戦うのは、好きじゃないけれど
「セイディ!」
リオはセイディの名前を呼びながら、剣を抜く。その後、その剣で炎の玉を打ち消していた。騎士や魔法騎士たちが使う剣には、ある程度の魔法を打ち消す効力があるらしい。それは、セイディもつい最近知ったことだった。
「分かっています!」
名前を呼ばれ、セイディは急いで周囲を見渡す。異様な気配の数は、全部で五つ。こういう時は、聖女の時に培った勘が役に立つな。そんなことを考えながら、セイディは「五つです」と冷静な声でリオに耳打ちをした。そうすれば、リオは「私、戦うのは好きじゃないのだけれどね」なんて言う。
「でも、やらなくちゃね。セイディ、援護をお願い」
「承知いたしました」
セイディのできる擁護など、大したことではない。ただ、聖女の力を使って他者の魔力を増幅させること、そして他者の魔力を回復させることくらいだ。だが、実はその力を使える聖女は少ない。なんといっても、他者に力を送るのは加減がかなり難しい。
「……この雰囲気、なんだか不気味ね」
そう言った後、リオは飛んでくる炎の玉をまた剣で打ち消していく。その後、飛び出してきた何かを剣で受け止め、蹴り飛ばしていた。
「っていうか、正直私剣を使うよりも、殴る蹴るの方が得意なのよね。さて、やってやろうじゃない」
蹴り飛ばした何かは、もう一度リオの方に向かってくる。その何かは、どうやら狼のような形をしているらしかった。それを理解し、セイディは頭の中で様々なことを考える。狼のような形こそしているが、色は漆黒色。つまり、影のようなものだ。……これは、闇の魔法の一種が作り出したものなのだろうか。
(違う。闇の魔法にしては、その気配が感じられない。……これは、この王国で認知されていない魔法だわ)
そう判断しながら、セイディは自身の方に飛んできた狼の形をした影を軽く避ける。聖女の衣装は動きにくいが、それでも多少の行動は出来る。そもそも、ヤーノルド神殿で従事していた頃から、聖女の衣装で動き回っていた。だから、多少の動きはお手の物だ。
「リオさん! セイディさん!」
「援護に来ました!」
リオとセイディが狼の影たちの隙を伺っていると、別の馬車に乗っていた他の騎士たちが駆けつけてくれる。もちろん、人数はそんなに多くない。リオを合わせて五人といったところだ。それでも、これならば一対一で相手が出来る。ならば……かなり、勝率は上がっただろう。
「貴方たち! 相手は五つよ。……魔法の類で出来ているものだから、実体はないわ。だから、遠慮なくやっちゃいなさい!」
駆け付けた騎士たちにそんな指示を飛ばしながら、リオは炎の玉を剣で打ち消していく。相手の攻撃は、止まない。セイディ自身も相手の攻撃を避けながらリオの援護をするのに精いっぱいだ。それでも……相手の隙は見逃さないつもりだ。
(……それに、この付近に知っている魔力を感じるわ。……この魔力、まさか、ね)
飛んできた炎の玉に微かに髪が触れたとき、この魔力の持ち主を知っている気が、した。だが、その相手はこんな高度な魔法は使えなかった。だから、きっと違う。そう思い直したが、セイディは『彼』の現状を知らない。そのため、これが『彼』の魔法ではないという確証も、ない。
「……もう、埒が明かないわね。……貴方たち、私がさっさと片付けちゃうから、セイディをお願い」
「は、はい!」
それからしばしの攻防戦が続いた時。不意に、リオはそう叫ぶ。すると、リオのその言葉に合わせたように、駆け付けた騎士たちはセイディの周囲に集まってくる。それはまるで、セイディを守る盾のようだった。それに驚いたセイディをさらに驚かせたこと。それは……リオが、相手の陣地に遠慮なく飛び込んでいったことだった。
「本当に戦うのは好きじゃないのよ。……でも、やるときはやらなくちゃね」
そんな言葉とほぼ同時に、リオが魔法を唱え――狼の影を、全てかき消していく。それを、セイディはただ呆然と見つめることしか出来なかった。しかし、すぐに思考回路を切り替え周囲を見渡す。右、左、前、後ろ。……そして、斜め後ろ。
「セイディさん!?」
そこにとある人物の影を見つけたため、セイディは騎士たちの中から飛び出し、駆けていく。そちらには、確かに先ほど感じた魔力の持ち主が、いた。忘れない。忘れるわけもない。……異母妹に騙されたとはいえ、自身を捨てた相手を、忘れるわけがない。
「……こっち、よね」
しばらく歩いて、神殿の裏手。そこにやってきたセイディは――見つけた。彼を、忘れもしない、忌々しい相手を。
「ジャレッド、様」
「……セイディ、か」
今まで、対面することを恐れていた。それでも、こうなった以上対面することに恐れなどない。だって、セイディの大切な友人を傷つけようとしたから。ならば――怒るのはもっともだし、怖いとはもう思わない。ただ、今は彼が憎い。そう思いながらセイディが手のひらを握りしめれば、ジャレッドはゆっくりと目を細める。
「セイディ、久しぶりだな」
その挨拶を聞いたセイディは、「のんきなものですね」と告げジャレッドのことを睨みつけた。だが、その瞬間セイディの脳内に疑問が駆け巡る。どうして、ジャレッドはこんなところにいるのだろうか。どうして、セイディの居場所を見つけたのだろうか。いや、それよりも。
(……今のジャレッド様は、ジャレッド様だけれど、ジャレッド様じゃない……)
感じる魔力は、確かにジャレッドのもので間違いはない。でも、違う。オーラが、雰囲気が、違う。それは、まるで――。
「……ジャレッド様。貴方の背後にいらっしゃるのは――誰、ですか?」
まるで、器だけがそのままで、別人になってしまったかのようだ。そう、セイディは思った。
なんとか日付が変わる前に更新出来ました……(n*´ω`*n)
次回更新は来週の火曜日を予定しております。
ちなみに私は戦えるヒーローが好きです。はい(なのでヒーローが全員戦える設定だったりします)
また、書籍も予約受付中ですので、よろしければ……ぜひ。
引き続きよろしくお願いいたします……!




