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余興が終わるとき

挿絵(By みてみん)vs. 挿絵(By みてみん)

 決勝戦の開始はステージで司会者による紹介からはじまる。

 しかし、二人ともいつも以上に紹介は簡単に済まされ、すぐにデッキ準備がはじまった。


「まさか予選Aブロック第二試合と同じ組み合わせになるとはね。さっきのルドルフさんの試合といい、多分伍赤君が勝ちそうな気がする」

「ええ、そうね。とはいえ、さっきとは違って今回は魅せる試合になりそうじゃない?」

「やっぱり仁科さんが勝つのは難しいですかぁ。でも、明日香先輩、なんでそう思うんですか?」


 同じ人と対戦するという可能性も否めなくはないが、予選での試合経過から伍赤総花の方が勝つのではないかと予想した三人だが、その試合過程については真人と明日香で意見がわかれた。


「あくまでもこの“ゴールデン・マップ”争奪戦は“余興”。だから面白くないとつまらないわよ」

「そうだね。もしかしたらの推測でしかないけれど、それだから彼はさっきの試合をHRとNで縛る戦法をとった」

「なるほど。じゃあ、今回はどうなりますかね」


 明日香の指摘になるほどと頷く真人。

 志貴と真人が現役だったときはこの“ゴールデン・マップ”争奪戦はなく、ただ年間リーグでの勝敗だけだった。

 しかし、余興、ショーイベントになったことで年間リーグ戦だけではなく“ゴールデン・マップ”争奪戦が開かれるようになった。その意味を“ゴールデン・マップ”争奪戦の参加者たちは理解している。とくに今年ははじめて参加するものはいない。だから観客に魅せなければつまらないだろうと志貴たちも理解はしていた。


「どうだろうね。彼じゃないからわからないけれど、仁科さんと同じで“属性縛り”で来るか、さっきと同じように“レア度縛り”で来るか」

「多分、“レア度縛り”はないんじゃないですかね」

「それはさっきやったからっていうこと?」


“余興”になったからこそさまざまな戦法がさらに開発され、志貴たちも予測するのが楽しみとなっている。

 真人の言葉に質問する明日香。

 はいとにこやかに頷いて対戦表を指でなぞっていく。


「さすがに二回も同じ手は使ってこないでしょうし、なにより相手を見ている気がするわね」


 先ほどのルドルフのときは彼が王者の気質から“王侯貴族”“高レア”のどちらかという縛りを毎回のように使っていた。だから伍赤総花は雑兵どもという意味合いもこめて“低レア”で縛ったのだろうが、今回は“守り主体”の彼女だ。

“属性”で縛ることはあっても“レア度”で縛ることはないだろうというのが彼の意見だった。


 案の定、並べられたカードを見て頷く真人。


「やっぱり伍赤君は白、赤、黒の展開でしたね」


“守りの仁科”に対する攻撃策。

 攻撃に重きを置いた“赤”武士や軍人、“黒”反逆者たちを持ってくるというのは、先ほどのルドルフと同じくスピードを重視しているのだろう。体力があまりないので早めに片をつけないと敗れてしまうという紙一重のカード編成。

 しかし、それに加えてバランス型である“白”王侯貴族、を入れているので、彼にとっては十分な守りになるのだろう。


「そして仁科さんはいつも通り、白・青・黄カードだけで展開しているわね」

「ですね。やや伍赤さんの方が有利かもしれませんが、防御的には仁科さんも十分勝機ありますよね」


 防御に重きを置いた“青”芸術家など、“黄”宗教関係者だと攻撃力こそ弱いが、鉄壁の防御力を誇る。それに加え伍赤総花も加えたバランス型の“白”王侯貴族カードを入れたのは、彼女もまたできるかぎり早く、決着をつけたいというところなのだろう。


「どちらもコンビネーションで特殊スキルを発揮するメンバー」

「うん。さすがはこの二人。どんな頂上決戦が見られるんだろうね」


 伍赤総花がはじめて“ゴールデン・マップ”争奪戦に参加した五年前、彼女とはじめてこの頂上で試合をした。それ以来、何度も対戦する二人だが、いまだにその戦法は進化し続けている。

