意気込み ~伍赤総花の場合~
無機質なオフィスの中に置かれたシンプルなソファにあおむけに寝転んでいる黒髪の女性は相向き合いにおかれているソファに座っている青年から受けとった書面を読んで、ため息をつく。
「どういうことなの。総花君がこんなくだらないゲームに参加するなんて」
茶髪の青年、伍赤総花は奪い返した書面を丁寧にたたんで封筒にしまい、目の前の女性、皆藤茜に言い返す。
「あなただってこないだ国内トップモデルが参加するファッションショーに参加してましたよね」
二人の実家の家業はそれぞれ世間一般的に非常に言いづらい職種のため、普段はめちゃくちゃカモフラージュしながら生活しているのだが、なぜか皆藤茜も多くの人目にさらされるような生活を送っている。
それを総花が指摘すると、そこをつかれるとなにも言えないわねと降参せざるをえなかった。
それにとなおも反論する総花。
現在は任務のために偽の恋人を演じている関係だが、そこには一切の情は入っていない。それを茜もわかっているので、ハイハイと軽く聞き流すことにした。
「茜さんと違ってこれを生活にしようとは思ってませんよ。そもそもこのくだらない遊びをやりはじめたのは俺じゃないですよね」
今回彼が受けとった封筒、《ヒストリアン・マッチ》のトッププレーヤーによる戦いへの招待状。これが届くようになったのは、彼が最初にこのゲームを見つけて参加したからじゃない。
だれが彼を最初に招待したんだっけと考えた茜はその人物二人に思い当たり、げんなりする。
「薔と榎木君のせいね」
「ええ、なので文句はそちらに」
茜の本当の婚約者と総花の恩人である先輩。
二人が遊んでいるところに総花が混じって遊ぶようになり、気づけば総花が世界ランク一位をキープしていた。
決してそうは思っていないような口調と表情で気づいたら総花君が世界トッププレーヤーになっているって、二人ともさぞかし悔しかったでしょうねぇと茜は口ずさむ。しかし、気を引き締め、総花に忠告する。
「総花君、絶対に家業バラしちゃだめだからね」
「当たり前ですよ。そもそもバレたら、警察沙汰ですからね」
その忠告に軽くもちろんですよと笑う総花。
不安的中しないといいなぁと再びソファに沈みこむ茜の目には、期待のまなざししかなかった。