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同行者はワルツを踊る。されど、戦を見守るだけ

 無機質な板張りの部屋。

 ルドルフの秘書、ヒルダは最初は試合を見ていたが、途中で飽き、同じように部屋で待機している、座って本を読んでいる青年に声をかける。彼とは前にルドルフのお供で参加させられたパーティーで見かけたことがあったのだ。


「まさか日本のトップ企業の社長秘書様がこんなところにいらっしゃるなんて」


 呼びかけられた彼、八月朔日蓮はこちらこそとやんわり微笑んだ。美人と周りから称される彼女だが、蓮に微笑みかけられたのは決してそういった理由ではないと理解している。

 ただのビジネスパートナーに恋心を抱くほど愚かではないヒルダに、蓮は本を閉じてなぜここにいるのか尋ねる。


「ホイットニーの秘書を務めていらっしゃるとはいえ、ミレナレック家といえばヴァルスタニアで一、二を争う資産家。その方が控え室にいらっしゃるということは、まさかミレナレックのどなたかが?」

「そうだったら、どんなによかったことだか」


 ヒルダの実家であるミレナレック家もホイットニー家に負けないくらいの由緒正しき家だ。しかし、普通はこんな遊びにハマることはない。

 肩をすくめた彼女の様子でだれが参加しているのか察してしまった蓮はまさかと呆然とする。気づいてしまった彼にどう口止めするか悩んだ彼女は、会場を指さしてああ、彼ちょうど今、戦っているわねと真顔でぼやく。


「ああ、あの容姿と態度は目立ちますね」


 蓮もヒルダと同じ立場からか、彼女の苦労が手にとるようにわかってしまった。

 もし自分の主がこんなところに参加していたのならば、全力で逃げたい。関わりたくなんてない。

 なるほどと頷いた彼に、今度はヒルダが質問することにした。


「まったくよ。で、そういうあなたはどの方の付き添いで?」

「ちょうどあなたの主と戦っている彼女ですよ」


 蓮が指した先には栗色の小動物のような女性がカードをそろえている。そのしぐさから、彼女も明らかにこちら側の人間だということがよくわかる。

 しかし、彼女は蓮の仕えるべき相手ではない。

 蓮の主はたしか好々爺だったはずだ。

 だとすると、可能性は二つ。彼自身の親戚か、それとも……――


「もしかして婚約者?」


 彼女の問いかけに、柔らかく微笑む蓮。

 ゆっくりと首を振り、スマホの写真アプリを立ちあげて、ヒルダに見せる。

 そこには隠し撮りしたような感じで栗色の髪の女性の写真がほとんどだった。


「彼女、弓道をしているのですが、弓を射る姿は凛々しいのに、交通事故にあいそうな子犬を助けた姿はかわいらしくて。それから何度もアプローチしているのですが、彼女は照れ隠しなのか、そっけないんですけれどね」


 それがまたかわいいんですよという蓮におもわず引いてしまったヒルダ。

 それって、ただのストーカーっていうわけではないわよねとツッコみたくなったが、その場では黙ることにしておいた。



 ヒルダたちが話しているころ。

 隣の部屋で仁科優華の同伴者として待っていた佐々木康太は、久しぶりに奇妙な生物(・・・・・)を見つけてしまった。普段だったら話しかけないが、なぜか無性に保護したくなったので、おもわず声をかけてしまった。


「試合結果は気にならないのか」


 奇妙な生物、一松櫻は背中を丸めてホットミルクをすすっている。

 紺色の髪の女性や黒髪の優男、長身の学生服を着た男、少し年配の女性はそれぞれの試合結果が気になるようで、結果表の前を行ったり来たりしているが、彼女だけはびくとも動かない。


「そりゃ、気にならないわけないけれど、私がそわそわしたところで結果は変えられないからね」


 康太の問いかけに櫻は口ずさむように答える。

 その言葉は的確すぎた。そうだなと頷いた康太だが、彼女が奇妙な生物化している理由が気になり、ついうっかり出来心で尋ねてしまった。


「なんでそんな暑苦しい格好してるんだ?」


 彼女の姿はいわゆるゴスロリ姿。

 白ではなく黒い方。

 ついでに言えば、なぜか猫耳カチューシャまでしている。

 参加者で一人、女装して参加しているのがいたが、同伴者でこんな格好をしているのは普通はいない……と信じたい。なんのためにしているんだとおそらくだれもが思っただろうが、口にしはしなかったことをあえて、康太はした。

 しかし、櫻はちょこっとだけ首をかしげてなんとなく?と答えただけだった。


「なんとなくって」


 答えに疑問形は反則だろ。

 しかもなんとなくってどういう意味だよと心の中でツッコんだが、気にすることなく櫻はマイペースに話していく。


「しいて言うなら、こういうところに来るのって勇気がいるから」


 だったら来るなよとおもわず言いそうになったが、グッとこらえた。

 それは自分にも言えることだから、彼女だけに言うのは間違っている。


「それに今、ソウが戦っているのは頭を使うもの。だから、ちょっとでも息抜きになればって」


 付け加えられた理由に康太はツッコむことを諦めた。

 いつも彼女たちはベッタリしているというか、本人たち曰くつきあっているわけではないそうだが、どう見ても恋人というか、夫婦にしか見えない。どちらかというと、彼女が押しかけているだけのような気もしないではないが、試合後の彼らのやり取りを見ると、十分彼の方も楽しんでいるような気がする。

 無性に砂糖が入っていないコーヒーが飲みたくなった康太は、会場の外にある自販機に足を向けた。

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