 試合を見守る観客たちも、志貴たち三人もその勝負の行方を見守っていた。






 第一フェーズ。

 先攻の仁科優華は二枚のカードをそっと出す。マリア・テレジアとモーツァルトで『花開くウィーンの調べ』で、デッキ上にあるすべてのカードに自身の一・五倍を付与。その後、伍赤総花が坂上(さかのうえ)田村麻呂とアテルイを出し、自陣のカードを一掃した後、相手デッキ上にある任意の二枚のカードを強制退場、自身にデバフ無効状態を付与。


 第二フェーズでは、紫式部と清少納言のコンビネーションスキル『宮中華やぐ国風文学』で再び二・五倍の防御力を付与した後、男性に対して魅了状態を付与、全体に〇・三倍の攻撃を行う。デバフ無効状態の坂上田村麻呂とアテルイのみが動ける状態になった伍赤総花は、坂上田村麻呂の『名実兼ね備えた将軍』で相手方全体の防御力を〇・三倍にした後、自身の一・二倍の攻撃を行い、任意の三枚以外はすべて退場となった。

 このフェーズの終了後、二人とも三枚ずつしか残らず、ともに最大数の補充を行った。


 次の仁科優華の攻撃では、聖徳太子、()(そう)()()を選択、『大陸渡来の仏門創成』で自身の守りを固め、その後の『脆く散った兄弟の絆』を防御した。一方、二回目は杜甫、李白、白居易(はっきょい)の三人で『華やかに彩った漢詩』を展開し、次の攻撃を防ごうとしたが、持統天皇、天武天皇の任意のカード一枚に防御バフ解除、二人のカードの攻撃力の平均値の攻撃を加える『守りきった夫婦の契り』によって敗れ去った。




 二人の勝負を見守る控え室では、たったの四フェーズにもかかわらず、盛りあがりを見せていた。


「やっぱりどちらも強い! というか、次々とコンビネーションを出してくるなんて、普通は考えられない」


 志貴がほかの二人のよりも興奮して叫ぶ。

 歴戦を重ねた彼からしても、このカード編成は異様なものだったのだ。


「志貴先輩がここまで興奮するなんて、僕との試合でもなかったから悔しいです。でも、二人ともやっぱり運を持っているんですかね」

「そうね。ある程度は調整してあってもあれだけコンビネーションをくりだしていくっていうのは難しいんじゃないかな。志貴がここまで興奮するのも仕方ないよね」


 志貴の興奮した姿を見た真人が悔しそうに、明日香は淡々と状況を飲みこんでいる。画面の向こう側では次の攻撃に移るためのカード補充を行っていたが、先ほどまでの試合のように感情を表に出さない二人。

 直接彼らを見守っている観客たち、そして葛城志貴、廣野明日香、押坂真人の三人もどのカードがデッキに出されるか見守っていた。



 二人とも同時にカードをデッキに並べ終えた。

 静かになった会場内。一呼吸おいて仁科優華が歌川広重と葛飾北斎を、伍赤総花は善徳女王と(キム)庾信(ユシン)を再び同時に選択する。互いの選択したカードを見た総花は表情を変えなかったが、優華はわずかに目を瞬かせてしまった。



「あっちゃあ」

「あー」

「ですねぇ」


 観客席からも控え室でも大きなため息が聞こえてきた。


「まさかここで『古代朝鮮三国統一の徒』を出してくるなんて」


 善徳女王と金庾信のコンビネーションスキル『古代朝鮮三国統一の徒』。

 唐代以前の中国に関係する人物の助力を得る――任意のカード一枚の通常スキルを相手全体に付与することができ、自身の善徳女王の攻撃力の〇・九倍を相手全体に与えた。

 仁科優華デッキ編成は無難、どころか防御においては通常攻撃ならば(・・・・・・・)鉄壁だったはずだが、司馬遷と並ぶ“UR殺し”の前には無力化された。


「まったくだよ。たしかに『西洋が愛した日本風景』も防御力だけで言えば十分だし、体力五十パーセント未満の敵にスタン効果、五十パーセントの敵に自身の攻撃力の四分の一での攻撃が入るけど」

「本当です。どこからこのコンビネーションを出そうと考えていたんですかね」


 控え室の面々の言葉は観客席にいる全員の気持ちを代弁していた。



「降参です」



 勝てる見込みがないと判断したのか、仁科優華は肩をすくめ、敗北宣言を出した。

 こうして第十五回 《ヒストリアン・マッチ》“ゴールデン・マップ”争奪戦の優勝者が決まった。

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