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微々たる優しさ、なんて(1)

「……セイディ、ちょっと、いいかな?」

「どうなさいましたか、リアム様」


 それから二日後。本日は、リアムがセイディの護衛に当たる最後の日だ。いつものように教師の授業を受けた後、授業の片づけをしていたセイディの元に、リアムがやってくる。その表情はいつものような笑顔……とは少し違う。何処か優しさがにじみ出ているような。そんな笑顔だった。きっと、こっちが本当のリアムなのだろう。そんなことを思いながら、セイディは少しだけ首をかしげる。


「今日で俺の仕事は最後だし。……せっかくだから、思い出作りでもしたいなぁって」

「……そういうの、必要ですか?」

「必要じゃないよ。けど、俺の自己満足。……ちょっと、おいで」

「ちょ、リアム様!?」


 片づけをするセイディの手首を掴み、リアムは部屋から飛び出していく。そのため、自然とセイディも部屋を飛び出す形になってしまう。途中、すれ違ったリリスに視線だけで助けを求めたものの、リリスは「片付けはお任せください」と言ってセイディに少しだけ笑いかけてくるだけだった。これでは、迷惑をかけてしまうのに。そう思うのに、リアムについて行くのが精一杯であり、制止の言葉は口から出ない。


「あ、あの、リアム様……? いったい、どちらに……?」


 セイディの方を振り返らず、歩くスピードを落としたリアムにセイディはただ戸惑う。こういう風に、強引に連れ出されるのは苦手だ。そんなことを心の奥底で思いながら、リアムに手を引かれて歩く。その後、十分ほど歩いて連れてこられたのは、王宮を出てしばし歩いた場所。魔法騎士団の訓練場のような場所だった。騎士団の訓練場とはまた違う場所にある魔法騎士団の訓練場は、とても夕日がきれいに見えていた。


「……今日は、午前中だけの訓練だったし、誰もいないんだ。……少し、ゆっくりと出来るでしょう?」


 顔を覗き込まれ、そう問いかけられる。とても近いリアムの顔。でも、それよりも。セイディの意識を奪ったのは、とても綺麗なオレンジ色の光。夕日がとても綺麗に見えるこの場所は、きっと知る人ぞ知る場所なのだろう。


「……綺麗、ですね」


 そして、ようやくセイディが発した言葉はそんな端的な言葉だった。それでも、リアムはその言葉を気に入ってくれたのか、「たまには息抜きが必要でしょう?」なんて言ってくる。どうやら、リアムはセイディのことを思ってここに連れてきてくれたらしい。それを、少し意外だと思う気持ちがある反面、これがリアムという人物なのだと分かった気がした。本当の彼は、優しいのだ。隠しているだけで、本質は優しい人。それを、知ることが出来た気がした。


「セイディは、真面目だし、俺とは全く違う人種だ。だから、俺はセイディの考えが分からない。……でも、セイディの頑張りだけは分かっているつもり」


 リアムの視線は、セイディに向いていない。ただ、並んで夕日を見つめる形になってしまう。そんなリアムの横顔をちらりとセイディが盗み見れば、彼の顔はとても綺麗だった。結局、美形は何処にいても美形なのだろう。そんな風に考えながら、セイディは「……ありがとう、ございます」と消え入りそうな声でお礼を告げる。セイディの頑張りを、騎士団の人たちやリリスはとてもよくわかってくれているし、認めてくれている。でも、なんだかリアムに言われるのは違う気持ちになるな。そう思いながら、セイディはリアムの横顔を盗み見続けていた。


「団長も、あんな感じだけれどよく分かっているよ。……ほかの輩は、知らないけれどさ」

「リアム様って、ジャック様ととても仲がよろしいですよね」

「……そう、だといいかな。俺、団長のことこれでも心配していてさ。あの人、いつか過労死するんじゃないかって、こっそりと思っていて」

「……それには、同感です」


 ジャックは一に仕事、二に仕事、三も四も五も仕事というくらいには、仕事人間らしい。時折息抜きはしているようだが、それでも過労死を心配するリアムの気持ちも分かる。ついでに言えば、セイディからすればアシェルもいつか過労死するのではないかと心配する対象である。


「まぁ、魔法騎士団の本部はそこそこ有能な奴らの集まりだし、あんまり俺が心配するようなことじゃないんだけれどさ。騎士団より、マシだと思うし」

「……騎士団の本部は、人手不足ですから」


 リオやアシェルがよく「人手不足」だと愚痴っているのを、セイディは知っている。それから、そろそろ人員補給を真剣に考えているということも。セイディは、個人的にあの三人の少年騎士の誰かが本部の方に引き抜かれるのではないかと思っている。なんといっても、若い方が飲み込みが早いのだ。まだ騎士団に入ったばかりだというあの三人ならば、本部に行っても仕事の差に戸惑いが少ないだろう。


「そういや、そうだっけ。そっちの団長は、うちとは全く違うタイプだしね」

「身分が高いところは、一緒ですよね」

「まぁ、そうだね。あと、あの二人昔馴染みみたいだし、遠慮がないんだ。……さすがは、王家と筆頭公爵家の出身だよね」


 どうでもいい世間話をしながら、二人でただ並んで夕日を見つめる空間は、何処か心地よかった。ずっと、リアムもこんな雰囲気だったら苦手意識を抱かずに済むのに。心のどこかでそんなことを思いながらも、セイディは「それは自分勝手な考えだな」と思い直し、自分の心を咎めた。人には人の、自由があるのだから。

次回更新は今週の金曜日を予定しております(o*。_。)oペコッ


また、明日(10日)の水曜日の昼頃に作者(つまり私)のツイッターにて『逞し令嬢はへこたれない~』の書籍情報の方を解禁させていただきます……! なろうさんでの活動報告は、夕方~夜になりますので、気になる方は私のツイッターを覗いてくだされば……と思っております。


引き続きよろしくお願いいたします……!

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