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消えた神官長

「ちょっと待って! 神官長が消えたって、一体どういうことよ!?」

「そ、そのままの意味だ! 馬車に戻ったら、神官長の姿がなくて……!」


 リオに詰め寄られた騎士は、慌てふためきながらそう答える。それに対し、リオは「……本当に、どういうこと?」と呟いていた。


(……神官長が消えたとして、思い浮かぶ可能性は二つよね)


 慌てふためく騎士とリオを一瞥し、セイディはゆっくりと考える。もしも、神官長が本当に消えたとして。すぐに思い浮かぶ可能性は二つ。一つ、神官長が誰かによって攫われた。二つ、神官長が自ら姿を消した。その、どちらかだろう。


「リオさん。一旦、馬車に戻りましょう。そこで、いろいろと考えた方が……」

「……そうね。貴方、他の騎士たちも集めて。王宮に帰るわよ」

「は、はいっ!」


 騎士はそう返事をしてすぐに馬車がある方向に駆けていく。それを見つめながら、リオは「……本当に、嫌になるわ」と零して頭を掻いていた。その様子を見つめ、セイディは「思い浮かぶ可能性は、二つですよね?」とリオに問いかけてみる。すると、彼は「そうね」と肯定の返事をくれて。どうやら、リオもセイディと似たようなことを考えていたらしい。


「神官長が何者かに攫われたのならば、それはそれで王国にとって大問題よ。かといって、神官長が自ら姿を消したとしても……それはそれで、大問題。このままだと、『光の収穫祭』の開催は難しいわ」


 首を横に振りながらそう言うリオに、セイディは静かに頷く。その後、リオに連れられて馬車へと戻る道を歩く。無我夢中でジャレッドの方に向かっていたため、正直に言えば道はあまり覚えていなかった。が、リオがしっかりと覚えておいてくれたため、無事馬車の元まで戻ることが出来て。だが、それにホッと一安心をする余裕もない。なんといっても、神官長が消えたのだ。そもそも、彼は『光の収穫祭』を開催するうえで、『代表聖女』の次に重要な存在だった。


「神官長、無事でしょうか?」

「分からないわ。そもそも、彼が自ら姿を消したのならば、無事も何もありゃしないわ」


 少しだけ神官長のことを心配するセイディに対し、リオは冷たい声でそう返してきた。その声に何故か胸が締め付けられるような感じがしたものの、それを誤魔化すかのようにセイディは深呼吸をする。深呼吸をすれば、少しは落ち着くはずだ。そう、思ったのだ。


「……とりあえず、一旦王宮に戻るわよ。団長と副団長に、このことを報告してから今後のことは考えましょう」


 てきぱきと騎士たちに指示を出していくリオは、とても輝いて見えた。しかし、その表情はいつもの優しげな柔らかい者とは違う。何処か、威圧感を与えるような表情にも見えてしまって。


「セイディ、帰るわよ」

「……はい」


 そのままの表情で、リオはセイディに指示を出してくる。そのため、セイディは静かに頷いてリオと共に馬車に乗り込んだ。神官長が消えたとなれば、ミリウスやアシェルは間違いなく驚くだろう。多分、ジャレッドとセイディが再会してしまったことよりも。まぁ、それは当たり前なのだ。王国の未来と、個人的な因縁。どちらを優先するかは、すぐに分かる。特に、彼らは騎士なのだ。


「……ところで、セイディ。もう一度確認するけれど、あの男はセイディの知っているジャレッド・ヤーノルドであって、ジャレッド・ヤーノルドではなかったのよね?」


 馬車が走り出してすぐの頃。リオは突然そう問いかけてきた。そのため、セイディはただ「はい」とだけ言って静かに頷く。その回答を聞いたリオは、しばし考え込んだ後「……マギニス帝国、か」とぼやいていた。


「あの男は、確かに『マギニス帝国』って言ったわ」

「はい」

「知っているでしょうけれど、マギニス帝国は魔法がとても発展しているのよ。多分、人の精神を操る魔法も持っているはず」


 リオのその言葉に、セイディはただ視線を斜め下に向けてしまう。マギニス帝国が魔法国家であるということは、この世界の誰もが知っている一般常識だ。それに、人の精神を操る魔法を持っていたとしてもおかしくはない。実際、ジャレッドはまるで別人のようになってしまっていた。しかも、最後にジャレッドは確かに『マギニス帝国』と呟いていた。それはつまり、リオの言う可能性はゼロではないということ。いいや、むしろ限りなく正解に近いということ。


「マギニス帝国の狙いは、一体なにかしら? 『光の収穫祭』を滅茶苦茶にしたいだけ……なわけがないわよね。やっぱり、この王国を攻め入るつもり?」

「……そういえば、マギニス帝国はそこら中の国に刺客を送っていると聞きました」

「そうよ。多分、この王国にも存在しているわ。平然と、一般市民の顔をして住んでいる刺客が」


 そう言ったリオの目は、酷く冷たくて。まるで、それが本当に憎々しいとでも言いたげだった。その視線に一瞬怯みたくなるが、セイディはその気持ちをぐっとこらえ、「……刺客が、何かやったのでしょうか?」と零す。


「……その可能性も、確かにあるわよ。だけど、人の精神を操る魔法は高度なものになるはず。そう簡単に扱える代物ではない気がするのよ」

「それは、そうですね」


 人の精神に干渉する魔法など、そう簡単に使えるわけがない。いや、使えていいはずがない。そう思いながら、セイディはぐっと自身の手を握りしめた。馬車の外では、ぽつりぽつりと小雨が降り始めていた。

次回更新は今週の金曜日を予定しております(o*。_。)oペコッ

また、本日当作品の総合PVが500万を超えておりました……! 誠にありがとうございます!


引き続きよろしくお願いいたします……!

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