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いついかなるときも本気を出すべき

挿絵(By みてみん)vs.挿絵(By みてみん)

 裕樹はすっと息を吐いて前を見た。

 静かにデッキを整えている金髪のプレーヤー。競技人口が多いせいか、今回はじめて対戦する相手だが、うわさには聞いていた人物。

 ジェイド・ユグレイン。

 すでに自分のデッキを整えた裕樹は少しだけ身なりを整え、相手に話しかける。


「まさか初戦であんたと当たるなんて、相当ついてるな」


 先制()撃にどういう意味だと、イラついたジェイドはすぐに視線をカードに集中しようとするが、うまくいかない。ジェイドに構わず裕樹はニヤリと口元をゆがめて笑う。


「そのまんまの意味さ。わざわざこれのために何回も来日している異色のプレーヤーとしてあんたは有名だからね。そんなあんたと一回も当たったことがないのが不思議なくらいなんだよ」


 髪の毛をいじりながら、裕樹はにやにやするのを止めない。

 ジェイドはそうかもなと言って、ようやく顔を上げる。そこに飛びこんできた光景におもわず顔をしかめる。どう言い返そうか迷っていた彼の目に闘志が宿る。


「そんなことを言うのならば、こちらこそ。“廣野裕樹の女装時には気をつけろ”と聞いたことがあったが、まさか本当に気をつけなければならないことになるとは」


 目の前には絶世の美女がいた。

 一度、裕樹の試合を見たときに隣に座っていた自称・親切な友人から聞いたのを思いだしたジェイドの言葉に、だれが言ったのか思い当たった裕樹はあの野郎と女性らしくない言葉で罵る。

 そんな彼におっと、これは怖いなと大げさに肩をすくめたジェイドは待たせたなと握手を求める。


「こちらこそよろしくな」


 女性らしくない手で握り返した裕樹。


  *   *   *   *   *   *


 第一フェーズは、鴨長明『せみの小川』を使用したものの、ジェイド側の天草四郎を含めすべてのカードが防御成功した。一方で、吉田兼好『艶書(ラブレター)の代筆』で裕樹側にあった道鏡を破る。


 第二フェーズ前に裕樹が二枚、ジェイドが一枚を追加した後、裕樹が葛飾北斎と歌川広重で相手側に存在していたカルヴァンとルターをそれぞれ撃破に成功する。同じくジェイドはブロンテ姉妹で足利義政を打ち負かしていた。


 第三フェーズ前も、裕樹が二枚、ジェイドが一枚追加し、裕樹がエリザベス一世、ジェイドがカエサルで攻撃を行った。


 次のフェーズでは二人とも入れ替えを行わず、カードを整理しながらジェイドがため息をつく。


「『ルビコン川の(さい)』は、少し攻撃力が足りなかったみたいだな」

「そうかもな。というか、こちらの『栄光ある女人』で堅かっただけと言っておきたい。カードの構成的にはこちらの負けだった」


 今現在、裕樹の手元にあるのは防御有利な芸術家関係三枚と宗教関係者二枚、バランス型である王侯貴族の三枚だけ。

 軍人武人もデッキを作る際には入れているはずなのだが、彼の手札にはまったくない。こうなる可能性もこのゲームの面白さである。


「さて、僕の番か。『衣ほすてふ(ちょう) 天の香具山』……通常攻撃だ」


 そう言って出したのは、持統天皇。

 もう一枚、ある人物がそろえば特殊スキルを発動できるが、今回は通常攻撃しかできない。少し残念そうに裕樹が言うが、ジェイドはくそったれと悪態をつく。


「彼女で攻撃するなんて酷いな。こうなることがわかってりゃ女性を出さずにいたのに」

「酷くはないだろ。ヘンリー八世をデッキに上がらせてコンビネーションスキルを出されるわけにはいかなかったんだよ。というか、これでも手加減したことを褒めてくれ」


 恨み節を言うジェイドに本物の女性のような上目遣いで頼みこむ裕樹。ツッコむ気力が失せたジェイドはたしかに女装時には気をつけないといけないみたいだとただ呆れていた。

 自分の女装がまた広まることを察した裕樹はさっさと次の攻撃を仕掛けろよと投げやりになっていた。ジェイドはああ、そうだねと大きく深呼吸し、だったらこうさせてもらおうかと一枚のカードを選ぶ。



「『()ず、(かい)よりはじめよ』」



 スキル名を言いながら出されたカードを確認する裕樹。

 たしかにジェイドデッキにあった。

 だが、もっと後に出してくるはずから対策は後でいいやと思っていた相手だった。


「“UR殺し”」


 スキル構成からそのカードが持っている司馬遷(しばせん)の異名を呟くと、ニヤリと笑うジェイド。


「畜生!!」


 この金髪男はこうなることを予想していたのだろうかとただ裕樹は叫ぶことしかできなかった。

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