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絶対的勝者と負けられない勝者

挿絵(By みてみん)vs.挿絵(By みてみん)

 光が当たると少し赤茶色に見える黒髪はともかく、彫りの深い顔はどうみても外国人。自分とは違う容姿と性格を持つ異邦人におもわず笑みを浮かべてしまった。


「まさかグスタフ・ハイレンドンにお目にかかることができるとは」


 席についた少年に握手を求めるが、くだらないというようなため息とともに無視されたルドルフ。しかし、そこでへこたれるようであれば、世界を股にかける銀行の跡継ぎなんてやってない。

 あくまでにこやかに少年に話しかける。


「君のうわさは私のオフィスでも聞いていてね」


 相手は自分のことを知っているはずだ。少なくとも《ヒストリアン・マッチ》のプレーヤーとしてではなくても、表の顔の方は知っている。でなければ、対戦カードが発表されたときに驚きはしなかっただろうから。

 ようやくグスタフもなんで自分のことを知っているんだという表情になった。

 おそらく彼にしてみれば“自分はただの留学生”であり、“ほかの人に比べれば無名”なんだろう。しかし、ルドルフからすれば十分自分と同じ土俵に立つ人物だ。

 すごく嫌そうな顔をするグスタフに頬杖をついて、目を細める。


「でも、君は日本に来てからの数週間でこのゲームの試合に出て、数か月でトッププレーヤーなんだろ? 十分有名になってもおかしくないじゃないか」

「そういうあんたこそ、なんで世界的な銀行の跡継ぎが日本のカードゲームなんかを」


 やっぱり。

 グスタフやほかの人からすればルドルフがここいるのは“場違い”なんだろうが、その質問には答えるつもりはなかった。

 だから、あえて答えをはぐらかした。


「おや、私のことを知っているのかい?」

「知っているもなにも、“ホイットニー銀行”は世界でもっとも有名な銀行だろうが。その日本支店のトップの顔なんぞ忘れたくても忘れられないからな」

「ほう。じゃ、もし私が君に勝ったら、君が高校卒業後、私の下で働いてくれないかな?」


 たしかに世界中で見ることができるホームページに名前も肩書きも載っているが、それを堂々と指摘されたのははじめてだ。

 冗談のように言うと、なんだ、その賭けはと鼻で笑われてしまった。

 けれど、これは本音だ。

 グスタフ・ハイレンドンが優秀だということは、本国にいたときから知っている。


「そのまんまの意味だよ。そうすれば君は日本に残ることもできるし、私は優秀な部下を得ることができる」

「断る。ドイツに残してきてる大切な家族がいるもんで」

「大切な家族ってさ、もしかして君の彼女、ユリアちゃんのことかな?」


 ルドルフのあからさまな挑発にグスタフは乗らない。

 しかし、ここでルドルフも引くわけにはいかなかった。大切な家族の名前を出すと、顔色を変えるグスタフ。その様子を見て、これはいけるのではないかと不確かな確信があった。


「……なんで知ってるんだ?」

「君が言ったとおりだよ。私は目的のためならばどんなマイナーな人物だって調べるさ」


 じゃあ、はじめようか。

 しゃべりながら並べたカードを指すと、グスタフも頷く。


  *   *   *   *   *   *



 第一フェーズ。

 ルドルフは迷いなくフランツ=ヨーゼフを手にとり全体攻撃を行ったが、攻撃力が足りずいずれも生き残る。一方、グスタフはエドワード黒太子で劉備を撃破する。

 二人とも補充を行わずにそのまま第二フェーズに移行。再びフランツ=ヨーゼフで攻撃するルドルフ。今回は防御力がわずかしか残っていなかった大伴(おおともの)家持(かやもち)を撃破した。一方のグスタフはスタンダールで全体攻撃を行ったが、いずれも体力が上回り、撃破することはできなかった。

 第三フェーズはルドルフが二枚、グスタフが一枚補充を行って開始された。

 このフェーズではグスタフがマリー・アントワネット『革命における虚実』で北条政子を破り、ルドルフもメアリ・スチュアート『届かなかった嘆願』で全体に毒効果付与、その効果により蘇軾を退場に追いこんだ。


 一進一退の攻防戦に一時も軽口を叩けなかったルドルフだが、第七フェーズ終了後、グスタフの異変に気づき、彼に声をかけてみることにした。


「今日は仕掛けないのかな? それとも私の下で働く気になった?」

「働く気はないし、仕掛けられないだけだ」


 対戦相手の指摘に舌打ちするグスタフ。

 そんなこと自分自身がわかっている。しかし、指摘した本人はへぇと信じていないようだった。だから、指摘したお礼に理由を明らかにしておく。


「なんだって、あんたのカードじゃ、仕掛けようがないからな」

「そっかぁ、『早仕掛けのハイレンドン』を今日は見られないのか」


 最初はだれでも仕掛けにくいこのゲーム。

 それを逆手にとり、反則一歩手前の行為である“できるかぎりコンビネーションを発動させやすいメンバーを最初から集めておく”ということをしていた。

 しかし、今回は相手が悪かった。

 この仕掛けを早々に見抜き、第四フェーズまでにすべて刈り取られてしまったのだ。

 残念そうに見えない呟きに知るかと吐き捨てたグスタフは、次のフェーズにあのカードが出ることを祈った。


 第八フェーズ前の手札交換。

 ルドルフは現在、自デッキ上に源頼朝と義経が残されているのを確認する。そして、相手デッキ上には岳飛、文武天皇、アリウス、稗田(ひえだの)阿礼(あれ)、マゼラン、平将門しかいない。そして、グスタフの山札はあと五枚。おそらく何枚補充しようとも、こちらよりも強いスキルを出すことはできないだろう。

 これでイチコロだなと、彼が自分の下で働く姿を確信してしまった。

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