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代表聖女として身に付けるもの

「代表聖女の主な仕事は、光の魔法の披露。そして、祈りをささげることです。王都付近にある神殿のいくつかを回っていただき、民たちに力を披露していただきます」

「はい」

「まぁ、元聖女でしたら、これくらいは知っていらっしゃいますよね」


 そう言って、神官長は朗らかに笑う。そのため、セイディは手元の紙に向けていた視線を上げ、静かに頷いた。


 セイディはヤーノルド神殿で元々聖女として従事していたということもあり、活動していた場所は王都付近ではない。そのため、王都付近の神殿がどういうものなのかはよく分からないが、仕事についてはある程度知識があるつもりだ。代表聖女は、それぞれの神殿で民たちに力を披露し、祈りを捧げる。例年は見栄えや派手さを重要視しており、煌びやかな高位貴族出身の聖女が選ばれていたということも、知っている。


「貴女が『あの』ヤーノルド神殿の聖女ならば、そこら辺は問題ないでしょうね。ただ、一つだけ問題があります。……見栄え、です」

「……見栄えとか、重要視する問題か?」

「殿下。民たちには例年と違うということを悟られてはいけません。もしも、不安の種が広がってしまったら、対処が難しいですからね。なのでセイディ、貴女には今から二週間で代表聖女の仕事を覚え、高位貴族並みの気品を身に付けていただきます」


 にっこりと笑ってそう言う神官長の言葉を聞いて、セイディは頬がひきつるのを実感した。


 正直、代表聖女としての仕事を請け負うだけだと思っていた部分がある。見栄えなど、自らには求められないと。しかし、神官長の言うことはもっともだ。民たちに不安を与えるわけにはいかない。……つまり、セイディはこれから「高位貴族の令嬢に擬態」する必要があるということ。そこまで、自身の動きや品格を引き上げないといけないということ。


「……セイディ、やる気か?」


 ミリウスの視線が、セイディに注がれる。……はっきりと言えば、無理だと言いたい。セイディは元子爵令嬢ということもあり、貴族ではある。が、その扱いは令嬢とは言い難いものだった。さらに言えば、高位貴族並みのレベルの仕草や気品となれば……到底二週間で身に付けられるものではない。死に物狂いで、やっても出来るかは不明だ。それでも……やるしか、ない。


「やります。もうこうなったら、引き返せはしませんから」


 だから、セイディが神官長をまっすぐに見据えてそう言った。だからだろう、神官長は「良い覚悟です」と言葉を返してくる。その後、セイディの側に立つミリウスに視線を向けていた。その目は何かを伝えているようであり、ミリウスはそれを見て「分かった」と言葉を発する。……まぁ、セイディだけは神官長が何を言ったのかを、理解できていないのだが。


「セイディ、お前はこれから二週間勉強漬けになるだろうな。家庭教師も付くし、侍女も一人だけ付ける。……何か、希望は」


 その「希望」とは、いったい何の「希望」だ。セイディは一瞬だけをそう思い眉をしかめたが、すぐに「侍女の希望だ」と理解する。……本音を言うと、気心の知れない人は嫌だ。……そうなれば、セイディが希望を出せる侍女は一人しかいない。


「……侍女は、リリスさんでお願いしたいです」


 今まで、何度か関わってきたリリスならば、まだ気心が知れている。それに、彼女とはまだいい関係が築けている……はず、だ。しかも、彼女はいろいろな事情を分かってくれてくれるだろう。


 そう言う意味を短い言葉に込めてミリウスに伝えれば、ミリウスは「頼んでおいてやる」と告げてくる。……リリスは、今度寿退職すると言っていた。最後の最後に大変な仕事を割り振ってしまったかなと、思わないこともないがこれも仕方のないことだろう。


「では、後は事細かな仕事の説明をさせていただきますね。それから、準備期間のスケジュールも組みましょうか。殿下、護衛は?」

「こっちで勝手に決めておいた。魔法騎士団の団長であるジャックの許可も得ている」

「ならば、話は早いですね」


 神官長はそう言うと、素早く二週間のスケジュールを組み上げていく。あらかじめ決められた護衛と、セイディの希望。それを聞きながら素早く組み上げていく手腕はさすがとしか言いようがない。神殿によって、次期神官長の決め方は違う。ヤーノルド神殿のように血筋を重視するところもあれば、先代の神官長の指名制というところもある。王都の神殿は指名制だという話を、セイディは聞いたことがあった。……確かに、この人ならば次期神官長に指名されてもおかしくはない。


(……そう言えば、ジャレッド様はどうなさっているのかな……?)


 そんな神官長を見ていると、セイディはふとそう思ってしまう。以前、フレディに「ジャレッドがセイディを探している」という情報を貰った。だが、それ以上は何も知らない。もしかしたら、諦めてくれたのかも……なんて、微かな期待を抱くほどセイディはポジティブではない。ただ、見つからないことを祈ることしか出来ない。……まぁ、代表聖女などを務めてしまえば、見つかってしまう可能性は大幅に上がってしまうのだが。それでも、受けると決めたからには全うするだけだ。


「セイディ、少しいいか」

「はい、どうかなさいましたか?」


 そんなことを考えていれば、不意にミリウスが声をかけてくる。そのため、セイディは意識を現実に戻しミリウスに視線を注いだ。彼の、緑色の目とばっちりと視線が合う。その瞬間、背筋に冷たいものが走った気がした。……その目は、何もかもを見透かしているようにも、感じられる。


「……ミリウス、様?」


 そんな目を見ていると、柄にもなくセイディの心がざわついた。それに、ミリウスは口を閉ざしたまま何も言わない。その所為で、微妙な気持ちになってしまう。それから数秒後、ミリウスが口を開こうとした瞬間のことだった。


「神官長!」


 先ほど部屋にいた神官のうちの一人が、部屋に駆け込んできたのは。

ちょっと忙しない状態で、更新が遅れてしまいました……(´・ω・`)


さて、お話は変わりますが明日(9月4日)でこの小説が連載開始されて半年になります!(ちなみに今日気が付きました……)

半年って長いですよね(その割にお話が進んでいないというのは、言わないでください……反省しています)。月間ランキング(ジャンル別)にも入れていただいた本作は、書籍化も決まっておりまして作者一読まれている作品になりました。

初期のコンセプトは『聖女×婚約破棄×騎士団×逆ハー』でした。まぁ、そんなどうでもいいお話は置いておいて。


半年記念に何か出せたらいいのですが、生憎忙しくしておりまして無理です(外伝とかの方も更新したいのに、時間がなくて出来ていないくらいですから……)なので、1年の時に何かやりたいです(願望)


また、最後になりましたが半年も続けられたのは読者の皆様のおかげだと思っております。誠にありがとうございます。そして、今後ともよろしくお願いいたします……!

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