねると、とあるショッピングモールでこのペンダントを食い入るように見ていたという情報をくれた。
それが当たっていたようで、康太も嬉しくなる。
「じゃあ、これ、試合当日につけていくね」
そのうえさらに嬉しい言葉を彼女は言ってくれた。
自分はまったく手助けできない彼女の試合。
でも、たったそれだけでも彼女に貢献できるのならば、それでよかった。