意気込み ~ルドルフ・ホイットニーの場合~
青を基調とした高級ホテルのような部屋。
そこに金髪の若い男が座って書類を読みながら、短い間に何回も何回もカレンダーの日付を確認し、舌打ちをしている。
そこに髪を一つにまとめた若い女性が扉をノックし、返事を待たずに部屋の中に入ってきた。彼女は夜を思わせるような濃紺の髪と無表情によって冷たい印象を与えるが、男はそれに動じない。
「ルドルフ様、こんなものが届いておりますが、心当たりは?」
そう言って持っていた黒色の封筒を差しだすと、ルドルフと呼ばれた男にひったくるように奪われた。
「うん、あるよ。ようやく来たか」
「いったいこれは?」
満足そうな顔をするルドルフに対して、女性は怪訝な顔をする。彼女にとってルドルフは基本的に“できる男”というイメージしかないのだが、ときどきこの手の封筒を見てはにやにやしている瞬間を目撃している。
「“レギオン・マッチ”っていってね、《ヒストリアン・マッチ》のトッププレーヤーが一年間の集大成かけて戦う大会なんだ。これが届くまで不安だったんだよね。だってこれ、八人しか参加できないからさ。今年は七位か。上に六人いると思うとまだまだ本当のトップになるのは先かもしれないけれど、それでも“ゴールデン・マップ”争奪戦に参加できて嬉しいな」
彼が語った内容に、はぁとしか言えなかった女性。
彼女がイメージするルドルフ像とはかけ離れており、定期報告が求められている彼の両親へどうやって伝えればいいか迷う。
「あまりアニメとか漫画のフィクションには興味はないんだけれど、このゲームに登場するのって実在した人物ばかりなんだよね」
ルドルフは中に入っていた書面を読みながら自分がハマった理由を言うと、女性はなるほどと理解してしまった。
「魔術の勉強の一環でしたか」
そう。
彼、ルドルフ・ホイットニーは彼をこよなく愛する両親の手によって、祖国を五歳のときに放りだされた。
単身、日本に乗りこまされた彼は日本の高校生活までで大学レベルの知識を吸収し、惰性で通っていた大学卒業後はいったん祖国に戻るも、すぐに現在の地位を得て日本に戻ってきた。
その彼は五歳で放りだされた後、自分を極東に追いやった両親を恨み、いつか使えるようになったら使ってやろうと秘かに黒魔術に没頭していた。
「そうそう……って、なんでヒルダ、知ってるの?」
うんうんと頷いた本人は隠していたつもりだったらしく、ヒルダが知っていることに驚いたが、なにより彼女は小さいころからのつきあいだ。彼が両親に内緒にしてまでコレクションしていたものまですべて知っている。
そこに思い当たったルドルフはじゃあと開き直って笑顔で、女性に宣言する。
「ということで、開催は再来週。ちょっくら野良で遊んできますか」
はぁ、まだ勤務時間中ですよ!?
女性はすでにお忍びで出かける気満々な彼に悲鳴を上げるが、スケジュール管理も君の仕事だよぉと軽くいなされてしまった。
「ヒルダ、ごまかしておいて」
よろしくねと笑顔で言いきったルドルフは、手慣れた手つきで窓から抜けだしていった。