一番の問題点は君が今、ここにいることだ
「いよいよ決勝トーナメントがはじまったね」
お昼休憩をはさんだ決勝トーナメント。
関係者用の小部屋では同じ地区から殿堂入りを果たした師弟、葛城志貴と押坂真人が食い入るようにステージとつないである映像を見ていた。
先ほどまではほぼ同時進行で試合が進んでいたが、決勝トーナメントは一試合ずつ行われる。まだプレーヤーたちは登場していないが、すでに観客席の盛りあがりは最高潮だ。
[予選A結果]
[予選B結果]
[決勝トーナメント]
「うん。今年のメンバーは去年とほぼ変わらないかな?」
「そうですね。はじめて《ヒストリアン・マッチ》に登場してから五年連続でこのチャンピオンシップを勝ち抜いている伍赤総花くん、去年は受験のために年間リーグ戦を欠場していた相原涼音さん、親子三世代で《ヒストリアン・マッチ》に挑戦している仁科優華さん、そしてこちらも五年前から出場しているルドルフさん。今回はまだなにも起きてませんけれど、なにかが起こる。そんな気がします」
真人はなにかが起こる。そう確信するが、そんなそうそうあっちゃ困るわよと隣に座っている明日香が呆れ顔で言う。彼女はプレーヤーではなかったけれど、いろいろな事情で彼らと同じ席に座らせてもらっている。
やがて照明が落とされ、プレーヤーの名前が決勝トーナメントの司会者によって呼ばれるのが聞こえた。
手元の中継画像ではまさに今、二人はカードを配置している様子が映されていた。
「第一試合は相原さんと仁科さんか」
志貴の呟きにそうねと明日香は相槌を打つ。
三人ともすでに一線を退いた身であるが、後進たちの情報収集は欠かさない。
真人がなにも見ずに二人の得意な戦法を述べていく。
「相原さんは一騎による全体攻撃。それに対して仁科さんは守りの方を多く使いますよね。おととしの五回にわたる勝負はすっごく面白かったです」
仁科優華と相原涼音。
数少ない女性プレーヤーであり、どちらかというと姉妹のような二人は何回も勝負している。しかし、二人とも毎回同じ手段で戦いながら、違う戦法をくりだすというわかりきっているのに、奥が深い戦い方をしていた。
「そうね。どちらかというと相原さんが攻めて、仁科さんが守るといった展開になるのかな?」
「どうだろうね。今、仁科さんの方には玄奘、達磨、本居宣長、シェイクスピア、文成公主がいて、相原さんの方には隠元隆琦、一遍、フェリペ二世、フランツ=ヨーゼフ、ファン・ダイクがいるのか」
志貴がううむと唸ったので、その様子を見て明日香がなにを考えているの?と声をかけた。彼は柔らかく笑って僕だったらどういう風に戦おうかなって思ってねと答えると、真人はさすがですぅと机に突っ伏した。
昔から志貴は対戦相手の分析をひたすら行い、それを生かして勝利するという戦法をとり、真人はあまり深く考えない方が勝つという対照的な戦い方をしてきた。そのため、今でも志貴がこれから戦う相手のように注意深く見ているのを見ると、頭がショートするらしい真人。
一方で、そんな志貴を見て、もう結論は出たんじゃないの?とニコリともせず指摘する明日香。《ヒストリアン・マッチ》においての計算能力は早いことを知っている彼女に指摘された志貴はうんと笑う。
「とはいえ、山札のカードがどういう順番で積まれているかわからないから、半分以上その場での修正が必要なんだけれどね」
さあ、試合がはじまるよ。
そう声をかけると、全員、目の前の端末に集中した。
決勝トーナメント、準決勝:第一試合。
第五フェーズ。
先攻の仁科優華が選んだのは、白河天皇。
「やっぱりそこで『天下三不如意』を切るか」
「ですねぇ」
一応、この試合を手伝っている身なので、明日香もある程度の知識はある。
しかし、“ある程度”でしかない。
二人のため息と表情から間違った選択だったのかと尋ねるが、首を横に振った志貴。
「ううん、僕からすると次善っていったところかな。まだ彼女のデッキ上には強力な特殊スキルを持つミケランジェロや空海が残っている。けれど……」
「はい、この状況だと『天下三不如意』以上の手もないっていうところですよね」
「そうなんだよね」
相手デッキのカードは五枚、手持ち札は八枚、山札は十枚近くある。
このスキルによってすべてのカードをシャッフルしなければならなくなった。
相原涼音は二人と同じように驚くが、すぐに気を取り直し、並べ替えた。
しかし、運悪く彼女のデッキに並べられたカードはどれも今から再構成するには難しいものばかり。
控え室で中継を見ている二人もあちゃあと残念そうな顔になっている。
「決まりますね」
「うん。これで決まりだね」




