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『フレディ・テディー・マギニス』

「……フレディ様」


 そう言って、無意識のうちに伸ばしてしまったセイディの手は、他でもないミリウスによって阻まれる。それに驚いてミリウスの顔を見上げれば、彼はただ首を横に振っていた。……邪魔をするな、ということらしい。


「お前の正体は、もうすでに分かっている。だから、とぼける必要はないぞ」

「……そっか。遂に、バレちゃったか」


 フレディはそう言うと、にっこりと笑う。その笑みは何処かぎこちなくて、普段のフレディとは違うような気がした。いや、こちらが彼の本性なのだろう。そう思うのに、セイディはそれが嘘だと信じたかった。今まで培ってきた時間を、嘘として無に返すのは簡単だ。それでも、それだけは……嫌だった。


「上手く擬態したな。キャロル子爵夫妻を騙すなんて」

「……騙したわけじゃ、ないよ」

「それは今、重要なことじゃない」


 アシェルの言葉は、今まで聞いたことがないほど冷たくて。アシェルもミリウスも、フレディの話を聞こうとはしない。……その気持ちも、分かる。フレディが帝国側の人間だと確たる証拠があるのだろう。だから、彼の言い分を聞く時間がもったいない。そういう意味だと思う。


「……神官長は、何処にいる」

「それに関しては、僕は何も知らないよ」

「嘘を言うな」


 フレディに詰め寄っていくアシェルを止めようとしたものの、またミリウスによって阻まれてしまう。でも、セイディは思った。……このことに関しては、本当にフレディは知らないのだろうと。


(先ほど、フレディ様は皇帝陛下に掛け合うとおっしゃっていたわ。それはつまり……皇帝陛下のお望みを知っているわけではない、ということではないの?)


 もしも、フレディがマギニス帝国の皇帝の望み通りに動いていたとして。その場合、先ほどの提案など出てくるわけがない。つまり、フレディは皇帝の望みを知らない。ただ、皇帝に良いように使われているだけ、ということは考えられないだろうか。


「僕はね、皇帝陛下の望みも企みも、何も知らない」

「……どういうことだ」

「僕はね、皇帝陛下にとって都合のいい駒でしかない。あの人は、自分の寵愛を一部の人間にしか与えない。僕は、その寵愛の対象に含まれていないということだよ」

「……弟なのに、か」

「そうだよ」


 ミリウスの静かな問いかけに、フレディは目を伏せてそう答えていた。その目はとても悲しそうであり、セイディの胸が締め付けられたような気がした。だが、それよりも――。


(皇帝陛下の弟。それはつまり――)


 フレディは、マギニス帝国の皇族ということなのだろう。


(マギニス帝国の皇族は素晴らしい魔力を持つと聞いたことがあるわ。もしもそうだとすれば……フレディ様のお力も、ある意味納得できる)


 今まで、フレディは多数の魔法をセイディの前で使ってきた。その中には、使いこなすことが容易ではない魔法も多々あって。しかし、もしも彼がマギニス帝国の皇族の一人なのだとすれば。使いこなせるのも、ある意味納得できる。


「皇帝陛下は僕たち……つまり、弟や妹のことなんて道具としか思っていない。皇帝陛下にとって愛するべきは、血のつながった弟や妹じゃない。自分に従順で、自分の寵愛を与えるに値する実力を持つ者。ただ、それだけじゃないか」

「……もしも、そうだったとして。裏切り行為を働いたのは、間違いないだろ」

「そうだね。それは、否定しないよ」


 アシェルの言葉に、フレディはにっこりと笑いながらそう返してきた。だけど、その瞬間。セイディは見逃さなかった。フレディの眉間に、一瞬だけしわが寄ったことに。彼は度々頭痛に悩んでいた。もしかしたら、今回のこともその頭痛になに関係があるのではないだろうか。彼は、頭痛を起こすたびに何処か寂しそうな目をしていた。


「……ねぇ、セイディ」


 不意に伸ばされたフレディの手をはたいたのは、やはりミリウスだった。その後、ただ「……お前が、代表聖女に触れられると思うな」という。だからだろうか、フレディは「残念」と呟いてけらけらと笑う。


「……セイディ。君には、特別に僕の本名を教えてあげるよ」

「ほん、みょう?」

「そう。僕の本名はね、フレディ・テディー・マギニスって言うんだ。……マギニス帝国では、二つの名前を持つと優秀に育つっていう言い伝えがあってね。僕にはフレディとテディーっていう、二つの名前がある」


 にっこりと笑って続けられた名前を、セイディは無意識のうちに復唱してしまった。その言葉を聞いたからだろうか、フレディはただ頷く。


「……殿下、副団長。今まで、お世話になったね。もちろん、セイディにも」

「フレディ様!」

「もう、吹っ切れたよ。……けど、最後に。せめて、父さんと母さんにお礼が言いたかったなぁ……」


 そうぼやいたフレディの言葉は、とても寂しそうで。多分、彼は本当にキャロル子爵夫妻のことを大切に思っていたのだろう。それは、嫌というほど伝わってきた。


「見知らぬ子供を拾って育てるなんて、普通じゃできないことだよ。……僕に初めて愛情っていうものを教えてくれたのも、二人だったんだ」


 ゆっくりと消えていくフレディの姿に、セイディは手を伸ばしてしまいそうになる。それでも、その手を伸ばすことはなかった。


「……あの人の思い通りになんて、ならない。僕はもう、吹っ切れた」


 消え入るようなその言葉に、セイディはただ目を見開いた。その言葉には、何処となく決意のようなものが宿っていたように、聞こえたから。

フレディに関してはまだまだ秘密がありますが、とりあえず一つだけ暴かれました(o*。_。)oペコッ

次回更新は今週の金曜日を予定しております。


引き続きよろしくお願いいたします……!(相変わらず更新時間が安定しなくて、すみません……!)

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