助言
「リオ! セイディ!」
「……アシェル様」
それからしばらくして、セイディたちが王宮に戻った時。セイディやリオたちを一番に出迎えてくれたのは、他でもないアシェルだった。アシェルは焦ったような表情を浮かべながら、セイディの両肩を掴んでくる。その手つきは焦っている割には、とても優しくて。
「襲われたって聞いたぞ。……大丈夫、だったか?」
そして、一番にアシェルが発した言葉はそんな言葉だった。それに、セイディは軽く驚いてしまう。アシェルからすれば、神官長が消えてしまったことの方が重要問題だろう。確かに、セイディは今年の代表聖女だ。しかし、アシェルの声音は心の底からセイディの身を案じているようだった。それはまるで、自身が代表聖女だから心配しているわけではないとばかりに。
「……はい、大丈夫、です。リオさんが、助けてくださいましたから……」
「そうか、よかった」
セイディの返答を聞いて、アシェルはそう言って息を吐く。どうやら、相当心配をしてくれていたようだ。そんなアシェルの態度に心の底が熱くなったような気がしたものの、今はそれどころではないと思い直す。なんといっても、神官長が消えてしまったのだから。こうなってしまえば、『光の収穫祭』の開催さえも危ぶまれてしまう。
「ですが、神官長が……」
「あぁ、聞いている」
そんなセイディの言葉に、アシェルは端的に言葉を返してくる。その後「リオ、本部の方で会議をするぞ」とリオに声をかけていた。どうやら、今から騎士団の方で会議が始まるらしい。いや、きっと騎士団だけではない。魔法騎士団や大臣、それから神官たちも会議を行うのだろう。
「セイディも、一緒に来てくれ」
「……私が参加しては、迷惑ではありませんか?」
「いや、当事者もいた方が良いだろう。あと、今回は魔法騎士団の本部との合同会議になる」
アシェルはそれだけの言葉を告げると、慌ただしく「先に行っている」とだけ言葉を残し、颯爽と立ち去っていく。その後ろ姿を眺めていれば、リオは「……とりあえず、セイディは着替えてきなさい」と言ってくれた。……それもそうだろう。なんといっても、今のセイディは聖女の衣装。いろいろと驚くことが多すぎて、忘れてしまっていた。そう思いながら、セイディは「分かりました」と返事をしてリリスが待ってくれているであろう部屋に向かって歩き出す。
(いろいろと考えることは多いけれど、それは多分私だけじゃないわ。……皆様、一緒よ)
心の中でそう零し、王宮の廊下を歩く。そして、自身に与えられた部屋の扉が見えてきたときだった。……その扉の前に、誰かが立っていたのだ。フードを目深にかぶっていることもあり、その人物の顔は見えない。ただ、分かるのは背丈からその人物が男性だということ。そして、その人物が――魔法使いのローブを身に纏っているということ。そのため、セイディは確信した。……その人物は、フレディだと。
「やぁ、セイディ。ごきげんよう」
フレディはセイディを見つけると、フードを外しにっこりと笑いかけてきた。……正直に言えば、ごきげんようなんてのんきに挨拶をしている場合ではない。そう思っているからこそ、セイディは眉を顰め「それどころでは、ないので」とだけ言葉を返した。
(それにしても、あの時に見た人物は……本当に、フレディ様だったのかしら?)
あの時、神殿の近くで見かけた人物。それがもしもフレディならば。今、問い詰めることが出来るだろう。いや、違う。他にも問い詰める理由はある。でも、違ってしまったのならば。自分は間違いなく変な人だと思われてしまう。決めつけで行動することは良くない。それは、ずっと昔から分かっている。
(決めつけは、よくないわ。だけど、フレディ様には不可解な点が多すぎるのよ。……魔法石のこととか)
そう思いながら、セイディはフレディの目を見る。その後「……そこを、どいてくださいませんか?」と言葉を発した。今は、一分一秒が惜しいのだ。さっさと着替えて、会議に加わらなくてはならない。なのに、フレディはセイディのその言葉を聞いても動こうとはしない。
「僕はね、セイディと少しだけ話がしたいんだ。……いい?」
「今は、無理です」
急いでいると言っているのに、どうしてフレディはこんなにものんきなのだろうか。そう考え眉間にしわを寄せるセイディに対し、フレディはけらけらと声を上げて笑い始めた。その笑い方は、普段とは違う。何処か歪な、不気味な笑い方だった。
「……なにが、おかしいのですか」
「いや、なんでもないよ。ただ、セイディは楽観的だなって、思っただけだよ」
何が、楽観的なのだろうか。そんな感情を抱き、セイディがフレディを強く睨みつければ、フレディはクスっと声を上げてもう一度笑う。そして「……帝国の力を、キミたちは甘く見すぎている」と付け足した。
「……どういう意味、ですか」
「言葉通りの意味だよ。僕は帝国の力を理解している。だから、キミに助言をあげよう」
それだけを言ったフレディは、セイディに自身の顔をぐっと近づけてきた。その綺麗な目に吸い込まれてしまいそうな感覚にセイディが陥っていれば、フレディはただ楽しそうに口元を歪めた。
「――キミの元婚約者を操っているのは、帝国のとある魔法騎士だ」
その後、フレディは囁くようにセイディにそんな言葉をぶつけてきた。
本日は少し早めの更新です(o*。_。)oペコッ
先週の金曜日は不調によりお休みさせていただきました。申し訳ございません。次の更新は今週の金曜日を予定しております(また、振替日については思考中になりますのでもうしばしお待ちくださいませ)
それけから、書籍第1巻が来年の1月20日に発売するということで、その付近に何か出来たらなぁと思っております。まぁ、予定は未定ですけれど……。発売まで残り一ヶ月と少しで、すごく緊張しております……。
引き続きよろしくお願いいたします……!