意気込み ~相原涼音の場合~
暖かい日差しの中、大学内にあるカフェで一人座って本を静かに読む女性に、彼女の友人が声をかける。
「今日はなんの本を読んでるの?」
「《ヒストリアン・マッチ》っていうカードゲームの公式ルール本」
友人、由良美香に問いかけられた女性、相原涼音は読んでいたところにしおりをはさんで表紙を見せ、指でタイトルをなぞる。
「へぇ、涼音がそんな本を読んでるなんて珍しい……っていうか、その姿で読んでいる内容は想像つかないわ」
「そう? 昔は学校の空き時間にはこの本に必ずしがみついていたけれどね。大学に入ってからは……はじめてかもね。でも、そんなに意外かしら」
優雅に話す彼女たちの内容は端から見ると想像がつかなかったが、もっと想像がつかないのは涼音が読んでいる本のタイトルだった。
美香は本気で首をかしげる涼音にどうやって驚きを示そうかと思ったが、結局はストレートに伝えることにした。
「うん、意外。なんでそんな本……って言っちゃ悪いけれど、そんな本を読んでるの?」
「再来週にこのトップが集まる試合があって、私も招待されているの」
そういって鞄の中から黒色の封筒を出して招待状を見せる。そこに書かれた文面にへぇと感心するが、読み進めた美香はどう見ても男の子向けだよと呆れはじめる。
あはは、やっぱりそうだよねと少ししょんぼりしながら読んでいた本や封筒をしまう。そして机の隅に追いやられていた飲み物に手を伸ばす。
そんな彼女を見ながら、同じ社長令嬢といっても私と違うわと呟き、涼音さん、頑張ってと小さくこぶしを作ってファイト!と美香は応援していた。