意気込み ~相馬夕貴の場合~
木のぬくもり漂う和室。
庭に置かれているししおどしの音だけが響いている部屋の中で勉強をしている小学生の男の子がいた。
彼はなにかに対して不満があるようで、机の下で貧乏ゆすりをしている。しかし、割烹着を着た女性が声もかけずに入ってきた瞬間、それを止めて遅いぞ、愛理!と女性を叱った少年は彼女が持っているものを見て、目を大きく見開いた。
「ハイハイ、すみませんねぇ。ちなみにお坊ちゃま、先ほどポストに入っていましたが、こちらの封筒はご不要なもので?」
少年の不服そうな声はいつものことだ。
本気で思っているわけではなく、ややツンが多めな彼のコミュニケーションの一環だとわかっているし、この一家はそろってこんな感じだ。だから彼女、愛理もいつも通り軽く受け流している。
それに今日はどうやらこれを待っていたようで、朝からそわそわとし続けていたのか。
お坊ちゃまと呼ばれた少年、相馬夕貴の視線にそう理解した愛理は、わざとひらひらと封筒をゴミ箱の上にかざすと、いるに決まっているだろ!とわざわざ席を立ち、それを受けとった夕貴。
自分では開けられないことに気づいた夕貴が頼むと言って、渡された愛理が代わりに封を開けると、その中には数枚の紙が入っていた。
紙を渡された夕貴はそれを読むと、よっしゃぁ!と両手でガッツポーズを作る。そんなに喜ばしいものだったのかと、驚きながらどんなご用件だったのか聞くと、彼は当たり前だろうと偉そうに胸を張って言う。
「世界ランク六位になったぞ! ようやく “レギオン・バトル”の挑戦者になったんだ。やっと選ばれたからには “ゴールデン・マップ”を獲得してやる!」
なるほど、そういうことだったのか。
彼が《ヒストリアン・マッチ》なるゲームにハマっているというのは知っていて、かなり強いプレーヤーなのだろうというのも気づいていた。
しかし、去年まではこの手紙が来なくて非常に悔しがっていたから、今回これが来てすごく嬉しそうなのが愛理にとっても嬉しかった。
そして、その彼のゲームへの原動力も気づいていた。
「たしかに“ゴールデン・マップ”を獲れば、朱里様から褒めてもらえますもんね」
夕貴は歴代政治家である相馬家の跡取り息子。
この歳で、すでに親が決めた婚約者がいる。彼女、雪宮朱里は非常に毒舌であるが、非常に褒め上手だ。
彼がこのゲームが強くなった原因である彼女にまた褒められたいのだろう。
そう言うと、夕貴は顔を赤くしてなっ……違っ……!違うからな!と首を振って否定したが、非常に説得力がない。
彼の様子に満足した愛理は、さて、今日の夕食はお坊ちゃまの好きなものにいたしましょうと準備するために、彼の部屋を退出した。
愛理が彼の部屋から十分離れたと判断した彼は、思いっきり、天井に向かって叫ぶ。
「よぉし、勝って、勝ちまくって、朱里ちゃんに褒めてもらうんだ!」