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文人と人たらしの戦場

挿絵(By みてみん) vs. 挿絵(By みてみん)

 目の前のさらさらと流れるような黒い髪を見て、総花はおもわずため息をついてしまった。

 おもわず親戚のお姉さんを思いだしてしまったのだ。

 そんなことは気にしない少女はニッコリと笑って彼に話しかけてきた。


「あなたが伍赤さん……お久しぶりです」


 少し疲れ気味の声にお久しぶりですと返すと百合のような可憐な笑みが返ってきた。

 彼女、仁科優華とは今まで何回も年間リーグで戦ったことがあるが、最近は対戦していなかったので、今回の対戦が楽しみで仕方がなかった。

 しかし、少し間が開いた部分の意味を考えた総花は思い至ってしまった。


「その顔は『随分と変わられたようで』とか言いたいんじゃありませんか?」

「心を読まないでください」


 図星だったようで、顔をそっとそむける優華。しかし、心は読んでいませんよとため息をつく。最近、仕事で髪型を変えていたのだが、その影響でまだ雰囲気が違って見えるらしい。よく言われるので慣れているというところですと肩をすくめながら言うと、少し目を見開く優華。


「そうなのですか。ところで、今日はあの女の子は一緒じゃないのですか?」

「いますよ。こっちが呼ばなくても勝手についてくるので」


 総花がやっていることに興味がないのに、なぜか一緒についてくる彼女。

 今日も今日で朝起きたときにはいなかったのに、気づいたら車の中に潜りこんでいた。


「そうなんですね。この試合が終わったら、今度こそ仲良くさせてほしいです」

「俺に言わなくても……アイツに直接言ってやってください。アイツ、仲のいい女友だちはあまりいないので喜ぶと思いますよ」

「あら、意外ですわね。黒猫のようにだれの懐にでも入り込んでいくものだとばかり」


 わざわざ彼女と仲良くなるのに許可をとってくる優華。

 その様子に彼女ももしかしたら同類なのかと思ったが、なにも言わなかった。その代わり、彼女に関する情報を少しだけ提供することにした。それぐらいなら多分アイツだって許してくれるはず。


「どうでしょうか。根本的なところで人を信頼してませんので」

「伍赤さんのように人たらしなのかと思っていました」


 総花の言葉に意外ですと優華は再び目を見開く。彼はどういう意味だと思ったが、すぐにその答えが返ってきた。


「俺が人たらしですか? それこそ意外な評価ですよ」

「自覚がないのは怖いです。ま、それもこのカードゲームでわかるでしょう。では、はじめましょうか」

「ええ、そうですね」


 自分のことを人たらしだと主張してきたのは彼女だけではない。

 だけれど、ちょっとだけやる気が出た。



  *   *   *   *   *   *


 第一フェーズは総花が楊貴妃で文成公主を、優華が李白と杜甫(とほ)を使って始皇帝をそれぞれ撃破した。

 防御有利な属性カードを使って攻撃を仕掛けること、そして偶然なんだろうが、初手からコンビネーションスキルをくりだす優華に、総花は舌を巻いた。この人はすごく賢いし、運を持っている。どれだけ前世で善行を積めばこんな運を持てるんだろうか。


「やっぱり防御有利な方を使って進めていくとは見事です」

「褒められた気がしません」


 純粋な褒め言葉だったのだが、優華には嫌味にとれたらしい。今は幕の間だ。そう思って、カードを指しながら説明していく。


「褒めてますよ。俺の場合、カルヴァンを中心にして攻撃展開なんてできませんから。リスクが大きすぎます」


 通常防御有利な属性、芸術家関係や宗教関係者はほかの属性に比べて攻撃力が劣るから、彼らを中心とした試合展開にはできないとされている。しかし、その概念を目の前の少女は覆している。彼女はなぜか武士軍人、反逆者などの属性を一切デッキに組みこまない。

 彼女の異名は知っているし、手札のカード構成によってはとんでもなく手ごわくなることも知っている。

 だから、この戦いに一瞬たりとも気を抜くこともできなかった。


「リスク……今の私には必要ないのかもしれませんね」


 しかし、彼女はぼんやりとそう呟くだけだ。どういう意味ですかと聞くが、気にしないでくださいとニッコリと断られてしまった。



 第二フェーズはそれぞれ最大枚数を入れ替えた後、総花のヘラクレスが全体攻撃後、後亀山(ごかめやま)天皇を撃破し、優華のレオナルド・ダ・ヴィンチがエリザベート皇后 (シシィ)を撃破した。

 第三フェーズ以降も互いに一歩も引かずに、ただ山札の枚数が減っていく。

 そして第八フェーズの攻撃前のカード入れ替え。

 総花が四枚、優華が三枚補充した後に互いの山札を見て、総花がだいぶ枚数が減ってきましたねと呟くと、頷いた優華。


「いつも伍赤さんの戦いを拝見してますが、なんていうんでしょうか。今日はことさら普通の人じゃない気がします」

「それはどういう意味で?」

「どちらかというとこう、アウトローというか。その筋のプロのような。手札自体は普通なのですが、まとっている雰囲気がそういう感じなんですよね」


 優華の冷静な洞察力に冷や汗をかく総花。なんとかして気持ちを落ち着かせようとして、気のせいじゃないですかというのが精いっぱいだった。

 そんな彼の内心で吹きまくっている大嵐に気づいているのか気づいていないのか判断がつかなかったが、そうだといいのですがとニッコリ笑って黙る優華。どうやら彼女のデッキにあるカードとこちらのデッキにあるカードを見て、なにかに気づいたようだ。


「では、その評価に甘えて、こうさせていただきましょう」


 総花もその可能性に気づいていた。

 しまったという顔を見せる優華だが、先攻は総花。ここで機会を逃す手はなかった。


「『承平・天慶の風』。これで仁科さんのデッキにあるカードを一フェーズの間、スタン状態付与。そして、こちらのデッキのカードを総入れ替え。いかがでしょうか」


 二枚のカードを手にとり、今度は総花がニッコリと笑う。

 本当は最低ですねと呟きたいところだろうが、我慢して悔しいですねとしか言わなかった優華。

 彼女のきれいな指が次々とカードを回収していく。その指には迷いがなさそうだった。


「一切そんな気持ちが聞こえてこないのですが」

「本当に悔しいですよ。またいつか再戦を申しこみたいくらいには」


 心を押し殺すという技術が備わっているらしい彼女の瞳には、強い意志しか宿っていなかった。


「そのときはお手柔らかに」

「どうでしょう」


 総花の言葉にあくまでもニッコリと笑う優華。カードを回収しきった二人は立ちあがり、健闘をたたえるために握手を交わした。

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