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新しい日々

 ☆★☆


 午前五時。主張を始めた魔力で動く目覚まし時計を止め、セイディは目を覚ました。ちなみに、この目覚まし時計は騎士の一人に貰ったものだ。ここに来てからしばらくした頃にセイディの誕生日があり、それを知った騎士がプレゼントとしてくれた。ほかにもいろいろ貰ったものの、大体のものは有効活用させてもらっている。


 目をこすりながら意識を覚醒させたとき、セイディは「あっ」と声を上げた。今日から、メイド業は有給休暇となっている。つまり、いつも通りに目覚めても意味がない。……そんなことを実感すると、心の底から「働きたい」という欲求が芽生えてくる。朝食作りくらいならば、させてもらってもいいのではないだろうか。


「朝食くらい、作らせてもらっても……」


 とはいえ、アシェルにバレたら怖い。かといって、本当に何もしないのは気が引ける。もう、こうなったら朝食係の騎士に紛れて作らせてもらうか。補佐ならば、何も言われないだろう。うん、そうしよう。そう思い直し、セイディは普段のメイド服ではなく、私服のワンピースに着替える。メイド服だと仕事をする気満々です! というような雰囲気になってしまう。というよりも、セイディ自身がその雰囲気にのまれてしまう。それに、今日からは気品を身に付けるための淑女教育が始まるのだ。そんなもの、メイド服で受けられるわけがない。


 そんなことを思いながら黒いワンピースに着替えたセイディは、寄宿舎内の厨房に向かう。すると、そこではあの三人の少年騎士がいた。どうやら、今日は彼らが当番らしい。


「おはようございます、クリストファー様、オーティス様、ルディ様」


 ただひたすら困惑している三人に背後から声をかければ、三人はぱぁっと顔を明るくする。あの日以来、クリストファーはセイディに対し警戒心を露わにすることはなくなった。むしろ、ルディやオーティスを凌ぐほどに懐いてくれている。


「あっ、セイディさん……って、本日から休暇でしたよね。その、俺たち今日朝食作りをすることになっていて……」


 オーティスが少し困ったようにそう声をかけてくる。そのため、セイディは「手伝います」と言って颯爽と厨房の奥に足を踏み入れていく。それに困惑する三人に対し、セイディは「私は、手伝うだけですよ」と告げた。


 あまり働くと、アシェルに怒られるのは間違いない。ならば、補佐として仕事をする。それならば、まだ許される……と思う。そもそも、リオ曰く騎士たちの料理はあまり美味しくないらしい。ならば、補佐をすることで少しでも美味しくしたかった。


「手伝って、くれるのですか?」

「あまり、表立っては出来ませんけれどね。アシェル様にこってり絞られそうなので……」


 今まで、休日も朝食だけは作らせてもらっていた。ただ、アシェルはそれさえもあまり良しとはしていなかった。休む日は休め。それが、彼の口癖。……働きづめのアシェルにだけは言われたくなかったが、それでも口答えをしたら最後、正論で論破される。それは予想が出来たため、いつも黙っていた。


「皆様、料理をしたことは? 今までの当番とかは、どうされていましたか?」

「僕は……その、ないです。今までの当番も、配膳係……みたいな」


 セイディの問いかけに、クリストファーが一番に答える。それに対し、セイディは心の中で「そうでしょうね」と思った。クリストファーくらいの身分になると、料理などするわけがない。それに、新米騎士なのだ。配膳係に回されて当然と言えば当然だ。


「俺は……焼くのと切るのくらいは」

「僕も、それくらいですかね」


 そして、オーティスとルディはそう答える。……ならば、ここは一番手慣れていそうなオーティスに主導をお願いするのが一番かもしれない。補佐にルディ。一番簡単なことをクリストファーに任せるのが一番いいだろう。


「今日のメニュー、決めていますか?」

「……全然」

「では、今日は食パンが入ってきたはずなので、主食はトーストでいきましょうか。……あとは、昨日料理人が作っておいてくださったコンソメスープを温めて、ベーコンを焼いて目玉焼きでも作りましょうか」


 結局、がっつりと働いているな。そう思いながらも、セイディは三人に指示を出していく。まぁ、この後は地獄の淑女教育が待っているのだ。気分転換がてら働くしかない。アシェルに怒られたら「気分転換です」と言おう。そう、心に決める。


「クリストファー様は、パンを焼いてくださいますか? そこにオーブンがあるので。使い方は……」

「さすがに、それくらいは」

「では、お願いしますね。ルディ様はスープを温めてください。焦げないように注意をしながら、お願いします」

「はい」

「オーティス様は、私と一緒にいろいろ焼きましょう。注意をしっかりと払っていれば失敗することはない……と思います」

「頑張ります」


 三人にそれぞれ指示を出して、セイディは調理器具を取り出していく。それからしばらくすれば、クリストファーはオーブンと格闘しているし、ルディも恐る恐るだがしっかりとやれている。オーティスもすごく手慣れているとは言えないが、それでも必死なのは伝わってくる。……やはり、弟が居たらこんな感じなのかと思わせてくる三人だ。


「すみません、結局手伝ってもらっちゃって」


 一緒に人数分の目玉焼きを作っていると、不意にオーティスがそう声をかけてくる。そのため、セイディは「いえ、好きでやっていることなので」と返す。そう、これはセイディが好きでやっていること。誰かに命令されてやっているわけではない。


(そう言えば、今日から護衛が付くのよね。初日から三日間はこの三人だって、ミリウス様がおっしゃっていたわ)


 ふと、そんなことも思い出してしまう。普通護衛は一人ずつだが、不慣れな三人は数で勝負するということらしい。……そして、どうやら三人は自ら護衛希望を出したとかなんとか。それが嬉しいような、こそばゆいような。不思議な気持ちだった。


「あ、今日から三日間、よろしくお願いします!」


 そんな中、セイディの内心を読み取ったかのようにオーティスが元気よく挨拶をする。なので、セイディは笑って「はい」と返事をした。……厳しい淑女教育も、こんな癒しがあれば頑張れるかも。三人はそう思わせてくれる存在だった。

今回から少しの間は「少年騎士たち」のターンです(o*。_。)oペコッ


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします!(次回更新も来週の金曜日の予定です!)

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