癒しの時間(3)
「えっと、褒めればよろしいのですよね? どういう風に……」
ルディとオーティスのやり取りを見ていたセイディは、ふとそう問いかける。ルディもオーティスもクリストファーも。みな、頑張ってくれている。それは、嫌というほどセイディにも伝わっていた。そのため、自分に出来ることはやりたい。それが褒めることならば、セイディはするつもりだった。もちろん、自らで満足できるのならば、だが。
「そうですね! もう、セイディさんの思うがままに!」
「……お前、本当に図々しいな」
セイディの言葉を聞いて目をキラキラとさせるルディを一瞥し、オーティスは額に手を当ててそんなことをぼやく。それに一瞬視線を向けながらも、ルディはセイディのすぐ隣にやってきた。そのキラキラとした目を見ていると、何だろうか。不思議な感覚に陥ってくる。
「ルディ様は、頑張っていますね。……偉いです」
上から目線だが、これでいいだろうか? セイディがそう思いながらそんな褒め言葉を口に出せば、ルディは「ありがとうございます」と言って目を細める。どうやら、これで満足してくれたらしい。それを見ていると、なんだかもう少しやってみたくなって。セイディは手を伸ばし、ルディの頭を撫でてみる。その瞬間、ルディの目は大きく見開かれた。どうやら、驚かれたらしい。しかし、すぐに目を細めて嬉しそうにしてくれる。だから、止めなかった。
「……ルディだけ、ずるい」
だが、それからしばらくして。不意に、そんな声が聞こえてくる。声の方に視線を向ければ、そこではクリストファーが不貞腐れていた。先ほどの言葉を聞くに、クリストファーも褒められたいのかもしれない。侯爵家の令息ともなれば、何事もやって当たり前、出来て当たり前である。もしかしたら、彼も本当は褒められたいのかも。
「クリストファー様も、こちらに来ますか?」
そのため、セイディはそう声をかけてみる。多分、断られるだろうな。そう思ったのに、意外にもクリストファーはセイディのすぐ側にやってくる。そして、そのまま頭を差し出してきた。……撫でろということ、らしい。それを察し、セイディはクリストファーの赤い髪を撫でる。その髪はさらさらとしており、とても撫で心地がよかった。
「クリストファー様も……頑張っています、ね」
おまけとばかりにそう言えば、クリストファーは何も言わないものの首を縦に振る。どうやら、満足してくれたらしい。それにホッと一安心しながらも、セイディはクリストファーの頭を撫でる。彼は、抵抗しない。どうやら心地が良いらしい。
「オーティスも、どう?」
クリストファーを褒めていれば、ルディがただ一人硬直するオーティスに声をかける。それを聞いたからか、オーティスは「セイディさんだって、疲れているんだぞ……!」と言いながら、あたふたしている。が、すぐに興味があるのかこちらに視線を注いでくる。それを見て、セイディは目を細めて「これくらいは、問題ありません」と言葉を発した。
「むしろ、こうやって甘えてくださると私の疲れも取れます。なので……嫌でなければ、どうぞ」
一応とばかりにそう言えば、オーティスは一度視線を逸らすものの、こちらに近づいてくる。だからこそ、セイディは「オーティス様も、頑張っていますね」と労いの言葉をかける。その言葉を聞いたためだろう、オーティスは顔を背けながら「ありがとう、ございます」と返事をくれた。どうやら、照れているらしい。
「セイディ様。……そろそろ、お時間ですよ」
それからいったいどれだけの時間が経っただろうか。三人の少年騎士と戯れていれば、リリスがそんな風に声をかけてくる。時計を見れば、確かにそろそろ寄宿舎に戻った方が良い時間帯だ。それに、課題も出されている。そちらも、頑張らなくては。
「そうですね、リリスさん。そろそろ、寄宿舎に戻ろうと思います」
リリスにそう返事をすれば、リリスはぺこりと頭を下げてくる。だから、セイディは寄宿舎に戻る準備を始めた。戻ったら、夕食を摂って課題を済ませなければ。他、事細かな復習もしておいた方が良いだろう。
(目立ちたくない。でも、この国を守るためにも、私は役割を全うするの)
ジャレッドや元家族に見つかるリスクを考えれば、引き受けない方がよかったと思わないこともない。それでも、ミリウスはセイディの力を買ってくれた。ならば、自分が出来ることはただ一つ。この国を守るために、行動するだけ。そして、万が一見つかったときは――。
(また、移動すればいい。幸いにも、お金はあるのだから)
ここに居ることだけが、人生じゃない。それはよく分かっているつもりだ。セイディはまだまだ若い。選択肢は無限大。だから――別の道を、見つけよう。たとえ、この三人の少年騎士にお別れが言えなかったとしても。そんなことを、思った。
次回更新は金曜日を予定しております(o*。_。)oペコッ
また、今週の金曜日(8日)にヴェリテ公国編の外伝を投下します。これ以上遅くなると絶対に書かないな……と危機感を覚えたためです。一応20時投下なので、本編の更新の方が早いです。
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。