意気込み ~廣野裕樹の場合~
夕暮れどきのコンビニの駐輪場。
制服を着た男子高校生が二人、コンビニの外壁にもたれてジュースを飲みながらしゃべっていた。
「へぇ、まさか裕樹が《ヒストリアン・マッチ》のプレーヤーで、世界ランク八位だとは」
「これでも去年の三位からは下がったんだがな」
髪を短く刈っている男子、瀬良雄太郎は隣にいる友人、廣野裕樹がうっかり言ってしまった“レギオン・マッチ”に参戦することになった話から、彼が《ヒストリアン・マッチ》プレーヤーだと知ってしまったが、似合いすぎて驚けないねと何回も頷いていた。
その言葉にすごく嫌そうな顔をして、お前に言った記憶はないからなと吐き捨てた裕樹。
「でも、十分勝てるんだろ? ほら、全国模試で毎回日本史は全国一位なんだし」
「あの模試はたかだか一部の高校生相手なんだから、比較なんかできない。ま、そっちだけではだめなことくらい知ってる」
しかし、友人を含め、学校の生徒たちは廣野裕樹が日本史がとんでもなく得意なのを知っている。
茶化すように言われたが、それでも裕樹はおだてて調子に乗るタイプではない。それを知っている悪友はしめしめと爆弾を落とす。
「よく言うよ。中学のころはあいつらとつるんで地元じゃ有名なヤンキーだったのに、二年のときの文化祭のくじ引きで決まった罰ゲー……当番のメイド服がそこら辺の女子より似合っていた廣野裕樹君。裕樹が世界史が好きなことぐらいみんな知ってるよ?」
廣野裕樹の女装。
通常、男子が女装するとどこかしらかほころびが出てくる。しかも、当時は現役ヤンキーともなればさらに格好がつかないはずなのだが、彼の女装は本人曰く『適当にやっただけ』でそこら辺の女子顔負けの可憐さがあった。
その逸話は当時在籍していた中学校では伝説になったが、さらに彼の友人らによってそれがほかの地域にも広まってしまっている。
その伝説を広めた一人にうっせぇわと言う裕樹だが、彼の目に闘志が宿ったのを雄太郎は見逃さなかった。