ぎこちない時間(2)
「ところで、セイディはこの生活についてどう思っている感じ?」
セイディがリアムをじっと見つめていると、リアムは不意にそんな言葉をかけてくる。そのため、セイディはふと考える。話題に困っていたため、リアムの方から話題を振ってくれたことに関しては素直に助かる。ならば、その話題に乗っかろう。そう、判断した。
「特には、ですかね。普段とは全然違う生活なので、いろいろと戸惑うことは多いですけれど……」
「そうだよね」
「でも、やり遂げたいって思っているので、仕方がありません。辛いとか思う時も、多いですけれど」
苦笑を浮かべながらセイディがそう言えば、リアムは目を細めて笑ってくれたように見えた。リアムの表情はいつだって何処か歪だ。だから、笑顔を浮かべていても本当に笑っているかは分からない。それでも、今は笑ってくれたように見えたのだ。それに、ホッと一息をつく。
「弱音とか、吐いてくれてもいいんだよ?」
「もしも弱音を吐くとしても、リアム様には言いませんからね」
「酷いな~。俺はセイディのことをこんなにも考えているのに~」
そう言われてもと、セイディは思ってしまう。リアムとは、まだそこまで親しくない。だから、弱音を吐く縁もない。これならばまだリアムよりもジャックとの方が親しいと言えるのではないだろうか。そんなことを考えながら、セイディはまたお茶に口をつけた。そうしていれば、リリスがリアムの分のお茶を持ってきて戻ってくる。そして、リアムの前にお茶を置いた。
「ありがとう、リリスちゃん」
「……いえ、仕事ですので」
リアムに笑いかけられても、リリスは微妙な表情を浮かべるだけだ。リリスはセイディにはそこそこの笑顔を見せてくれるものの、騎士や魔法騎士をはじめとした男性にはあまり笑いかけない。フレディには少しだけ笑みを見せているが、それはきっと心を少しでも許しているからだろうか。
「では、私はそちらに控えておりますので、何かあれば遠慮なく呼んでくださいませ」
セイディにそう声をかけて、リリスは扉の近くに待機する。そんなリリスを見つめながら、セイディは近づいて来ていたリアムの手を払いのける。あまり、軽々しく触れられたくない。その気持ちもあるし、未だにリアムのことを苦手だと思っているところもある。やっぱり、こういうタイプは苦手だ。
「セイディは魔法騎士たちと少しは打ち解けた?」
「……時折会話をするくらいですよ。打ち解けたというほど、親しくはありません」
セイディの言ったことは、真実だ。魔法騎士たちとはすれ違ったら挨拶をする間柄という関係の人が最も多い。そんな世間話をしたりするのは、全く……いない、とも言い切れないが。少し前では、ミリウスに頼まれてジャックの元にお使いに行くこともあった。その過程で、ジャックとは少しばかり世間話をするようになったのだ。
「じゃあ、まだまだ俺にもチャンスがあるかな?」
「チャンスとか、ありませんよ。私は自由気ままに一人で生きていきます」
「そういう塩対応も、俺は好きだよ」
ならば、一体どういう風に接しろというのだ。そう思いながら、セイディは「はぁ」とため息をつく。そうすれば、リアムは「ため息をついて、何か疲れているの?」と問いかけてくる。が、セイディからすれば原因はほかでもないリアムである。なので、リアムにそう言われる筋合いはない。そんなことを考えながら、セイディはお茶の水面を見つめた。
(リアム様と、何を話せばいいかが本当に分からないのよ。……それに、距離感が図れないから図々しくもなれない)
何処まで深入りをすればいいのか。何処まで踏み込んでいいのか。それが、リアムの場合は全く分からない。リアムは、踏み込まれることを嫌うタイプのようだった。自分ではぐいぐい来るくせに、自分の中に踏み込まれそうになると軽く躱す、もしくは嫌がる。それは、どことなくリオと一緒だ。まぁ、リオにそう伝えれば絶対に否定されるだろうが。
「セイディはさ、俺のことで知りたいことはない? 大体のことだったら、教えてあげるよ」
リアムはよくセイディにそう言ってくる。だけど、それで教えてくれるのはあくまでもプロフィール程度だということを、セイディは知っている。だから、こういわれても期待などしないのだ。
「興味ありませんからね」
「寂しいね。そもそも、俺、セイディの連絡先を知らないんだけれど? 教えてもらってもいい?」
「無理ですね」
そもそも、騎士団の寄宿舎にいるのだから連絡先など必要ないだろう。そんなことを思いながら、セイディはまたこっそりとため息をつく。その後、「騎士団の寄宿舎住まいなので、連絡先を教えなくてもいいですよね?」とだけ告げておいた。
「あぁ、そう言えばそうだっけ」
「……わざと、ですよね?」
「全然。素で忘れていた感じだよ~」
手をひらひらと振りながらそういうリアムの笑顔は、やはり嘘っぽい。いつか、この笑顔の仮面を崩すことが出来たならば。一瞬そんなことを思ってしまったが、その仮面を崩す役目はセイディのものではない。いずれ現れる――リアムに似合う人の役目だ。そう思いながら、セイディは窓の外を見つめた。空はもうすっかりオレンジ色に染まっていた。
次回更新は今週の金曜日の予定です(n*´ω`*n)また、先にお知らせしておくと来週の金曜日(11月5日)の更新はお休みです(ワクチンを打つので)
というわけで、引き続きよろしくお願いいたします~!