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弱い自分を認めるということ

「……俺はね、セイディのこと、好きだよ」

「そう、ですか」


 何故、今更そんな言葉を告げるのだろうか。そう思いセイディが首をかしげていれば、リアムはただ「でも、そうやって誰かと一線を引いているのは、嫌い。俺が言えたことじゃないけれど」と続ける。その目は本気でそう思っているようであり、セイディの心がざわつく。それに息を飲めば、リアムは「……ごめんね。戻ろうか」と言ってきた。


「……そう、ですね」


 リアムの言葉に、セイディは同意することしか出来なかった。そして、そのまま部屋を出ていく。途中リリスに一礼をして、王宮の廊下に出る。その後、王宮の廊下を無言で歩く。セイディも、リアムも。何も話さない。ただ、閑散とした王宮の廊下に二人の足音だけが響き渡る。その歪な空間に心を乱されながら、しばし歩けば騎士団の寄宿舎にたどり着く。最後に振り返りリアムに一礼をすれば、リアムはいつも通りの軽薄な笑みを浮かべて、ただ手を振りながら「また、明日ね」というだけだ。その姿はいつも通りの軽薄なものであり、セイディの心を落ち着けていた。


「……はい、また明日」

「なんだか、こういう風に別れるの、すごく満足感があるよね。また、明日も会えるんだって感じで」

「……何ですか、それ」


 最後のリアムの言葉は、本気なのか嘘なのか。それは分からないものの、セイディはクスっと笑ってしまった。リアムのことは苦手だ。それは間違いない。それでも、彼の本当の姿を知ったら……苦手じゃなくなるかもしれない。そんな日が、来るのかは分からないが。しかし、それよりも。リアムに告げられたあの言葉は、セイディの心に刺さってしまっていた。


 セイディが寄宿舎の中に足を踏み入れれば、偶然にもミリウスと鉢合わせる。ミリウスはセイディの姿を見て「頑張っているか」と言って少しだけ表情を緩めてくれた。だから、セイディは「……私なりには、頑張っています」と言葉を返した。


「そうか。だったら、よかった」


 ミリウスはそんな言葉を発しながら、セイディの顔を覗き込んでくる。だからこそ、セイディはそっと視線を逸らした。なんだろうか。やっぱり、ミリウスの目は全てを見透かしているように思えてしまう。そんなことを考えながら、セイディが俯けばミリウスは「……何か、あったか?」と問いかけてきた。


「……いえ、何でも」

「嘘をつくな。何かがあったんだろ? あの魔法騎士が原因か?」


 ゆっくりとそう問いかけられて、セイディは首を横に振る。リアムの所為じゃない。元を言えば、自分が勝手に思っているだけなのだ。自分の弱い部分が、露骨に表れてしまったような感じなのだ。人と深く関わろうとしない。それはきっと、リアム以外にも見抜かれている。


「……私は、あまり人と深く関わることが出来ません。それを、思い知らされたような気が、して」


 視線を下に向けながらそう言えば、ミリウスは「そっか」とだけ言い、一旦言葉を切る。


「人と一線を引いてしまうのは、多分昔からの癖だと思います。でも、それって……悪いことなのかなって」


 震える声でそう告げれば、ミリウスは「別に、悪いことじゃないだろ」と言ってくれた。それに驚いて視線を上げれば、ミリウスはただ口元を緩め、目を細めながら「人は人なりに、自己防衛があるからな」と続けた。


「何かがあったから、人と一線を引くようになったんだろ? 自己防衛も必要だし、ゆっくりと直せばいいと俺は思う」


 そう告げてきたミリウスの目は、本気でそう思っているようでありセイディの心が、少しだけ暖かくなる。人と親しくなることに、嫌悪感はない。それでも、一定のラインを超えないようにしてしまう。それはきっと、セイディの悪い癖なのだろう。


「……わた、し」

「あぁ、無理に話さなくてもいいぞ。それに、俺に話すよりもリオやアシェルの方が話しやすいだろ。……ほら、俺よりもあいつらとの方が親しいだろうしさ」

「……そう、ですね」


 確かに、その言葉には一理ある。そう思いながら、セイディは少しだけ表情を緩めた。


(ミリウス様も、なんだかんだ言ってもお優しいのよね。きっと、ご本人は否定されるだろうけれど)


 ミリウスはあまり自分を優しいとは言わない。だから、セイディがそれを言っても否定するだろう。そんなことを考えながら、セイディは「ありがとう、ございます」とお礼を告げた。ミリウスのおかげで、少しだけ自分の弱い部分を認められた気がする。


「……いくら強い奴だったとしても、弱いところはあるもんだ。俺だって、いろいろとあるわけだしさ。だから、完璧なんて求めなくてもいいし、強くあろうとし続けなくてもいい。……それだけは、間違いないぞ」


 そんな言葉を残し、ミリウスは一度だけセイディの頭を撫で、何処かに歩いていく。大方、自室に戻るのだろう。遠ざかっていくミリウスの背中を見つめながら、セイディはもう一度「ありがとう、ございます」と告げた。いずれは、ミリウスの言葉通り人と関わることに恐れを抱かなくなれば。そう、思っていた。

次回更新は来週の火曜日の予定です(o*。_。)oペコッ

(金曜日はワクチン二回目を打った翌日なので、大事を取ってお休みさせていただきます)

また、11月になりましたので、一つ告知があります……! 次回更新の際に告知の予告をさせていただきますので、よろしくお願いいたします……!


引き続き、よろしくお願いいたします……!

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