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犬と猫は喧嘩するほど仲がいい

挿絵(By みてみん)vs.挿絵(By みてみん)

 さらっとした栗色の髪。

 染めたことはあからさまなのに、嫌味じゃない髪色。

 これが一度でも王者というものを経験したものなのか。はぁとため息とつくその女性に、夕貴は息を止めてしまった。

 なにがあったのだろうか。前に対戦したことのある彼女ではないような気がする。


「やっぱり、あなただったのね」


 横髪を耳の後ろにかける姿はまるで色違いの日本人形みたいだと思ったが、素直に言うことができない。しかし、それ以上に言われたことの方が気になった。おもわずはぁ?と聞き返してしまう夕貴。

 目の前の女性は目が笑っていない対戦相手、相原涼音はふふと笑いかけてくる。その上品なしぐさになにも言い返すことはできない。


「生意気な小学生ね。おととしからちっとも成長していないじゃないの」

「それはこっちのセリフだ。相原涼音っていう名前をどこかで聞いたことがあるかと思ったら、今期のプラチナランク昇級戦に出ていたやつじゃないか。そのあんたがこうやって来たっていうことは、あれから全勝したっていうことか」


 おっと、いけない。

 対戦相手に感情的になってはいけないとわかっていても、夕貴は自分の感情を止めることができかなった。

 これだから今、まさに言われた『生意気な小学生』という評価を覆せないとわかっているのに。しかも、涼音は猫のように笑いながら、名前のとおり涼やかに、歌うように夕貴の推測に応える。


「ええ、そうよ。去年は受験とかぶってたから、こちらをサボっててね。でも、安心して頂戴。今の状態のあなたに負ける気がしないわ」

「ふん、だったら安心だ。俺も安心して戦える」


 涼音の事実に対して、夕貴のそれは強がりでしかなかった。

 こんな人に勝てるわけがないと一瞬でも思った自分が悔しかったが、今ここで降参するわけにはいかない。

 夕貴の言葉に目を丸くする涼音。


「心配してくれたの?」

「なっ……!? そんなわけっ、あるかぁ!」


 別に心配したわけではない……はずだ。それでも、心配してくれてありがとうという言葉に、いつものこの人に戻ったと思ってしまったのは秘密だ。

 さあはじめましょうか。

 すでに机には二人ともカードが並べられている。

 この前哨戦で見せてしまった弱みをどう挽回していこうか、夕貴はそちらに集中することにした。


  *   *   *   *   *   *


 初手から夕貴はフリードリヒ大王で、六枚並べられた涼音のカードのうち四枚を破った。一方、彼女は残ったカードの一枚、朱熹(しゅき)で防御力が落とされていた後鳥羽天皇を打ち破る。


 第二フェーズでは夕貴は変わらずフリードリヒ大王で一枚以外退場に追いこみ、残ったカード、アンデルセンで攻撃するも、防御力で押し負けた。

 次のフェーズに移る前、カードの補充ターンで一瞬だけ涼音の顔に焦りが見えたのを夕貴は見逃さなかった。

 戦績としては十勝十二敗と、ほぼ互角だと思っている。

 しかし、いつも負けるときは前哨戦で涼音の思うつぼになっている。だから、毎回のように今回は思うつぼになっていないと自分に言い聞かせるのが習慣になっていた。

 今回も言い負かされていない。

 そう自分に言い聞かした夕貴は、目の前のカードにもう一度集中することにした。


 第三フェーズでは補充された“UR(ウルトラレア)殺し”である司馬遷を排除するためにヘラクレスを夕貴は選択したが、それを上回る防御力で排除することができなかった。一方の涼音は司馬遷を使って諸葛孔明を攻撃。夕貴がおそらく劉備とともに使おうと思っていたのだろうが、司馬遷の前にはあえなく敗退。


 おととしまでの彼女の強さを思いだした夕貴は彼女らしい強さだと思いつつも、それを素直に認めることができなかった。


「ふん、思ったよりも強いな。ま、こっからは俺がもらうが」

「あら、どうしてそう思うの?」

「そりゃ、だってあんたはもう手札が少ないだろ? そんなやつに負ける気はしねぇからさ」


 手元の山札はまだ一センチ強あるが、涼音の山札はすでに残り五枚。

 まだ勝てる。

 そう確信していた夕貴だが、涼音が返したのは不吉な笑み。彼の背中に冷や汗が流れるが、その正体はよくわからなかった。


「じゃ、その予想、見事に覆してあげる」


 第四第五フェーズともに、二人ともの攻撃は互いのカードの枚数に影響しないもので、第六フェーズではともに三枚ずつ補充した。これで涼音の山札の残りは二枚。

 それなのに勝てるというのはどういうことだと思って彼女がデッキに出すカードをしっかりと見た夕貴は、愕然とした。


「どうする? このまま『仏道による傾国(けいこく)の危機』を発動させてもいいけれど?」


 口角を上げながら言われたものに文字通り、頭を抱えてしまった夕貴。

 たしかに枚数は自分の方が上だ。しかし、このコンビネーションスキルにはどうあがいても勝つことができない。


「降参だ」


 そう言った瞬間、ちょっとだけ肩の荷が下りたような気がしたが、またいつかこの人と戦いたい。そんな願望も出てしまった夕貴はそれをごまかすようにそそくさとカードを片づけ、会場を後にした。

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