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少年騎士の好意(2)

「セイディさんの役に立ちたい。その一心だけで、行動しようとしていました。……貴女の気持ちも、考えずに」


 クリストファーはそう言って、セイディのことをまっすぐに見つめてくる。その濁りのない目は、とても眩しく見えてしまう。クリストファーは、純粋な好意を持ってこう言ってくれている。そして、純粋にセイディ自身のことを「好き」だと言ってくれている。


「僕は貴女のことが好きです。……本当に、本当に好きです。出来ることならば、婚約者になってほしいくらいには」


 だが、いくらクリストファーの言葉でもそれは叶わない。そう思い、セイディは「すみません」ということしか出来なかった。子爵令嬢だった頃ならばまだしも、今のセイディは実家を勘当された平民である。そんな、クリストファーの婚約者になどなれるわけがない。それに、周囲が許すわけがない。


「そうですよね、分かっています。……本当は、僕が家を捨てられたらいいのでしょうが……」

「簡単に、そんなことおっしゃらないでください」


 簡単に、家を捨てるなんて言わないでほしい。セイディのように実家で虐げられてきたに近しい扱いならば、そう思うのは当然かもしれない。しかし、クリストファーはきっと大切にされている。大切に大切に、育てられてきた。ならば、そんなこと簡単に言わないでほしいし、そもそもそんな選択をさせたくなかった。それに、セイディはクリストファーの気持ちを受け止めるつもりはないのだ。


「私は、立場的なものよりも別の意味で、クリストファー様の想いを受け止めることは出来ません。なので、クリストファー様はもっと素敵なお方を見つけてください。……お願いします」


 立場的なものじゃない。クリストファーの気持ちを受け止められないのは、別の意味もあるのだ。婚約なんてもうこりごりだと思っている気持ちも、確かにある。でも、それよりも。クリストファーが誰かに何かを言われることが一番嫌なことだった。


「……ただ、出ていくときはクリストファー様方に、何か一言告げてから出ていこうとは思います」

「今は、それだけで十分です」


 セイディの言葉を聞いて、クリストファーは少しだけ笑ってくれた。普通の女性ならば、クリストファーのような身分の人に好意を告げられれば、舞い上がってしまうのかもしれない。それは、容易に想像が出来る。それでも、舞い上がれないのは彼の将来を危惧してしまうからなのだろうか。


(フレディ様のおっしゃった通りには、ならないわ)


 ――きっと、誰かの妻になる。


 そんな言葉を、フレディにかけられたことがある。あの言葉は、今でもセイディの心の中に残っているし、とげのように刺さってもいる。それでも、その通りにはなりたくない。いや、なれない。それは意地のようなものでもあり、そして、自らが彼らに似合わないと分かっているからだろう。


「そろそろ、戻りましょうか。セイディさんが長い時間寄宿舎を離れていると、いろいろな人が心配しますから」

「……そう、ですね。皆様、過保護ですから」

「セイディさんだからですよ」


 クリストファーはそう言って、笑う。この寄宿舎の騎士たちは、セイディのことを妹分のように扱ってくれる。それに、きっとセイディ以外の人物だったらここまで過保護にはならなかっただろう。それを、クリストファーは知っている。なんだかんだ言っても、騎士たちも気難しいところがあるのだ。


 その後、寄宿舎に戻れば何故かそこにはオーティスとルディがいた。二人は何かを察したようにクリストファーを見つめ、笑っている。それが鬱陶しかったのか、はたまた気に障ったのか。クリストファーは二人の肩をはたいていた。それを見つめながら、セイディは「本当に、仲が良いのね」と思う。こういう風に、遠慮のいらない友人がいるということは、とても素敵なことだ。


「クリストファー、フラれたんだろ?」

「……うるさい」

「まぁまぁ、僕たち慰めてあげようと思って来たのに~」

「顔がにやにやしている時点で、そのつもりがないでしょう」


 そんな会話を聞きながら、セイディはその場に立ち尽くしてしまう。クリストファーのことも、オーティスのことも、ルディのことも。好きだ。それに、間違いはない。だが、そもそも――恋愛感情とは、一体なんだろうか?


(私は、恋なんてしたことがない。普通の好きと恋慕の違いって、そもそも何?)


 ふと、そう思ってしまう。そう考えていれば、オーティスはセイディに近づいてきて「クリストファー、回収していきますので」と告げてくる。だから、セイディは「おやすみなさいませ」とだけ声をかけた。それに、オーティスは笑顔で「おやすみなさい!」と返してくれる。その笑みはとても眩しくて、若々しくて。


 それからしばらくして、後ろから不意に肩を叩かれる。そちらに慌てて視線を向ければ、そこにはアシェルがいた。どうやら、今仕事を終え寄宿舎に戻ってきたらしい。


「セイディ、どうしてここに居るんだ?」

「……いえ、ちょっと夜風にあたってきまして」

「そう。だが、早く戻れよ」


 アシェルはセイディにそれだけ言うと、さっさと寄宿舎の中に戻っていく。大方、疲れているのだろう。そんな後姿を見つめながら、セイディは「明日からも、頑張らなくちゃ」と決意をする。明日からは、新しい護衛がつくことになっている。その人物は――。


(リアム様、なのよね)


 魔法騎士であるリアム・ラミレス。その人だ。

次回からリアムのターンです(n*´ω`*n)


また、次の更新なのですが金曜日……が出来ないかもしれません。理由は例のワクチンを木曜日に打つためです。なので、更新がなかったら「あぁ……」ってくらいで察していただけると幸いです。


引き続きよろしくお願いいたします~!

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