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意味深な言葉

「……帝国の、魔法騎士」


 セイディがフレディの言葉を呆然と復唱をすれば、フレディはただ無言でうなずいた。フレディの目を見れば、彼の目はいつものように吸い込まれそうなほど綺麗な色を持っている。しかし、その目の奥に秘められたような狂気は、うすら寒いもののように感じられてしまった。だからこそ、セイディは一瞬だけ身体を震わせてしまう。


「名前はアーネストって言うんだ。アーネスト・イザヤ・ホーエンローエ。それが、その魔法騎士の名前」


 フレディはセイディの戸惑う様子を無視して、ただ続ける。面白そうに、愉快そうに。まるで、セイディのことをからかっているかのように。そんな口調で告げられる、見知らぬ誰かの名前。しかし、いまいち信憑性はない。そもそも、それが本当だと仮定して。どうして、フレディはその人物の名前を知っているのだろうか。魔法石のことも合わせると、これではまるで――。


「フレディ様は、マギニス帝国の人間、ですか?」


 この魔法使いは、マギニス帝国側の人間なのではないだろうか、と思わせてくる。マギニス帝国は他国中に刺客を送り込んでいるという。ならば、もしも。目の前のこのフレディという魔法使いがそうなのだとすれば――。


「まさか。僕は正真正銘、このリア王国のキャロル子爵家の令息だよ。……まぁ、養子だけれどね」


 でも、フレディはその言葉を否定する。にっこりと笑って、その笑顔で何もかもをねじ伏せるかのように。その笑みを見ていると、なんだか不思議な気持ちに陥ってくる。その感覚は、未知のもの。ただ、心の奥底がざわめいて、ざわついて、騒ぎ出すような。そんな感覚。


「……では、どうしてそんなにもマギニス帝国の事情に、詳しいのですか?」


 そう問いかけたセイディの声は、震えていた。これでも、フレディのことをそこそこ信頼していた。信じたいとか、信じられないとか。そういう点を除いて、セイディなりに信頼していたつもりなのだ。もちろん、それは人からすれば微々たる信頼かもしれない。それでも、セイディからすればそれはとても勇気のいる行動だった。その行動の成り果てが裏切りなのだとすれば。自分は、どんなに人を見る目がないのだろうか。


 その後、ただ無言でフレディのことを見つめていれば、フレディはくすくすと笑い声を上げる。その笑い声はすごく不快なもので、セイディはただ「何が、おかしいのですか」と問いかけていた。


「いや、おかしくなんてないよ。僕がマギニス帝国の事情に詳しい理由かぁ……。それっぽい理由をでっち上げることは可能だよ? けど、セイディが知りたいのはそんなでっち上げられた理由じゃないんでしょう?」

「……当り前です。私が知りたいのは、真実です」


 でっち上げられた嘘の真実なんて、必要ない。それがたとえ人を幸福にする嘘だったとしても、必要ないのだろう。その幸福はいずれ崩れ、脆く朽ち果てていくだけなのだから。ならば、自分が知るべきか。本当の真実。ただ、それだけではないのだろうか。


「嘘偽りで作られた真実の方が、キミを幸せにするかもよ?」

「そうだったとしても、です。もしもそれが幸せなのだとすれば、その幸せは脆く朽ち果てていくだけです。私は、真実が知りたい」


 じっとフレディのことを見つめてそう言えば、彼は「……いい目だよね」と言ってくる。その態度は、声音は、いつものフレディのものとは多大きく違った。いつもは飄々としていて、ミステリアスな魔法使い。でも、今の彼はどうだろうか。狂気に満ちて、まるで人の不幸を心の底から望んでいるような。そんなどうしようもない人間に見えてしまう。


「そもそも、フレディ様は魔法石を持っていらっしゃいます。それだけでも、マギニス帝国とつながりがあるということだと、私は思います」


 フレディの眼力に負けまいと、セイディはそう続ける。そうすれば、フレディは「そうかもしれないね」と言葉を返してくるだけだ。その言葉は、肯定と否定の中間地点。つまり、どちらともいえない返事だった。それに、セイディはイラっとしてしまう。


「キミは、真実が知りたいというんだよね」

「えぇ、そうです。そして、この王国を守りたいと、心の底から思っています」

「そっか。……じゃあ、一つだけ僕と交渉をしよう」


 いきなり、何を言ってくるのだ。そう思ってセイディが大きく目を見開けば、フレディはただにっこりと笑った。


「僕はね、これでもキミのことを気に入っているんだ」

「……いつも、おっしゃっていましたよね」

「まぁね。だけど、それって九割嘘だった。……本当の僕は、キミのことを好いていない」


 告げられたフレディの言葉は、予想外のもので。セイディの中で、何かが崩れていくような感覚だった。フレディはいつだってセイディに好意的だった。なのに――今までのすべてが、嘘だったと彼は主張するのだろうか。


「けど、気に入ってはいるんだ」

「……好きなのか嫌いなのか、どっちですか」

「そりゃあ、好きとは言えないけれど、気に入っている。ただ、それだけだよ」


 それは、答えになっているようでなっていない。そんなことをセイディが思っていれば、フレディは「交渉の条件だけれどさ」とせイエィの気持ちを無視して続ける。


「……僕が出す条件。それは――」


 ――セイディ。キミが僕と一緒に帝国に行くことだ。


 フレディがそう言った瞬間、開いていた窓から生ぬるい風が吹き抜けたような気がした。

次回更新は来週の火曜日を予定しております(o*。_。)oペコッ

書籍に関しては来年の1月20日発売予定となっております(控えめに言ってイラストが最高です……!)しつこいようですが、なんとか続けられたらなぁと思っているので、よろしくお願いいたします……!


引き続きよろしくお願いいたします……!

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